カテゴリー別アーカイブ: 4. 教員おすすめ (推薦本、本の読み方など)

古田清和先生(共通教育センター)「紙の本と電子書籍」

☆新入生向けの図書案内
 大学入学前に、本を読む場合は多くは教科書類・文庫・漫画であろう。日常生活での情報については、ネット上に溢れている情報をスマホやパソコンで簡単に入手していたのではないだろうか。
 大学では学びの中で様々な情報を入手する必要が出てくる。1年生が選択する共通基礎演習の学生も課題の作成過程ではほとんど本・文献によることなく、ネット検索やHP にアクセスして得た情報を議論し加工している。これらの学び方も一つの方法としてはありうるだろう。では大学生の日常に本は関係してこないのだろうか。ここでは、紙の本と電子書籍について学習・資格・趣味に分けて考えてみる。
 文献としての本には、誰が(著者)いつ(出版年月日)どこで(出版社)出したものかが明示され責任の所在が明確である。基本文献や参考文献は本から入手し理解することが多い。レポートの提出にあたり引用・参考文献を明示するのは当然である。ただ最近は電子ジャーナル化しているものも利用可能である。一方、ネット上の情報は、誰が・いつ・どこで、出したものか明示されていないものも多数あり、その場合、情報の信憑性に疑義が残り、利用にあたっては十分に注意する必要がある。
 資格試験(例えば日商簿記検定・税理士・公認会計士)の取得を目指す場合は、紙のテキストが中心であり電子化されたテキストでは使いにくいのではないだろうか?講義はウェブ上で行われることも多いが、本番の試験は答案用紙に記述するので、紙のテキストに書き込んで使い込む必要があるだろう。
 一方、小説や漫画はどうであろうか、最近では、紙の本と電子書籍の同時発売や、中には電子書籍が先行するものもある。電子書籍はスマホやタブレットで読める手軽さと、例えば文庫本5冊とタブレットの中にある5冊では持ち運び等を考えるとスペースをとらないという大きな利点がある。
 大学では、本に接する機会は増えるが、TPO に応じて情報の内容種類を選択し、有意義な学生生活を送ってもらいたい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


伊東浩司先生(スポーツ・健康科学教育研究センター)「学園のルーツ」

☆新入生向けの図書案内
 3年連続で図書館報「藤棚」を書かせていただきました。昨年書かせていただいた「藤棚」を読み返してみると年月が過ぎていくのが早いのと自分自身を取り巻く環境が目まぐるしく変化していることに驚いています。自分自身、新たな扉を開いて入学してくる学生の皆さんに読書の大切を、この「藤棚」に書かせていただいていますが、自分自身どれぐらいの本を読んだかというと、雑誌などを流し読みはしていましたが、じっくりと一冊の本をほとんど読んでいないかったことに気がつきました。何かを読んだり、調べたりすることのほとんどがインターネットでした。その本を読むことがなかった1年を振り返ってみると、自分自身の生活にゆとりを持ててなかったことに気がつきました。
 2018 年度入学された皆さんは、これからの学生生活に夢や希望に満ち溢れていることだと思います。勉学・スポーツなど多くのことに取り組んで欲しいと思いつつ、現実を忘れて本を読むゆとりの時間を持ってほしいと思います。私自身、仕事のことなどで悩んだことがあったときは、吉沢理事長先生にご相談することがあります。その時、理事長先生から必ず、私自身が悩んでいることを乗り越えるためのヒントとなる言葉を紹介していただいています。何を紹介していただいているかというと、本学園創立者の平生釟三郎先生の本を通じて、平生先生の言葉や実際に行動した出来ことなどを紹介していただいています。当然、その時代と現代の時代背景は異なりますが、その一言一言などで、私自身を一歩踏みとどまらせて、冷静に物事と向き合うことができています。この平生先生の考えを4年間かけて学んでいただき、建学の精神でもある「人格の修養と健康の増進を重んじ、個性を尊重して各人の天賦の特性を伸張させる」甲南生になっていただきたいと思います。この「藤棚」を書くことをきっかけにして、私自身、平生先生のことが書かれている「平生釟三郎・伝」を読んでみました。皆さんも、平生先生を初めてとする様々な分野で活躍された方々の本を読んでみたらいかがでしょうか、自分自身の成長にきっとつながるかと思います。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


