第3回「夜の過ごし方を変えて,良質の睡眠を手に入れる!」

 今回は,勉強が身につく夜の過ごし方に関してお話しします。今回は,受験生を含む多くの学生諸君に参考にしてほしいと思います。皆さんは夜何時まで勉強していますか? 授業の予習・復習や受験対策で照明機器(学習スタンド 等)の下,教科書や参考書を一生懸命読んでいることでしょう! 更に眠気覚ましにコーヒーや緑茶を飲んで,夜食を食べたりもしているでしょう。しかし,この様な夜の過ごし方は,睡眠の質を落としてしまい,ひいては学習効率を低下させてしまいます。本稿で提案する方法をぜひ取り入れてみて下さい。きっと快適な睡眠を手に入れることが出来,勉強した内容がぐ〜んと身に付くことでしょう。

 最初に,私たちが寝ている間に身体の中で何が起きているかをお話しします。睡眠とホルモンに関する解説です。  睡眠に関連したホルモンは,2つに大別できます。1つは,「寝ている間」に分泌されるホルモンです。そして2つ目は,「夜」に分泌されるホルモンです。つまり前者は睡眠に依存したホルモンであり,後者はサーカディアンリズムに関連したホルモンです。睡眠に依存したホルモンの代表格は,成長ホルモンやプロラクチンです。一方,サーカディアンリズムに関連したホルモンの代表格は,メラトニンとコルチゾールです。  成長ホルモンは,身体の成長,修復および疲労回復の役割を果たします。そして,睡眠初期のノンレム睡眠(大変深い睡眠)時に最大の分泌量を示します。プロラクチンは,睡眠開始直後から分泌され,朝方に向かって増大します。乳汁分泌促進,ストレス耐性の増加,身体修復の作用があります。睡眠時には,自律神経の副交感神経が働き細動脈が弛緩し,成長ホルモンやプロラクチンが身体の隅々に運ばれることになります。とりわけ,睡眠の初期段階でしっかり寝ると, 身体の疲労が取れます。

 メラトニンは,習慣的就床時間の1〜2時間前から分泌され始め,深部体温が最低になる1〜2時間前にピークを迎えます。つまり深部体温が最低になる時間は朝の4時頃ですから,深夜2〜3時頃がピークになります。メラトニンは,サーカディアンリズムに従い夜に分泌され,光刺激によって分泌が抑制されるので,「ドラキュラホルモン」とも呼ばれます。メラトニンは,入眠作用や睡眠維持作用があります。また,サーカディアンリズムの強い同調因子で,夕方〜深夜のメラトニンはサーカディアンリズムの位相を前進させます。一方,コルチゾールは,睡眠初期のノンレム睡眠(大変深い睡眠)で分泌が抑制され,朝の起床前後で分泌は最大値示します。コルチゾールは,血糖値維持や肝臓における糖新生促進などの作用があります。これは日中に活発に過ごすために使われ,夜に向けて減少していきます。そして,ストレスに耐えて生活するためにも重要な役割を果たしており,「ストレスホルモン」とも呼ばれています。

 メラトニンは,松果体でビタミンB12の作用によりセロトニンから生合成されます。メラトニン分泌は,その作用により,睡眠初期のノンレム睡眠(大変深い睡眠)を実現します。睡眠初期のノンレム睡眠(大変深い睡眠)の効果をまとめると以下のようになります。
(1) 大脳皮質を充分に休めるための睡眠。

(2) 成長ホルモンによる身体の成長,修復および疲労回復を助ける睡眠。

(3) コルチゾールの分泌を抑制する睡眠。就寝中に持続的にコルチゾールが出続けると,血糖値が高くなり過ぎたりして,成人病を来す恐れがあります。さらに,コルチゾールが過剰に脳に運ばれると,記憶を定着させるために大事な海馬という器官が侵害されます。

(4) 嫌な記憶を消去する睡眠。嫌な記憶は,ストレスになり,安定した睡眠を阻害するのみならず,ストレスホルモンであるコルチゾールを大量に分泌させてしまい,海馬を侵害します。

(5) 脳細胞を修復・保護する睡眠。睡眠を誘発する物質(睡眠物質)の一つである酸化型グルタチオンは,日中に蓄積されていき,ある程度溜まると眠気を生じさせます。そして,入眠するとニューロンの過剰活動により出来た細胞毒などから脳細胞を保護します。

 以上の通り,良質の睡眠を実現する上でメラトニンの分泌は不可欠ですが,この「ドラキュラホルモン」といわれるメラトニンは,ちょっとしたことで分泌が抑制されてしまいます。そこで,以下に,メラトニンの分泌を抑制してしまう主なものを挙げます。
(1) 寝る前2〜3時間の,200〜300ルクス以上の光刺激,特に商店街の明かりやコンビニの照明はNGです。また,テレビやパソコンのモニタの明かりもNGです。

(2) 寝る前2〜3時間の,刺激物の摂取,特にコーヒーや緑茶などカフェインの入ったものはNGです。カフェインはメラトニン分泌を強力に抑制します。

(3) 睡眠環境(寝室)における30ルクス以上の明かりはNGです。ロウソクの明かりは15ルクス位です。0.3ルクス位が理想的です。障子越しの月明かりです。理想的な睡眠環境に関しては,次回に詳細に説明します。

次に,夜の適切な過ごし方を,次に挙げます。参考にしてください。
(1) 夜7〜8時以降は,強い光に当たらないようにしましょう。この時間帯の強い光は,サーカディアンリズムの位相を後退させてしまいます。一般的家庭の室内照明は300ルクス程度です。この程度なら大丈夫ですが,商店街の明かりやコンビニの照明はNGです。

(2) 寝る2〜3時間前までに入浴を終えましょう。メラトニンは体温を下げ,それによって入眠するのですが,寝る前2〜3時間に入浴すると,体温が上昇してしまいメラトニンの効果を相殺してしまいます。

(3) 寝る2〜3時間前に食事を終えましょう。遅い時間帯の食事もサーカディアンリズムを乱してしまいます。

(4) 寝る前の2〜3時間は,コーヒーや緑茶などの刺激物は避けましょう。出来れば,夜食も避けるべきです。

(5) 寝る2〜3時間前は,部屋を暗くして勉強しましょう。実は,学習スタンドなどの照明もメラトニン分泌を抑制してしまいます。これでは勉強が出来ない!ことになってしまいますが,実は秘策があります。室内の照明や学習スタンドの照明を,白色から電球色(赤みがかった色)にすればOKです。メラトニン分泌は青色成分の光に顕著に抑制されますが,暖色系の光では比較的抑制されません。また,私の研究室では,白色光や青色光に比べ,黄色光(電球色系)の照明下で高次認知機能作業の成績がアップする結果が出ています。更に,黄色光(電球色系)で疲労が少なく長時間成績が下がりませんでした。
 そして,これまでは「蛍光灯やLED照明を昼光色系(寒色)を電球色系(暖色)に変えてもメラトニン分泌を抑制してしまうので,照明機器自体を白熱電球に変えなければならない」と考えられてきましたが,近年では「必ずしも白熱電球に変えずとも,これらの照明機器でも昼光色系を電球色系に変えるだけで睡眠の質が高まり,記憶の精度が高まるという研究結果がでています。私の研究室でも,この効果を確認しています。最近では,電球色系の蛍光管やLED管が販売されており,照明機器を本体ごと取り替えなくても,内部の蛍光管やLED管だけを変えることができます。勉強部屋や学習スタンドの照明環境を変えてみては如何でしょうか。

以上,今回説明した夜の過ごし方を取り入れてみて,良質の睡眠を手に入れてください。

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