「4-1. 教員おすすめ (推薦本、本の読み方など)」カテゴリーアーカイブ

[藤棚ONLINE]法科大学院・宮川 聡先生推薦『陽気なクラウン・オフィス・ロウ』

図書館報『藤棚ONLINE』
法科大学院・宮川 聡先生推薦

 今回紹介するのは、大阪出身の小説家庄野潤三(1921年2月9日-2009年9月21日)の旅行記『陽気なクラウン・オフィス・ロウ』(初出1984年)です。
 旧制住吉中学(現在の府立住吉高校)在学中に英語の先生に勧められて初めて手に取ったチャールズ・ラム(Charles Lamb)(1775年2月10日-1834年12月27日)の『エリア随筆(Essays of Elia)』に感動し、いつかはラムゆかりの地を訪れたいと熱望していた筆者の夢が叶った訪英の際の紀行文です(余談ですが、私の指導教官も住吉高校の卒業生です。なお、著者が大きな影響を受けることになった住吉中学の国語教師で詩人でもあった伊東静雄との交流の様子については、『文学交友録』に詳しく書かれています。)。
 現在大学で学ばれている皆さん(英文科は当然別ですが)は、おそらくチャールズ・ラムは知らない人の方が多いと思いますが、英国では非常に有名で前述の『エリア随筆』は随筆の傑作と高く評価されています(英語自体は必ずしも難しすぎることはないので、一度読まれてみるとよいでしょう)。
 もともとラムは、法廷弁護士(barrister)の秘書を務めており、タイトルになっているクラウン・オフィス・ロウはインナー・テンプル(Inner Temple)法学院(イングランドとウェールズにおける法廷弁護士の育成・教育を担当する4つの法学院の1つ)すぐそばの法律事務所などの所在地です(Crown Office Rowをグーグルで検索すると、One Crown Office Rowという法廷弁護士事務所がでてくることからもわかるように、現在でも、このあたりには法廷弁護士の事務所がたくさんあります。)。
 ラムの人生を丹念にたどりつつ,彼が活躍していた頃のロンドンと比較しながら,とくにロンドンでの滞在先であったホテルの従業員たちとのやりとりも含めて、1980年代のロンドンの様相を生き生きと表現した文章は非常に魅力的でぜひ英国に興味があるならば、手にとってみることをおすすめします。私も,初めてロンドンを訪れた1991年にインナー・テンプルなどを訪れ、改めてこの本の中で著者が描いていたのと同じ印象をもち感心した記憶があります。
 残念ながら、新型コロナウイルスが猛威を振るっている現状では、英国を訪れるのはほぼ不可能ですが、数年後には再訪の機会を得たいものです。そのときには、あらためてクラウン・オフィス・ロウを訪れることにしましょう。


[藤棚ONLINE]国際言語文化センター・MACH Thomas先生推薦『Just Enough: Lessons in Living Green from Traditional Japan(江戸に学ぶエコ生活術)』

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国際言語文化センター・MACH Thomas先生推薦

Do you enjoy studying history? Some people will answer “yes” to this question, but I think most people will answer “no” or “not much.” In other words, history is probably not a very popular subject for most people nowadays. That’s too bad, and I guess it is caused by how it has typically been taught. Too often, students view history as mostly just names and dates and events that they feel pressure to memorize. An episode in history, though, can suddenly become fascinating for us when we find a teacher or a book that concretely shows us how something from the past can connect to us now and help our modern lives.

I felt this sort of jolt of fascination when I first came across Just Enough, a book about Japan’s Edo Era. The author is an architect (建築者)who is mainly concerned about sustainable living(持続可能な暮らし方). So, he approaches Edo Era history with a very specific purpose in mind: he wants to show us practical techniques and lifestyle hints that we can rediscover from the Edo Era. He then helps us to see how those things could help us to live in more eco-friendly ways today.

