
「好き」を生かして共有することが、人生をより豊かにする!
「スキルシェア」のすすめ
「スキルシェア」のすすめ
自分がこれまで生きてきた中で培ったスキルを誰かとシェア(共有)すること。それが、自分自身の人生のウェルビーイング(持続的幸福度)※を高めていくことになる-。個人がスキルをシェアすることで得られる充足感やメリットを調査・研究する、マネジメント創造学部の青木慶准教授が語る「スキルシェア」のすすめ。外資系企業でマーケティングに従事しながら、大学院で経営学を研究した経歴をもつ青木准教授から、自身の経験や研究結果を交えながら、スキルシェアの有用性についてお話を伺いました。
※ウェルビーイングとは端的に言うと「心身ともに健康な状態」を指します。本研究ではポジティブ心理学の研究者、 マーティン・E・P・セリグマン博士の解釈である「持続的幸福度」を使用しています。
KONAN-PLANET 記者
今回の研究をしようと思ったきっかけをお伺いできますか?
青木 慶先生
研究のはじまりはマーケティングで生じた疑問
外資系企業でマーケティングに携わっていたころ、専門的な知識をさらに深く学ぶために、仕事と並行して大学院へ進学しました。当時、おうちでのカフェタイムの楽しみ方を投稿してもらうという、ユーザー参加型の企画を仕事で実施しましたが、残念なことに投稿がほとんど集まりませんでした。世間ではクックパッドなどレシピ投稿サイトが人気で投稿数も膨大なのに、この違いは何だろうと疑問がわきました。それが大学院での研究テーマへと結びつきました。 大学院では「ユーザーイノベーション」という概念を知り、実際に使う側だからこそ生み出せるアイデアを基に製品を作ったり、改良したりしてイノベーションを起こす人たちを研究対象にしました。
KONAN-PLANET 記者
研究はどのように進めていかれたのでしょうか?
青木 慶先生
スキルシェアが自分磨きに役立つ
まずは、クックパッドなどにレシピを投稿している1000人を対象にアンケートを行い、投稿者のモチベーションを探りました。投稿されたレシピはいわば料理の「スキル」であり、投稿者たちは自分のスキルを無償でWebサイト上に「シェア」しています。クックパッドには、投稿されたレシピを活用した人が、作った料理の画像やコメントをアップできる「つくれぽ」機能があります。レシピに対する「つくれぽ」の数が多いほど、たくさんの人々の役に立った人気レシピであることがわかります。実際に投稿者のアンケート結果からも、誰かの役に立っている充足感が投稿のモチベーションになっていることが読み取れました。レシピ投稿者には、群を抜いてモチベーションが高く、レシピの人気もトップクラスで、レシピ本を出版していたり、メディアに取り上げられている人々も存在しています。その人たちの原動力は一体何であるのかを探るべくインタビュー調査をしてみると、それぞれがさらなるスキルの向上を図りながら、料理のプロとしての活躍をめざしていることがわかりました。これらのことからスキルシェアには、①自分のスキルが誰かの役に立つことへの充足感がある②スキルシェアをすることが、さらにスキルを高めるモチベーションになるといった効果や作用があることがわかりました。
KONAN-PLANET 記者
最近はどのような調査をされましたか?
青木 慶先生
スキルシェアが副業や収入につながる
最近、調査対象に選んだのは、世界中で親しまれるブロック玩具「レゴ」のユーザーコミュニティです。創造力をかきたて、さまざまなアイデアを形にできるレゴには、大人のファンも数多く存在しています。大人のレゴユーザーを対象としたインタビュー調査では、「レゴ作品をWebサイトで公開する(作品を通したスキルのシェア)」「イベントを開催し、自分たちが大好きなレゴを子どもたちに教える(創作スキルのシェア)」「個人輸入でしか手に入らないレゴ ブロックの入手方法などを情報交換する(ノウハウのシェア)」など、コミュニティの活動内容にも多くのスキルシェアが見受けられました。また、ハイレベルな作品を公開しているレゴユーザーは、イベントや展示のためにレゴ作品の制作依頼を受けることが少なからずあるようで、制作には対価が支払われます。スキルシェアには、③シェアすることでスキルをお金に換えることができるといった面もあることがわかります。
KONAN-PLANET 記者
スキルシェアとウェルビーイングとの関係について、お伺いできますか?
青木 慶先生
スキルシェアをしているとウェルビーイングが高まる
研究していく中で、彼らに共通点として「ウェルビーイング」が見出されることになんとなく気づきました。ポジティブ心理学を創設したマーティン・E・P・セリグマン博士による、「ウェルビーイングを測定する判断基準は持続的幸福度である」という考え方を知り、自身の知識やアイデアを他者に共有することが、ウェルビーイングの向上につながっていることを確認するために調査を始めました。具体的には、持続的幸福度の尺度を使い、スキルシェアをしているグループと、していないグループを比較したところ、スキルシェアをしている人の持続的幸福度は、していない人と比べて有意に高い数値が出ました。つまり、スキルシェアによってウェルビーイングが高まることは定量的にも実証できました。
KONAN-PLANET 記者
先生からみなさんにスキルシェアのススメをお願いします!
青木 慶先生
自分のスキルをシェアして人生を豊かに
「スキルシェア」というと身構えてしまうかもしれませんが、まずは、自分の経験してきたことや好きなこと、得意とすることを振り返ってみてください。たとえば子育ての経験を新米ママさんに共有する、得意な整理整頓のコツをインスタグラムで発信する、長年にわたり仕事で培ってきた技術を定年後に地域のために役立てる、といったことはすべてスキルシェアなのです。身近な人とのスキルシェアはもちろん、SNSを使ったり、「ココナラ」のようにスキルを売り買いできるWebサイトなどを利用すれば、広くスキルシェアすることが可能です。スキルシェアを始めた人が増えていけば、始めた本人はもちろん、シェアされた周囲の人々にとってもメリットがあり、社会も良い方向に変わっていくのではないでしょうか。
スキルシェアでウェルビーイングを向上させていくことで、人生をもっと豊かにできるはずです。ぜひあなたのスキルも誰かとシェアしてみませんか。
KONAN-PLANET 記者
青木准教授の著書、
「スキルシェアのすすめ〜なぜ知の共有がウェルビーイングを向上させるのか〜」。
今回の記事の内容がより詳しく書かれていますので、興味がある方は是非ご一読ください!
本記事は学園広報誌「Konan Today No.66」に掲載中の
\ 「甲南アカデミア」を再編集しています /

- 今回お話しを聞いた人
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甲南大学 マネジメント創造学部 マネジメント創造学科
青木 慶 准教授大阪大学経済学部卒業後、外資系企業にてマーケティングに携わる。並行して、神戸大学大学院にて経営学修士(専門職)、博士(経営学)を取得。大阪女学院大学専任講師、准教授を経て、2019年より現職。研究テーマは、消費者参画型の価値共創。American Marketing Association、日本マーケティング学会、日本広告学会、日本消費者行動研究学会所属。日本マーケティング学会 オーラルセッション2022 ベストペーパー賞受賞。