2017年度卒業論文・井上翔太(髙田ゼミ):手紙を書く貧者-産業革命期における貧民の生存戦略-

私の卒業論文は、イギリス産業革命期の「貧者の手紙」についてです。扱った手紙は、公的救済に当て貧者が申請を行う為の手紙であり、被救済権の行使として主体的に救済を求める貧者の声を聞くことができる。「貧者の手紙」の中でも、13年間で31通申請の手紙を出したSoundy家族や、10年間で52通申請の手紙を出したWilliam家族に注目し、家族の貧困問題を考察した。子供に対する救済が救済理由として頻出し、これが戦略として有効であったことがよくわかる。貧者の手紙は、内容が抽象的から枚数を経るごとに具体的になっていき、同情を引くようなレトリックが見られる。また、1834年の救貧法改正以降の手紙は、数も少なくなっていき、ほとんどが救済を拒否される形に終わってることから、公的救済に向けた「貧者の手紙」は18世紀から1834年までの期間限定的な生存戦略の断片であると考えられる。今後は様々な面から、貧者はなぜ手紙を書いたのかを考察していきたい。

図 這いずり人 (出典:『写真と文によるヴィクトリア朝ロンドンの街頭生活』(2015、185頁))