Most history books focus mainly on powerful or famous people. When you think of the Edo Era, you probably first imagine samurai, right? But, of course, samurai were actually only a small percentage of the overall population at the time. Just Enough does include a chapter on the lifestyle of samurai, but most of the book focuses instead on things like the home design, neighborhood layout, and daily lives of ordinary people. Where did they get their drinking water from? How did they get their shoes repaired? What did they do with the ash from their cooking stoves? How often did they bathe? And why did Japanese homes develop to include engawa in their design? And sliding doors? And tatami? These are the sorts of lifestyle and design questions that the book explores.

Here is the most important point: The reason the author looks so carefully at ordinary Edo lifestyle is because the Edo Era was a time of relatively large population combined with limited resources. A big reason for resource scarcity was the sakoku policy, meaning Japan was mostly cut off from global trade and so people had to figure out how to make their lives better with the limited goods and resources available to them. Since Japan is a mountainous island country that hardly has enough farmland to feed its people, this was a huge challenge! Throughout most of world history, when you mix these two conditions together (many people and scarce resources), the end of the story is usually tragic – things like devastating wars, out of control pandemics, or enslavement. So, especially from a sustainability perspective, the Edo Era is one of world history’s very few success stories. Despite scarce resources, people at the end of the Edo Era were generally more healthy, better fed, better educated, and living longer compared to the beginning. Also, the forests had been expanded and the farmland had become more fertile than before.

How did Edo society generally manage to improve despite all the limits? This is the key question that Just Enough explores. And the reason it is so important for us today is because it is the same challenge we now face on a global scale. As world population grows and people consume more and more, environmental damage is increasing and we are feeling the limitations of global resources. How can we reverse the negative trends and actually improve our lives and our environment despite the limits? Just Enough is one history book that can inspire us to think of new solutions based on traditional know-how. At the very least, it will help you to rediscover the Edo Era by helping you to look at it through a new lens – the lens of sustainability.


[藤棚ONLINE]フロンティアサイエンス学部・鶴岡孝章先生推薦『おいしいおと』

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フロンティアサイエンス学部・鶴岡孝章先生 推薦

 藤棚ONLINEでは非常に多くの書籍を推薦していますが、これまでとは異なる視点で「絵本」紹介をしたいと思います。というのも先日、絵本「いないいないばあ」が、国内で発行されている絵本で初めて発行部数700万部を超えたというニュースを目にしたからです。大人になるとなかなか手に取ることがない絵本ですが、まだ字が読めなかったり、話すことができない子ども達の注目を集めるために様々な工夫がされています。そのなかで皆さんに紹介したいのが、「おいしいおと」という絵本です。皆さんは料理を食べるときには五感すべてを使っていて美味しい、美味しくないなどを判断していますよね。この絵本では料理を食べるときに聞こえてくる音にフォーカスしています。実際に私が読んだ印象ですが、その音の表現が意外、違和感、独特といった印象で何かしっくりこない感じがします。その理由が知りたくて、少し作者について調べてみようと思いました。実は、この絵本の文を担当している作者は全盲のエッセイストで、耳で情報を得ることが非常に重要な生活を送るなか、あえて耳からの情報では無く、自身の内から聞こえてくる頭の中で響く音を文字に書き起こしたそうです。この情報をもとに改めて本を読んでみると、なんとなく分かる気がするような感じになるとともに、知らないうちに耳から聞こえてくる音として決めつけていたんだなと、自身の中にある固定概念に気づかされました。
 以上、今回は「おいしいおと」という絵本を紹介しましたが、今世界が危機的な状況にあるなかですが、読書をする時ぐらいは時間を気にせず、昔の気持ちに戻り絵本を楽しんでみてはいかがでしょうか。昔に思い描いていた将来を思い出したり、新たな自分に出会えるかもしれませんよ。


[藤棚ONLINE]マネジメント創造学部・中村聡一先生推薦『国家』『ニコマコス倫理学』

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マネジメント創造学部・中村聡一先生 推薦

プラトン『国家』とアリストテレス『ニコマコス倫理学』はリベラルアーツには欠かせない主要図書であります。ラファエロ作『アテナイの学堂』の中央に位置するプラトンとアリストテレスが書籍を手にしておりますのをご覧ください。プラトンが手にするのが『ティマイオス』。アリストテレスは『ニコマコス倫理学』です。

