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外国人留学生から見た不思議の国ニッポン

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2024.12.19
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観光地だけでなく、駅や電車、街なかで、外国人観光客のいる風景が日常となった昨今。2024年の来日外国人が推計で3,000万人を超えるなど、ますます日本への注目度が高まる中、多くの留学生が日本で学んでいます。甲南大学では、欧米の協定校からなるYear-in-Japan(YiJ)プログラムを通じて年間約50人の留学生が来日。彼らは何を求めて日本にやってくるのか、学生たちと共に滞在中のハワイ大学・長谷川敦志准教授に、留学生から見た日本の魅力や関心事について伺いました。

 

 

Contents

・ 日本語教育の魅力と意義

・留学生は何を求めて日本にくるのか

・留学生の日本の楽しみ方

・受け入れる私たちの心構え

 

 

 

日本語教育の魅力と意義

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

長谷川先生は長年日本語教育に携わり研究をされています。

日本語教育に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう。

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

中学生の頃から海外で仕事をしたいと考えていました。そのために日本語教員になろうと大学で日本語教育を専攻。1年間のアメリカ留学でアシスタントとして中高生の日本語クラスで教える機会がありました。そこで自分の力を発揮できなかった経験から、再びアメリカで日本語を教えたいと思いアメリカの大学院に進学。さらに研究を進めるためにウィスコンシン大学で博士号を取得し、ニューヨーク大学、ケンタッキー大学での勤務を経て現在はハワイ大学で日本語クラスを担当しながら、言語の習得について研究しています。

 

現在の主な研究は、学生たちが留学中にどのように人間関係を構築し、その中で日本語をどのように使っているのか、言語の習得にはどういうプロセスが効果的なのかを導き出す研究です。日本では少子化が進み、今後は海外からの労働力を受け入れていく必要があります。その際、外国人と日本人の共存や、人間としての経験を根本的に見ていく必要があると感じています。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

欧米諸国で日本語を学びたいという

学生は増えているのでしょうか。

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

 

根強い人気の日本文化

アメリカの大学に関していうと、ここ十年ぐらいはほぼ横ばいという感覚です。経済が落ち目と言われても日本が根強く人気なのは、やはりアニメ、漫画、ゲームなど日本のPOPカルチャーへの関心が高いからだと思います。私がアメリカの中高で教えた90年代後半は、アジア人が珍しく日本人は宇宙人を見るような目で見られたものですが、最近は海外旅行先として日本が選ばれるようになり、ますます親しみのある国になってきています。

 

 

 

 

 

 

 

留学生は何を求めて日本にくるのか

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

今回、YiJの引率として来日されていますが、

どんな留学プログラムなのでしょう。

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

 

50年の歴史を持つYear-in-Japan(YiJ)プログラム

歴史のある留学プログラムで、留学生は午前中に日本語を勉強し、午後に英語で日本の文化等の授業を履修します基本的にホームステイで日本人の家庭で生活しながら勉強ができることから、それを目当てに来る学生も多いですね。学内ではさまざまなイベントが開催されたり、「Tomodachiプログラム」という甲南の学生による留学生のサポートプログラムがあり、最初の友だちを作るきっかけにもなっています。

 

 

 

 

 

 

 

\  Year-in-Japan(YiJ)プログラムとは?  /

 

1976年に米国イリノイ大学と甲南大学が協定を締結し、米国の学生を甲南大学で受け入れるプログラム。現在では、4大学間コンソーシアム(ハワイ大学・イリノイ大学・アリゾナ大学・ピッツバーグ大学)へと発展し、米国、カナダ、イギリス、オーストラリア、ドイツ、フランス等の海外協定校からの留学生を受け入れている。プログラム期間は9月~翌年5月(半期または通年)でホームステイを通じて、日本の文化を直接体験することができるのも魅力の一つとなっている。

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

留学生たちはどんなことを求めて

日本にやってくるのでしょう。

 

 

長谷川 敦志 先生

 

留学の目的は日本語習得と文化の体験

YiJプログラムの学生たちは日本語を既に勉強している学生がほとんどなので、日本語を伸ばしたいというモチベーションが一番高いと思います。日本で生活したいから日本語を勉強する人もいるでしょうし、アニメや漫画、ゲーム、ポップカルチャーといった若者文化が好きで留学する学生もいます。

 

中でも関西で学びたいという学生は、伝統文化への興味が強い印象があります。京都や奈良が近いということで、日本ならではの経験ができるのではないかと期待している学生は多く、自ら書道のワークショップを開いた留学生もいました。日本だからこそできる経験を求めているのかなと思います。

 

 

 

 

 

 

留学生の日本の楽しみ方

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

留学生たちの様子から

どのようなことを感じていらっしゃいますか。

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

日本人の友達を作ることは多くの学生にとって留学中の大きな目標となっていますが、必ずしも全ての留学生がそのゴールを目指しているわけではありません。中には元々人間関係を作るのが苦手だったり、あまり交流を求めていない学生が少なからずいる、ということです。そういう人たちは留学を楽しんでいないのかというとそうではなく、別の側面で楽しみを得ています。テクノロジーが進み、リアルに繋がらなくてもオンライン上で自分のアニメコミュニティで日本人と交流している人もいますし、あるいは、自国の友達とネットで繋がりながら自分の体は日本にいる、というパターンも可能になっています。

 

また、学校の人間関係以外のところで、一人で街へ出かけたり、食べ歩きや買い物を楽しんでいる学生もいます。日本は特に、そういうことが楽しめる国だなと思いますね。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

「そういうことが楽しめる」とは??

