アルツハイマー病の早期リスク評価を目指す!
未知なる病への挑戦

みんなの「世界」をおもしろく > スタディー
2021.11.18
よかった記事には「いいね!」をお願いします

世界的に見ても長寿大国である日本。

医療の発達により「人生100年時代」と言われますが、

単に寿命が延びればいい、ということではなく、

楽しく笑って、元気に食べて、健康に過ごせる時間が、より長いことが理想ではないでしょうか。

今回は、「健康寿命をいかに延ばせるか」をテーマに

アルツハイマー病の知っているようで知らない世界に迫ります!

 

 

「認知症=アルツハイマー病」では、ない。

 

認知症とは、後天的な脳の器質的障害により、「正常に発達した知能が低下した状態」。代表的なものが、脳の神経細胞の数が徐々に減少する “アルツハイマー病”や“レビー小体型認知症”、脳梗塞など血管障害が原因となる“血管性認知症”です。これらは「3大認知症」と呼ばれ、それぞれ原因が異なります。アルツハイマー病は認知症の一種なのです。

 

 

 

 

 

発見は1906年。100年以上も研究が続いている。

 

アルツハイマー病が発見されたのは115年前。1906年、ドイツのアルツハイマー博士によって初めて症例が報告されました。人の名前だったとは知りませんでした・・・。きっかけとなったのは、博士が診察したアウグステ・ディータという女性。当時46歳だったディータさんは「旦那が浮気している」と訴えるなど酷い嫉妬妄想、ついさっきのことも忘れてしまう記憶力の低下がみられました。彼女が56歳で亡くなり死後解剖をしたところ、脳がスカスカで神経細胞が死んでいたことが判明。このことから、原因が脳にあることがわかったのです。

 

 

 

1世紀以上前から研究されているのに

いまだ特効薬がなく、 たくさんの人を悩ませているアルツハイマー病。

それだけ治すことが難しい病気なのです。

 

 

 

 

アルツハイマー病のターニングポイントは65歳。

 

アルツハイマー病患者の約9割は晩期発症型で、65歳頃から加齢とともに発症リスクが高まります。残りの1割は遺伝的なもので、遺伝子変異により、40代の働き盛りでも発病する恐れがあるのだとか。稀に18歳からでも発症することが確認されており、「若いから全然関係ないよね」とは言えないのがこの病の怖いところです・・・

 

 

 

3秒に1人、認知症患者が生まれている!?

 

世界アルツハイマー協会の報告によると、世界で毎年1,000万人、3秒に1人が認知症になっているそうです。また、認知症人口の増加に伴うコストは2018年時点で10兆ドルとも言われ、今後も増加すると予測されています。それだけに、世界各国で医療・介護費用の拡充と確保が深刻な問題に。しかし裏を返せば、特効薬ができれば巨額の利益になるということ。各国の製薬会社が熾烈な開発競争を繰り広げているのも納得です。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

決定的な薬がない現状、とても怖くなります。

現状ではどうすることもできないのでしょうか?

 

 

藤井先生

 

薬はまだありませんが、

「対策」することは可能だと考えています。

 

 

 

 

電気化学センサが、リスク評価をアシスト!?

 

暗い気分になってしまいますが、希望もあります。今、電気化学センサを使って、アルツハイマー病を早い段階でリスク評価する仕組みを研究している人物がいます。甲南大学フロンティアサイエンス学部の藤井敏司教授です。

 

現在、アルツハイマー病の薬として認可されている薬は全部で4種類。この10年に認可されたのは、1つだけですから、いかに開発が難しいかがわかります。「人の体はとても繊細に、また千差万別につくられているので、多くの人に同様の効果を得ることが難しいんです」と藤井先生。なお、現在使われている薬はどれも症状の進行を「遅らせる」もので、「治す」薬ではないそうです。

 

脳細胞は一度死んでしまうと蘇らせることが難しい。蘇ったとしても記憶が元通りになるか分からない。また、痛みなどの自覚症状もなく進行するので、発見が遅れ手の施しようがなくなることも多い・・・アルツハイマー病の早期発見が、いかに重要かがわかります。

 

 

 

アルツハイマー病の犯人?アミロイドβをキャッチせよ。

 

アルツハイマー博士の解剖で、脳の著しい萎縮とともに、脳の表面に大量の沈着物「老人斑」が確認されました。いわゆるシミですね。このシミの主成分は、アミロイドβと呼ばれるタンパク質が変異してできたゴミ。このゴミが溜まり、神経細胞の邪魔をして脳に障害が発生する。それが、アルツハイマー病の原因ではないかという説が現在有力です。

 

藤井先生は、発症後の早い段階で体内のアミロイドβの数値がある変化を示すことに着目。電気化学センサでこの変化を捉えられれば、アルツハイマー病のリスクを評価できるといいます。

 

 

 

 

 

年齢とともに低下する、脳の中のゴミ処理能力。

 

アミロイドβは体内のタンパク質が変異したものですが、原因は未だ解明されておらず、薬の開発もなかなか進んでいません。「ウイルスならマスクで防げますが、タンパク質は体内の物質ですから防ぎようがない。今のところ、決定的に効く薬もないので、早期発見が重要なんです」と藤井先生。 ちなみに、アミロイドβは20〜30代から体内で蓄積されていくそうです。若いうちはせっせと分解・処理・再利用できるのですが、年齢が上がるにつれ処理能力が低下し、どんどん蓄積され、やがて「老人斑」に・・・。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

脳は考えたり記憶したりするだけじゃなく

ゴミの処理もしていたのですね!

 

 

藤井先生

 

ゴミの処理能力を上げるか、

そもそもゴミを出さないようにするか。

薬の開発の方向性は様々。

私はセンサを使ってゴミの溜まり具合を計測し、

早期のリスク評価を目指しています!

 

 

 

 

アルツハイマー病のリスクが健康診断でわかるようになる!?

 

安全で、コストが安いことも、電気化学センサの利点だと藤井先生は言います。アミロイドβは血液中にも存在するため、血液検査で判定が可能になります。ただし、血液中のアミロイドβが少量のため、検査精度を上げる必要があります。他にも越えるべき山はいくつかありますが、藤井先生は一刻も早い実用化に向けて、日々研究を重ねています。

このセンサを広く使えるようになれば、毎年の健康診断でリスク評価できるようになり、早い段階からの治療も可能になります。しかし、早期に発見できても、治療ができなければ意味がありません。私たちの健康寿命を延ばすためにも、「早期発見+効果的な薬」の実現が待たれます。

 

 

藤井先生

 

「元気で長生き」を研究で支えることができれば本望。

社会に貢献できる所まで頑張りたいですね。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

健康診断で手軽に検査できれば、

介護や医療費の負担軽減につながるかもしれませんね。

誰もが発症する可能性のあるアルツハイマー病だからこそ、

早期発見と薬の両輪が実走される未来が待ち遠しいです!

今回お話しを聞いた人
甲南大学 フロンティアサイエンス学部 藤井敏司 教授

京都大学大学院理学研究科 化学専攻 博士課程を修了後、(財)山形県テクノポリス財団生物ラジカル研究所研究員を経て、2000年より甲南大学理学部に着任、2010年より現職。専門分野は生物無機化学、生体関連化学。生物に学びつつ、生物がもっていない機能を発揮するような新規化合物などの開発に取り組んでいる。本記事のアルツハイマー病の早期リスク評価系の研究もその一環。

よかった記事には「いいね!」をお願いします