アテナイの学堂

プラトンの『ティマイオス』は、プラトンの主要作品である『国家』の後半部分に収録されております「イデア論」を発展させる形で書かれたものです。彼から見て後世のネオプラトン派の学説とイエスという若者の存在を結び付ける形で、後のキリスト教神学に大きな影響を与えたといわれます。

アリストテレスが手にししている『ニコマコス倫理学』は今回の私の推薦図書のうちの一つです。

リベラルアーツとはなにか、耳にしたことはあるが、なんだかよくわからないという方が多いと思います。リベラルアーツの発祥は古代のギリシア学問とされますところ、これを「ヘレニズム」と呼びます。

ギリシアがクレタの王女ヨウロペに因んで「ヨーロッパ」と呼ばれることになった西暦でいうと紀元前二千年頃の逸話から、その後のトロイア戦争、ペルシア戦争、ペロポネソス戦争を経て、ソクラテス、プラトン、アリストテレスらに代表される”ヘレニズム哲学”が生まれました。

その後、アレクサンドロス大王の東方遠征、古代ローマの時代、キリスト教の誕生、イスラム教の誕生、そして十字軍遠征やルネサンスを経て、時代は近代へと移行していきます。大航海の時代、宗教戦争の時代を乗り越え、サイエンスや近代政治哲学を生み出してきました。この間、じつに数奇な道筋を経て、「ヘレニズム」は受け継がれてきたのです。

現在の私たちまで続くこの四千年ほどのヘレニズムの軌跡を追いながら、この間に生み出されてきた哲学や宗教、文学や芸術そしてサイエンスの成り立ちを学んでいくこと、これを”リベラルアーツ”と呼びます。

この西洋学問の概念であるリベラルアーツは、元々、西洋社会のエリート層には必修です。そして急速にグローバル化する現代社会において世界的に必須の素養になっています。

意識ないかも知れませんが、じつは日本にもここ数百年のあいだに二回も大きな歴史的転機をもたらしているのです。

最初のそれは、日本が戦国時代にあった西暦では16世紀にありました。その頃、西洋社会では新大陸発見により大航海の時代にありました。ポルトガルとスペインがこの時代をリードしました。この二か国でアメリカ大陸を境に世界を半分づつ領有する取り決めまでしたほどです。彼らからみて東半分をポルトガルが、西半分をスペインが領有する計画でした。だから日本にやってきたのはポルトガルでした。宣教師のミッションが訪れました。西洋文明を目の当たりにしたわたしたちの祖先は大きな驚きをもって迎えました。

このときやってきたキリスト教カソリックの神学思想の中核にはヘレニズム哲学がどっしりと位置しているのです。16世紀の西ヨーロッパといいますと、十字軍遠征に引き続いて興った12世紀ルネサンスからすでに数百年が経過していました。文化的にも高い水準に到達していました。西洋社会に文明をもたらした「ルネサンス」とは、「ヘレニズムの復活」という意味なのです。いったん消失してしまったプラトンやアリストテレスらを筆頭とする大量のヘレニズムの文献をふたたび学ぶ直すことが「ルネサンス」だったのです。主導したのはキリスト教会です。ポルトガルからの宣教師がもたらした西洋文明とは「ヘレニズム」なのです。

二つ目の大きな転機とは、もちろん誰もが知るところの19世紀終盤からの「文明開化」です。16世紀の第一次の文明開化はその後の鎖国政策により大きく後退しましたが、開国によって明治期に、おそらくそれまでの日本においては歴史上もっとも大きな文明の変化が生じました。わたしたち日本人がその生まれ育ちを知らないまでも「西洋風」として取り入れた文明とは元をたどれば「ヘレニズム」なのです。

甲南学園の創始者である平生先生はこの時代に日本に根付いたモダニズム文化を愛し学園の理念に掲げています。つまりすべての元をたどれば、行きつくところはソクラテスであり、プラトンであり、アリストテレスなのです。

なお、今回推薦の図書とは別途、上に記した内容を包括的に著した私の本が来年春頃に出版されます。クレタのヨウロペからダーウィンまでの人類四千年に迫ります。

あわせて学びのきっかけにしてください。


[藤棚ONLINE]知能情報学部・田村祐一先生推薦『アフターデジタル:オフラインのない時代に生き残る』

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知能情報学部・田村祐一先生 推薦

知能情報学部 田村です.私の研究分野はバーチャルリアリティなのですが,今回は「バーチャル化していく社会」をテーマとした本を紹介いたします.

