第5回目 上手に昼間を過ごして,良質の睡眠を手に入れる!

 最終回は,良質の睡眠を手に入れるための昼間の過ごし方についてお話しします。これまで,良質の睡眠を得るために,朝・夕の過ごし方や寝床内気候・寝室環境について,お話ししてきました。今回お話しする昼間の過ごし方を実践することで,更に良質の睡眠を得ることが出来ます。これまでのことと併せて,ぜひ試してください。

 睡眠は,ノンレム睡眠とレム睡眠のセット(1時間半)が朝まで何回か繰り返されます。睡眠の前半では,深いノンレム睡眠と短いレム睡眠のセットで,脳を休める睡眠です。また,睡眠の後半では,浅いノンレム睡眠と長いレム睡眠のセットで,記憶を定着させる睡眠です。習慣的就床時間の1〜2時間前からメラトニンが分泌されはじめ,深夜2〜3時にピークを迎えます。これによって,我々の深部体温はスムーズに下がり,睡眠に導かれるのです。更に,このメラトニンは,睡眠の前半で身体を修復するのに役立つとともに,コルチゾールの分泌を抑制し睡眠中の過剰なストレス反応が起こらないようにしています。これらのメラトニンの重要な働きは,第3回目でお話しました。

 メラトニンは,トリプトファンからセロトニンが合成され,続いて,松果体でセロトニンから合成されます。セロトニンの合成には光が必要です。一方,メラトニンの合成には暗条件が必要です。トリプトファンは必須アミノ酸の一つですから,食物として摂取する必要があります。食物として摂取されたトリプトファンは,一部が脳内に輸送され脳内セロトニンの濃度が上昇します。トリプトファンが脳内に効率よく輸送されるのに重要なのが持続性運動です。また,セロトニンの合成には光刺激とともに,ビタミンB6も重要です。つまり,以下①〜⑩を習慣に出来ると良いのです。

① 朝食をしっかり摂り,
② 午前中に屋外で日光を浴び
③ 出来れば軽い持続運動をし,
④ その後,勉強をします。
⑤ そして,午後には,15分ほどの昼寝をし,
⑥ 勉強をします。
⑦ 夕方,軽い持続運動をし,
⑧ 早めの夕食を摂り,
⑨ 10時前に入浴を済ましましょう。また,カフェインなどの刺激物の摂取は避けましょう。
⑩ 午後7時以降はなるべく,部屋の照明のフル点灯は避け,出来れば暖色系の光の下で勉強しましょう。

 上記①では,起床後2時間以内に規則正しく朝食を摂ることが大事です。この間に食餌をすると身体が「溜め込み」モードになりません。朝食を摂ることで身体が「今日一日食事に有り付けたのだ!」と理解して「エネルギーの溜め込みモード」にならないので,食べた栄養が脳で直ぐに使えるのです。脳はエネルギー食いであることを思い出して下さい(第1回目)。それでは,上記①や⑧では,何を食べたらよいのでしょう。トリプトファンは,チーズや牛乳,納豆,豆腐,そしてバナナなどに多く含まれています。肉類にも含まれています。ビタミンB6は魚や豚肉に多く含まれています。しかし,トリプトファンを大量に摂取しようと,肉類やチーズなどを多く食べても逆効果になります。脳内のトリプトファンの濃度を上げるという観点から考えると,実は,各種アミノ酸の摂りすぎはNGなのです。トリプトファンは他のアミノ酸が混在すると,お互いに競合するために脳内に運ばれにくくなります。つまり他のアミノ酸の血中濃度を下げてやる必要があるのです。そこで名案があります。果物やチョコレートなどの糖類と一緒に食べる方法です。一緒に食べるといってもチョコレートをご飯の上にのせて食べる必要はありません。食前の果物や,食後のデザートで結構です。糖類は,膵臓からのインスリンの分泌を促進します。実はこのインスリンは,トリプトファンにはあまり影響せずに,他のアミノ酸の骨格筋へ取り込みを促進する働きがあるのです。あまり糖分を摂りすぎると,肥満や,ひいては糖尿病になってしまうので,注意は必要です。

 次に,上記③や⑦では,どんな運動が良いのでしょう。先にも述べた通り軽い持続運動がトリプトファンを脳に輸送するのに役立ちます。リズム運動なども良いでしょう。あるいはストレッチ体操なども効果があります。体幹の運動は血行を良くするのみならず,関節を伸ばす刺激は,眠気を覚まし脳を活性化します。ネコが昼寝の後,ノビをしてから散歩に行くのは,このためです。しかし,この運動もやり過ぎは逆効果ですから注意してください。強度の高い運動や長時間の運動は,脳内セロトニン濃度を過剰に上昇させ,中枢性の疲労を起こしてしまいます。

 ちなみに,運動と食事の順番ですが,運動をした直後に少量の食事を数回に分けて摂取すると,インスリンの効果が高まるということが知られています。朝の食事と運動(①と③)は,学校に行くなどで思うように出来ないかもしれませんが,夕方の食事と運動(⑦と⑧)は皆さんの都合で出来ると思いますので,試してみて下さい。ちなみに,筋肉が太くなりますから「たくましい身体」になりたくないのでしたら止めといてください。

 以上,6回にわたって睡眠の働きと,良質の睡眠をとるための方法に関して,お話ししてきました。限られた紙面なので,なかなか踏み込んで解説が出来ませんでしたが,ここでお話しした『睡眠術』が,皆さんの睡眠改善,そして,学習効率を上げることに,少しでもお役立て頂ければ幸いです。

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