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

「お一人さま文化」を謳歌する留学生たち

アメリカやヨーロッパでは、一人で行動することがなかなか難しいんです。一人で食事をするのはせいぜいファーストフードくらいで、レストランで食事をしたり、買い物をしたり、ましてやカラオケに行ったり、一人で行動をすることを社会が推奨していないというか、そういうインフラが整っていない。一方、日本では「お一人さま文化」という言葉があるくらい、一人で行動できるインフラがかなり整っていて、人と繋がらなくても生きていける世の中になっているなと、今回改めて感じました。

 

 

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

一人カラオケや一人焼き肉・・・

それってすごく特別なことなんですね。

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

どの国にも、どの社会にも人間関係を特に好まない層が一定数いるのだと思います。一般的に、留学したら友達を作らなければいけないという感覚がありますが、そうではない留学ができるのが日本なのかもしれません。留学はやはり言語の習得が一番の目的なのですが、現実として人と交流しなくても幸せな留学生がいるということは私にとっても新たな気づきでした。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

留学生たちは、一年間の留学を終えて、

どんなことを実感するのでしょうか。

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

「日本語の能力が伸びた」と実感して帰る学生もちろんいますが、それより多分、「好きな日本で一人で生活をした」という満足感が一番大きいのではないでしょうか。若い彼らにとって、外国で、一人でできることが増えていくというのは大きな成長でもあります。

 

彼らと話していると、本当に他愛もない普段の生活のことが彼らにとってはとても新鮮で大きな達成であると感じます。例えば電車に乗ることもそうですし、歩くことが中心の生活で看板を見て、看板に書かれている文字を調べて、「あ、こういうお店なんだ」と発見したりする。日本人として生活していると全然気づきもしないことの一つひとつが、留学生にとっては大きな経験であり、自信につながるのだと思います。

 

 

 

 

受け入れる私たちの心構え

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

甲南の学生との交流はどうなのでしょう。

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

甲南大学の国際交流センターにあるグローバルゾーンが、甲南大学の学生と留学生たちの交流の場になっています。ワークショップがあったり、そこで授業が受けられたり、学生と自由に話すこともできます。自由でオープンな雰囲気で、お昼を食べている人もいれば、ゲームをしている人、勉強している人もいて、YiJの学生たちはそこをかなり利用しています。

 

 

 

 

「国際交流に興味がない」学生こそ、留学生と交流を

ただ、これは私の研究テーマにも関係してきますが、甲南の学生にとって一年間だけいる留学生との接点が少なく、一年生から一緒に育む人間関係とは全く異なるわけです。ですから、意図的に繋がらなければ留学生たちと繋がることができません。留学生と仲良くしている日本人は国際交流への意識が高い学生であり、それは日本人の学生の一つの側面でしかない。むしろ、「国際交流に興味がない」という日本人とふれあうことによって、もっと日本を広く多角的に見られるのではないか、本当の日本というのは、多分そういうところにあるのではないかと個人的には思っています。

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

最後に、留学生を受け入れる側である

甲南大学の学生たちにメッセージをお願いします。

 

 

 

長谷川 敦志 先生

 

国際交流にあまり興味のないという学生のみなさんは、ぜひ、グローバルゾーンに来て、気軽に留学生と話をしてみてほしいですね。キャンパスで留学生と話すせっかくの機会ですし、留学生にとっては“リアルな日本人”を知る貴重な体験にもなります。

 

自分のネットワークを超えて、人と繋がることの大切さ

日頃の人間関係の中でも、自分たちのグループを超えて人と交流することは難しく、意識的に動かなければなかなかできません。けれども、学生に限らず、社会でも人と繋がることは重要になってきます。甲南生のみなさんが自分のネットワークを出て他のところに繋がりを求める、留学生がその“きっかけ”になるのではないかと思っています。

 

 

今回お話しを聞いた人
ハワイ大学マノア校東アジア言語文学科 長谷川 敦志 准教授

東京で生まれ育ち、中学生の頃から世界とその人々に魅了される。筑波大学で日本語教育を専攻し、卒業後はアメリカに渡りパデュー大学で修士号を、ウィスコンシン大学で博士号を取得。ミドルベリー大学、ニューヨーク大学、ケンタッキー大学等で教鞭を取り、2019年より現職。20年以上に渡り、さまざまな教育機関で日本語を教えてきた経験を活かし、第二言語習得、言語教育学、会話分析、社会ネットワーク分析に関する研究を進めている。

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