ゼミ紹介「東アジアの歴史と文化」
 私自身は中国史専攻なので、中国の社会や文化に関するテーマが中心となりますが、中華の文明が影響をあたえた範囲は時間的にも空間的にも広く、ほとんど全世界に及ぶといってもよいでしょう。したがってゼミ参加者の関心も、必ずしも中国という枠にとらわれず、広く東アジア・東南アジア地域に跨っています。
 東アジア・東南アジアを対象とする歴史研究は、この20~30年のあいだに大きく様変わりしてきたように思います。中国史についてみても、それ以前の一国史的な政治史・革命史・事件史中心の研究から、国の枠を越えるヒトやモノや情報の流れ・人々の日常の生活や意識のあり方などへと多様化し、社会に密着した、より身近なテーマにも関心が注がれるようになってきました。
 しかし、中華中心主義的発想から脱却することは容易ではありません。ゼミでは、昨年後期から、一国史的な歴史の見方を再検討する試みを断続的につづけていますが、そこで改めて感じさせられているのは、中国・朝鮮・日本などの「漢字・儒教文化圏」やいわゆる「中華思想」的世界観といったもう少し広域的な枠組みの壁です。ゼミのみんなには、こうした既存の枠をこえて、さらに自由で柔軟な発想を大事にしてほしいと思っています。

 私たちのまわりには様々なアジアがあります。写真は、今年の五月、ゼミのみんなと神戸にある諏訪神社に参詣したときに撮ったものです。理由はよくわからないのですが、神社でありながら神戸在住華僑の信仰をあつめているところです。開港場だった神戸には、アジア・中国ゆかりの場所が、有名無名を問わずたくさんあります。そうした場所をみんなで訪ね歩いてみたいというのが、私の希望の一つです。歴史の研究は「デスクワーク」と思われがちですが、そしてそれは確かな一面ではありますが、それに劣らず「フットワーク」もまた重要であると、ゼミの諸君には常々話しています。

■最近の「 卒業研究」題目
  雲南省少数民族の歌垣の世界観
  考古学的観点からみえる中国古代の王朝
  タイのアユタヤ時代における外交政策
  満州映画協会の宣撫工作
  在満日本人による社会形成の研究
  北宋開封──都市生活と食文化

記念写真(諏訪神社)
記念写真(諏訪神社).


■史料の紹介
 画像は、アルメニア系イギリス人のCatchick Paul Chater (1846-1926) のコレクションを紹介した The Chater collection, pictures relating to China, Hong-Kong, Macao, 1655-1860 という本(1924年にロンドンで出版)から採ったものです。Chater はインドのカルカッタに生まれ、香港で活動した実業家・政治家でした。コレクションには、マカートニー使節団に随行した画家 W.Alexander の貴重な作品も収められています。使節団の来航は、東アジアを舞台とする文化の接触や交流を新たな段階へと導く出発点となりました。ビジュアルな材料を用いて文明間の交流を描く、そんな「卒業研究」に誰か取り組んでみませんか。
1)長江に入るマカートニー使節団
  1793年 水彩画 W.Alexander
2)乾隆帝
  1793年 版画 W.Alexander
3)カントン附近の橋のたもと
  1838年 リソグラフ A.Borget
4)カントンの街角
  1841年ころ 版画 T.Allom
5)イギリス製品の販売
  1850年ころ リソグラフ C.Wirgman


甲南大学 文学部 歴史文化学科 稲田清一

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