甲南大学 人間科学研究所

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報告

2022/3/30
報告

【報告】遊廓と娼妓:トラウマの視点から

日時:2022年3月8日(火)18:00~20:00


場所:オンライン(zoom)


企画・司会:森茂起(甲南大学/臨床心理学)


話題提供:人見佐知子(近畿大学/女性史)


 近年、アニメなどの影響で遊廓が注目されている。各地の遊廓跡に残る妓楼建築の保存や活用にも関心が高まっている。しかし、他方で歴史的な考察を欠いた取り上げられ方も散見される。本研究会は、遊廓をめぐる現状と歴史を、トラウマの視点を導きの糸にして考えることを目的として開催された。


 話題提供をされた人見佐知子先生は、遊郭の歴史学的研究を専門とし、福原遊郭を対象とした研究をされたあと本研究所の博士研究員を務められ、戦争体験のオーラルヒストリーを聞き取る〈戦争の子ども〉プロジェクトにも携わられたのち、現在は近畿大学文芸学部・総合文化研究科で、近代公娼制度や性売買の歴史に携わっておられる。本研究会は、「遊郭」の保存、活用の状況を確認することで、性売買や搾取の歴史―地域社会にとって正面から向き合いがたいという意味でのトラウマ的な歴史―の継承のあり方を理解できるのではないか、という問題意識から人見先生に話題提供いただいた。


 話題提供の前半では、日本各地の「遊郭」の「保存と活用」の実態を整理され、「負の歴史」を教育的に扱う一部の試みを除き、建物の文化的価値に重きを置きつつ、歴史的な検証の欠如、性売買のの事実の封印などに至っていることが確認された。そして、後半では、その全体から抜け落ちている当事者の声を聞くための一資料として、 金沢市内で娼妓紹介業を営んだ小原トヨ宛の娼妓小梅の手紙を読み解く試みが行われた。そして、状況にがんじがらめになり、搾取や抑圧の構造を自覚することが困難だった娼妓を利用して公娼制度が維持されていたと指摘された。そして、遊郭の遊興空間を非日常として外から見る視点が、それが日常であった娼妓の実態を覆い隠すこと、それは現在における遊郭の保存、活用にも見て取ることが出来る構造的な問題であるとされた。


 話題提供後の討論では、歴史専門家による事実確認と研究課題の確認、被害者の声が外に届かない構造的な問題構造に関するトラウマ論的視点からの指摘など、学際的な議論が展開され、今後の課題を確認して研究会を閉じた。