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甲南大学の研究力

生きる苦悩と精神分析臨床

不確かに感じられる世の中に生きる人の苦悩と、苦悩を抱えた人を支える精神分析臨床モデルの構築

文学部 教授
公認心理師養成センター 所長

富樫 公一

生きることの不条理を人はどのように人生に組み込むのか

戦争、災害、事故、犯罪などは、多くの場合、偶然に、明確な理由なく人を襲います。差別、人間関係の破綻、喪失などもまた、予測不可能性や不可知性を含んでいます。人生の多くのことは、どうしようもないものですが、人はそれでも生きていきます。私は米国の研究者とともに、9.11、阪神淡路大震災、東日本大震災を体験した方へのインタビュー調査の結果や、臨床事例を検証することによって、人が人生の不条理さをどのようにとらえ、どのように人生の中に組み込むのかを明らかにしようとしています。

精神分析の倫理的転回

精神分析臨床家は、目の前の人に向き合いそこでかかわります。その際に私たちは、理論を持ち、技法を頭に描き、そして治療目標を持ちます。これまでの精神分析はそうした理論モデルを作り、それを頭において臨床に向き合う方法を第一に考えました。私たちは、そうした理論を学んだあとに、クライエントや患者に会うことを当然のこととしてきました。もちろん、専門家は理論を徹底的に学ばなければなりません。しかし、本来臨床家は、理論を学んだあとであっても、理論を頭に描く前に目の前の人に会い、そこで関係を紡ぎます。近年のアメリカ精神分析には、そこに生じる責任や関与の在り方を探求するムーヴメントが興りました。それを「倫理的転回」と呼びます。私はそういったムーヴメントを引っ張る臨床家・理論家の一人として、主に米国でさまざまな考えを提唱しています。

関係性への転回と精神分析的システムモデル

1980年代になると、アメリカの精神分析はそれまでの精神分析モデルの再検証を始めました。その中では、従来の精神分析の権威主義、医学モデル、病理モデル、一者心理学的モデルが批判され、患者やクライエントをより人間的に捉えるモデルが提唱されるようになります。特にそこでは、患者やクライエントの問題や苦悩は、彼らの問題だけに帰属されるものではなく、環境や治療者との関係の文脈の中で浮かび上がる関係システムの問題ととらえられるようになりました。そうしたムーヴメントは「関係性への転回」と呼ばれますが、私はその中でも特に、非線形動的システム理論や複雑系の考え方を精神分析臨床に適用する臨床モデルを提唱しています。

【研究助成】

○科学研究費助成事業基盤研究(C)(平成27年度~平成31年度)

トラウマ体験者の不条理感と、それを人生の中に組織するプロセスに関する研究

○甲南学園平生記念人文・社会科学研究奨励助成

トラウマ体験者がトラウマの不条理さを人生の中に組織するプロセスに関する精神分析的考察

 

2017年度より掲載