「アフターデジタル」という本で2019年に発刊された本です.皆さんはGAFAと聞いて構成する企業群を想像できると思います.
この本では中国におけるデジタル活用状況とGAFAとの関係性についての話,さらには今後の日本の可能性について述べています.

日本ではどうしてもアメリカ中心の情報発信となるため,中国のデジタル社会の情報を受け取る機会は少ないです.
この本には「現在進行形の中国」について具体例を挙げながら詳しく述べられており,多分皆さんが知らない面を見ることができると思います.
また,筆者が述べる「日本の可能性」については納得する部分も多いでしょう.
これからの社会を見通す一つの考え方で,この本の主張どおりになるかどうかわかりませんが,読んで損のない本と思います.


[藤棚ONLINE]経営学部・久保田秀樹先生推薦『「いき」の構造』

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経営学部・久保田秀樹先生 推薦

 昭和18年、天野貞祐(旧制甲南高等学校第7代校長)の斡旋により、九鬼周造の蔵書を購入し、平成10年、図書館に「九鬼周造文庫室」が設けられました。「九鬼周造文庫」には、書籍だけでなく、『「いき」の構造』の草稿を含む直筆原稿や研究ノート、第一高等学校時代から留学時代までの講義録ノートも含まれ、2016年4月から『『甲南大学デジタルアーカイブ(Konan University Digital Archive )』で公開されています。デジタルアーカイブは、インターネットに接続された PC、タブレット、スマートフォンなどにより、 だれでも無料で利用することができます。 デジタルアーカイブは、甲南大学図書館ホームページからアクセスできます。

 九鬼周造とは、どういう人でしょうか。九鬼周造(1888-1941)は、東京帝国大学の哲学科に入学し、大学院に進んだ後、大正10年から約8年間、ヨーロッパに留学しました。この間、マルティン・ハイデガーなどから西洋哲学を学び、フランスの哲学者サルトルにハイデガーを教えたといいます。ハイデガーは、20世紀のヨーロッパ哲学における最も重要な哲学者の1人といわれています。九鬼周造は、帰国後、京都帝国大学で教鞭をとりました。

 『「いき」の構造』は、昭和5年に発行された九鬼周造の代表作です。岩波文庫に入っています。『「いき」の構造』では、「いき」の概念が西欧の語彙と参照された後、「いき」を規定する属性として「媚態」「意気」「諦め」が挙げられています。

 『ハイデガー選集』に手塚富雄訳「ことばについての対話」が所収されています。これは、1954年に独文学者の手塚富雄さんがハイデガーを訪れた時の会話をもとに書かれたものです。「ことばについての対話」は、九鬼周造の回想に始まって、九鬼による「いき」の分析についての問いかけがその内容です。

 対話において「問う人」として登場するハイデガーは、例えば、次のように語っています。

「問う人 われわれの対話は、学問的なものではありませんでした。特別の目的をもったディスカッションではありませんでした。大学でのゼミナールにおけるような学問的な討論の観を呈したときには、九鬼伯爵は沈黙していました。わたしのいった対話とは屈託のない遊戯のようなものとしてわたしたちの家で行われたのです。そこへ九鬼伯はおりおり夫人とともに見えました。そのとき夫人は壮麗な日本の正装をしておりました。東アジアの世界はそのために、いっそうはっきりと輝き出ました。そしてわれわれの対話の危険は一層明らかに、前面に現われ出ました。」

  「ことばについての対話」 も本学図書館に所蔵されています。また、9号館から図書館へ向かう道の途中の石段の脇に道標と日時計があります。これらは、九鬼周造の遺品です。通るとき、是非、目をとめてみてください。