| |
 |
西川教授の研究テーマは「失敗の研究」だ。経営がうまくいかなくなった企業はつぶれてしまうこともあれば、改革を断行して立ち直ることもある。興味深いことに、経営不振の企業は、問題を先送りするほど問題が複雑になり、ますます解決が困難になると誰もが分かっていながら、それでも有効な対策が打ち出せない。
「それは、メンツやプライドのせいです」。教授の言葉は私たちを驚かせた。
「うまくいっている会社もそうでない会社も、それを決めているのは人です。危機や改革の状況では、それまで気にかけてこなかった事が障害として表れてきます。特に、人の集まりとしての組織だからこそ、人としての弱い部分が、様々に結びついて障害となってきます。たとえば、これまでのやり方を捨てなくてはいけないときに、捨てられないのです。人間は弱いものですから、ましてトップに近くなればなるほど、そうなりがちです。このように、会社をつぶすまいとして守っているのに、外から見ると会社をつぶすのに加担している考え方、それが、危機的状況における個々の会社の“企業文化”です。」
「企業文化」とは負の側面だけを持つものではない。正の側面もある。両面を合わせての企業文化だ。同じものが経営環境において、強さとして出るか、弱さとして表れるかだ。教授の研究は、潜在的な企業文化が表面化する危機の場面を通じて、組織の不可思議さを分析しようというものである。さらに、危機的状況への対応研究を通じて、「日本的経営」や日本社会の「文化」の特質も解明していけるという。 |
 |
|
|
| |
 |
実際の企業ケースを挙げてもらった。「日産自動車は外部から来たカルロス・ゴーン社長によって甦りましたが、それは会社内では改革ができなかったということです」。
「ある染色加工会社です。歴史もある、有能な企業でしたが、繊維流通に頼った加工賃商売で、債務超過になりました。ずっと“同族企業”だったのですが、このとき社長を“非同族”に譲りました。その後、この会社は立ち直りました。生産指示に従うだけの加工賃商売を捨て、見過ごしてきた周辺技術を新社長が“発掘”して、それを活かした新商品を、自分たちで企画開発し、今までとは違うお客さんに売り込んだのです」。企業の中心近くにいると企業文化に染まり、同じようなものの見方しかできなくなり、“お宝”の技術も見えなくなる。
企業の海外進出にも、「文化」の観点が重要だ。アメリカ企業の日本進出や、日本企業のアジア進出には、ビジネスや経済制度だけではなく、国ごとの文化というレベルでの障害が伴うという。 |
 |
|
|
|
|
 |
「危機はいつもイノベーティブ(革新的)な方法でやってくる」と教授は言う。危機は今ある文化の中にいる限り、予想できないし、必ずやってくるものである。しかしこの事がわかっていないため、現実を冷静に判断できないトップが、メンツをなかなか捨てられない。「トップが改革の必要を認めたら、自ら身を引かねばならないのです。社長をうまく交替していく仕組みが必要ですが、チームワークも大切です」。日産のゴーン社長を支えたのは、会長塙義一氏だった。彼が社内の"抵抗勢力"を防ぎ止めた。
もっと日本人に合った改革はないのだろうか。
「企業文化をうまく操って、次々と会社を再建させる社長がいます。成功の秘訣は“凡事徹底”のようです」。金にならないことは休日にしろ、と社内に徹底した。たとえば、会議は土曜日に、掃除は就業時間前に。すると、仕事の効率が高まったのだ。日本の会社では、仕事と非仕事との区別があいまいだ。そこで、思い切って逆に明確にし、文化を入れ替えた。「改革は必ず抵抗に遭います。“凡事徹底”はいいやり方ですね。不要なものをそぎ落として、あなたは本当に仕事をしているのかを問いかける日本的なやり方ですから、上司も部下も同じ土俵で、師匠と弟子のように切磋琢磨して、むしろプライドを刺激します。遅刻や欠勤など、日常的な“凡事”から意識改革を進めるのは日本人向きだと思います。つまり日本の企業が世界に誇るべき特質は「まじめさ」なのです。戦略的な視点も欠かせませんが、この潜在力をうまく引き出すと、会社は危機状態を乗り切ることができます」。
|
 |
|
|
|
|
 |
EBA総合コースでは、「教えない教育」を実践している。教室で先生から教えてもらうのではなく、まず自分で調べることを重視する。そして、調査したことを報告する中で、学生が自分でよく理解できていない点に気づく。そのとき、不明なポイントを解いていくためのヒントを先生が与える。つまり、学生がつまずいたときに初めて教えるのだ。「企業と同じように、失敗したときが一番良よく学べるのですよ」。
教授は「強いアタマ」を育てたいと言う。それがEBA総合コースがめざす「教養」なのだ。事例研究で洞察力を鍛えることはもちろん、素直さや行動力、それに精神力を磨く。目的は学生たちに新しい行動スタイルを確立させることだ。「失敗し、失敗から学んで立ち直り、再び挑戦していく。そういう“強いアタマ”を持った人間を育てたい」。失敗の研究とは、企業ばかりではなく、人間をも再生させていくものだった。 |
 |
|
|