吉田桂子先生(国際言語文化センター)「本が読めるのも…」

☆新入生向けの図書案内
 留学準備・英語集中コースの中級英語Writingという授業では、TOEFLR やTOEICR テストを実施している米国のETSR という会社が作成した、CriterionR オンライン・ライティング添削システムを活用しています。教員がリストから選択したテーマについて、学生のみなさんが自分の意見を英語で書いてSubmit(提出)ボタンをクリックすると、瞬時に点数とコメントが表示され、どこをどのように直せば良いかがわかるようになっている自主学習用ツールです。秋学期に4つのテーマについて、このCriterionR オンライン課題を実施しました。その1つ目のテーマがExperience or Books でした。「経験から得た知識と書物から得た知識を比較し、どちらが自分にとっては重要だと思うか理由とともに論じなさい」という課題です。書物にあることは必ずしも自分には当てはまらない、経験した方がインパクトがある、スポーツのフォームなど感覚的な知識を書物から学ぶのには限界がある、といった理由で、経験からの学びを重要だとする意見。現代の社会では、一般的に人は多くの経験をする前に、学校で書物からさまざまなことを学ぶのであり、そのことには意味があるという理由で、書物からの知識が重要だとする意見。それぞれ、説得力のある例をあげて、意見を論じていきます。
 このテーマExperience or Books に含まれる2つの選択肢を見た時に、その前提として、人はこの2つから学べるのだということを改めて考えました。その時に、私が大学生の頃に読んだ本、鹿取廣人・重野純訳 『言葉をもった哺乳類』(思索社 1985 年)(原書はJ. Aitchison, The ArticulateMammal, Hutchinson, 1983)を思い出しました。Aitchison は、大部分の動物は一定数のメッセージを運ぶ決まった数の信号をもっていることを紹介しています。例えば、セミやサルはいくつかの音声を使い分けてメッセージを送り、ハチやイルカはより複雑なコミュニケーション・システムを持ち、ワシューという名のチンパンジーは身振りを自発的、創造的に組み合わせることができます。書き言葉についてはどうでしょうか。チンパンジーのサラは、ふじ色の三角形「りんご」、赤い四角形「バナナ」などの記号を用いて作られた指示文を正確に理解することができました。しかしいずれにしても、彼らが学んだシステムは人間の言語よりも複雑ではなかったと報告しています。このようにわたしたちは、Aitchison の記したこの本を通して、多くの研究者の実験や経験から得られた発見について学び、Experience とBooks の両方から学ぶことができるヒトという種の特性とありがたさについて、再認識することができるのです。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


三好大輔先生(フロンティアサイエンス学部)「「どう生きるべきか」 vs.「どう生きたいか」」

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 ご入学おめでとうございます。新しい生活や環境に期待と不安がない交ぜになられているかもしれません。18 歳の今まで違う場所や学校で過ごしてきた同級生が集まって、新生活が始まります。楽しみとともに大変なことがあるのは当然かもしれませんね。でもフレッシュで有意義な学生生活を過ごせるように、教職員一同で全力でサポートしていることも忘れないでください。皆さんが新生活を始めるときにお勧めしたい本が、『君たちはどう生きるか』吉野源三郎著(岩波文庫)です。実はこの本は、中学生の娘が読もうと持っていたのですが、私も読んだことがあって、懐かしく思ったものです。宮崎駿監督が映画化しようとされていて話題になっていますから、ご存知の方もいるかもしれません。『君たちはどう生きるか』が発行されたのは、1937 年です。戦争の影が色濃くなってきている頃です。著者は言論統制などが行われつつあった当時、子供には良い本を読んでほしいと思い、また反戦の気持ちも込めてこの本を記したそうです。ちょうど発刊されてから80 年です。日本が再び周辺の国々との軋轢を感じ始めている今日この頃に、本書を原作とするコミックやアニメが作製されるのは偶然では無いのかもしれません。
 本書の主人公は、コペル君というお父さんをなくした中学生です。コペル君が日々感じたことについて、お父さん代わりの叔父さんが将来のコペル君にメッセージを記していきます。日々の様々な気づきについて叔父さんがその意味や意義を丁寧に解説していきます。コペル君の純粋な思いと、叔父さんのコペル君を思う気持ちが、私たちの心を熱く、暖かくしてくれます。人が生きていくうえで大切なことが、時を経ても普遍なのかもしれません。新しい環境で新しい友人と始める何気ない日常にこそ、これからの人生に大切なことが潜んでいることを再認識させてくれるのが本書だと思います。私も30 年ぶりほどに読んで、気持ちを新たにしています。中学生に向けて80 年前に書かれた本が、50 を前にしたオッチャンに「どう生きるか」を考えさせてくれます。他人から「どう生きるべきか」と諭されるのではなく、これからの「人生をどう生きたいか」を、新しい仲間との体験から考えてみてはどうでしょう。新生活を始めるこのタイミングでぜひ皆さんにもぜひ読んでほしいと思います。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


