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現代人のメンタリティに関する総合的研究

人間科学研究所は、過去15年にわたる研究事業 ― 学術フロンティア推進事業平成10 - 19年(1998年 - 2007年度)、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業平成20-24年(2008-2012年度) ― を通じて、一方では臨床心理学によるトラウマ治療の地域に根ざした実践と治療方法の開発という優れた成果を蓄積してきたが、他方では、それを臨床の枠にとらわれず、他の人文諸科学と協働しながら集合的社会事象の理解に繋げるという特色をもつ。その特色を活かしつつ、15年間に培ってきた研究および実践的ネットワークを継承し、「サヴァイヴァル」「主体形成」「危機」をキーワードに新たな問題設定を行ない、一貫して実践から出発して概念の整理と構築を試みる。研究は、芸術療法を含めて多様な臨床研究・実践を行なっている研究員が、危機を生き延びた人々に新たに支援を強化するため、個々のアプローチを尊重しつつ、それを超えていかなる協働が可能かを探り実践に移してゆくプロジェクト1「ライフヒストリーと記憶のあり方を核にした理論的・実践的研究」、心理臨床をめぐる国際的状況変化の具体例を出発点に、グローバリゼーションの動きを標定しながら、対抗グローバリゼーションの足がかりとしてのローカルな生活圏再興の可能性を追求し、かつ全体のコンテクストとしての民主主義を歴史的・思想的に考察するプロジェクト2「グローバル化とローカルな共同性の民主的再興」、および心理臨床と協働しながら、主に芸術活動のなかでの自己表象の形成のあり方を、メディアテクノロジーの多大な影響を勘案しつつ探求するプロジェクト3「主体表象の危機と感性的経験の現在」からなる。

高度成長が終焉し超高齢化社会を迎えながら、国際的にはグローバリゼーションの浸透が、大規模災害とあいまって様々な不安を生み、その対抗策としてオルター・グローバリゼーションの試みがなされている。そのなかで臨床心理と芸術による実践的ネットワーク構築を図り、地域における寄与を具体化して行く。以上の研究を本学の教育へとフィードバックし、思想・環境・芸術教育へと反映させ、また、臨床心理士資格第1種指定を早くから受けた人間科学専攻における専門家養成と、甲南大学カウンセリングセンター(心理臨床カウンセリングルームと学生相談室)での臨床活動を一層充実させ、これまで形成してきた理論面・実践面でのネットワークをさらに強化・拡大し、地域での連携をさらに充実させて行くことを目指す。

1. ライフヒストリーと記憶のあり方を核にした理論的・実践的研究

前回の研究事業では、阪神地区において子ども時代に太平洋戦争を経験した人々の意識調査と疎開体験調査を行ない、それをもとに心理学的分析と歴史学的分析を行なった(後者においては地域の学童疎開史料集を編纂している。)。また、トラウマ的記憶の整理を行う心理療法実践研究を並行して行い、両者の相互刺激を図ってきた。その成果を踏まえながら、心理学、歴史学、芸術学の協力により、記憶の整理、表現の問題にさらに踏み込んだ考察を行う。

2. グローバル化とローカルな共同性の民主的再興

政治・経済のグローバリゼーションが生む否定的効果に対抗して、グローバリゼーションに対立しない形でオルター・グローバリゼーションの運動が世界各地に広がっている。そこにはローカルな生活圏の再編も含まれる。本プロジェクトは、以上の2プロジェクトを踏まえ、臨床実践と芸術活動、および歴史研究を統一的に「技芸」(アート)として捉えて、地方共同体のサヴァイヴァルへの支援と支援の視点からの凛論的問題点の摘出を試みる。その一方で、心理療法が巻き込まれている事例の研究によってグローバル化への圧力を分析し、最後に、(オルター・)グローバリゼーション時代における新たな民主化の可能性を、歴史学的および思想的に考察する。

3. 主体表象の危機と感性的経験の現在

本研究所において実施されてきたプロジェクト「芸術学と芸術療法の共有基盤確立に向けた学際的研究」の成果を引き継ぐかたちで心理臨床領域の研究者と芸術学研究者との学際的な共同を進めながら、芸術創造行為における自己像の変化へと問題点を明確化し、研究の精緻化と深化を図る。

第4期のプロジェクトに関連した研究活動はリンクを参照してください。