JONES Brent A.先生(マネジメント創造学部)「座って楽しめる冒険」

☆新入生向けの図書案内
 この機会に甲南新入生の皆さんに私の読書にまつわる楽しい思い出と読書、特に図書館へ行くことの喜びや価値についてお話ししたいと思います。私は長年にわたる読書が私に多くのエンターテイメントを与えてくれたと同時に、私を人間として磨き、人生のチャレンジに向かって生きていける準備を整えてくれたと硬く信じています。私の話を最後まで読んで下さい。きっといいことがあります!
 まず、私が大変幸運だったのは読書を愛する母の存在と、母がその楽しさを子供と共に分かち合ってくれたことです。家に置いてある本や図書館で借りてきた本を通して、私は遠くの地を旅行することができ、いろいろな文化に触れ、多くの冒険に参加することができました。幼少の頃好きだったのは『ロビンソン・クルーソー』(ダニエル・デフォー著)、『千夜一夜』(多数著者)、『アウトサイダーズ』(S.E. ヒントン著)です。これらの物語は私の世界に対する理解を深め、私の性格や個性の形成に大きく影響を与えました。また、私は雑誌も好きで、ナショナルジオグラフィック、ポピュラーメカニック、ボーイズライフなどを読み、マッドマガジンなどにも寄り道していました。日本に来たのも読書の影響があります。18、19 歳の頃にハワイのカウアイ島の北海岸にキャンプ旅行に行った時、ジェームス・クラベルの1152 ページに及ぶ『将軍』を読破しました。優れた本にはありがちですが、私はこの小説に浸透し食事やその他のことも忘れるほど没頭しました。
 勉強の面では、私は学術的書籍に大いに恩恵を受けました。高校生として学校の図書室に通うことを教え込まれ、優れた百科事典に感心しました。たくさんの知識が図書室の1棚1棚に集まっていることに畏敬の念を持ちました。もちろん現在ではインターネットがありこれらすべてのものにアクセス可能です。しかし、図書室の安らぎへ逃げ込む事は楽しさの1つです。トピックからトピックにジャンプし空想に深く入り込むものは本当にこの上ない喜びです。スマートフォンなどの最新技術がこのような喜びを現代の、そして未来の若者から奪わないことを願います。
 私の専門は外国語教育ですが、私はいつもビジネス関連の団体や学部と共に仕事に取り組んでいます。このことから、私はビジネス分野の本をかなりの量読んでいます。その中で多くの概念や理論は私の研究分野、教育に応用できるからです。これは幅広い分野の本を読むことの喜びや価値であり、私の人生の他の部分にリンクし、重なります。
 私の読書習慣は、良い悪いかはわかりませんが、いくつかの本を同時に読むことです。その時の気分によりあっちこっちと別の本を読みます。また、読んだ物語や考えについて友達や家族と話し合うことも喜び を違った次元に持って行ってくれ、本からの知識や経験を自分のものにする手助けをしてくれます。
 みなさんが多くの本の冒険を楽しめますように。さて、私も自分の読書に戻らなければ。
 で、いいことって何でしょう?それは、冒険と知識の世界です…すべては甲南大学の図書館にありますよ。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


古田美保先生(経営学部)「吉田洋一著『零の発見〜数学の生いたち〜』岩波新書」

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 経営学部は文系学部であり、入試でも数学の素養は必ずしも問われていない。そのこともあってか、学生の中には数学への苦手意識を持つ者も少なくない。その延長線で、「(数学が苦手だから)会計学も苦手で」と言われることが多々あり、その都度「会計学は数学とは異なるものであり、数学の知識は必ずしも問われない」と説明するのだが、内心忸怩たるものを感じている。彼らにも一度考えてみて欲しいのだが、苦手だったのは「数学」ではなく、「数学の試験」だったのではないだろうか。大学受験を終え、進む道を選べば数学の試験を受ける必要はそう多くなくなったことと思う。であればこそ、本当の数学とは何かを考えてみるきっかけになればと願い、本書を紹介する。
 本書の前半では零という表記がいかに画期的なものであり、その概念はいつ発生したのかを平易に説明し、後半では零の概念から派生する数列・数直線についていかにも数学者らしく説明する。正直に言えば、標題の「零の発見」については位取り表記のためという説明となっており、1と−1の間の数である「零」の発見という観点からは疑問を残す説明になっている気はする。しかし、この本を初めて読んだ時、中学くらいだったか、実に身近な「零」のかように重大な意義に気づかされ、まさに「目から鱗」の心地だった。そもそも「数えるため」であれば正数だけで足りる。しかし、「零」の概念なしには日常を過ごすことも困難だ。まさに起点、原点であり、ここから正と負、実数と虚数の概念が生まれ、また文学的表現としても経営学的経済学的分析としても豊かさを生じさせる。まさに「零」という「無」が「有」を生んだ発見であり、同時に身近で見過ごされやすいことを熟考することの意義を考えさせられた。
 本書を含め、岩波新書や講談社ブルーバックスシリーズはこのような驚き、発見に溢れたシリーズだと思う。読書や日々の思考を豊かにする材料にもなる。図書館を活用し、ぜひ手当たり次第に読破してもらいたい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より