日本の文化である“墨絵”を 世界へ広めていきたい

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2025.9.22
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観客の視線が集まる中、大胆に振るう筆の先から現れる龍の姿。着物姿にタスキ掛けで、一発勝負のライブペイントに挑むのは、墨絵師の井上さん。墨絵師として本格的に活動を始めたのは30歳のとき。会社員として働きながら個展や創作活動を続け二足のわらじを履いていたが、36歳で独立。一体なぜ墨絵師に?これまでの経緯や、現在の活動をお伺いしました。

 

 

Contents

・墨絵師になろうと思ったきっかけ

・墨絵師としての活動の転機

・エッフェル塔でのライブペイントについて

・今後の目標について

 

 

 

墨絵師になろうと思ったきっかけ

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

墨絵師になろうと思ったきっかけなどを教えてください。

 

 

 

井上 慶美 さん

 

フランス留学がきっかけで

日本文化に目を向けるように

 

大学卒業後は、化粧品の開発にかかわりたいと思い、大学2回生の時に世界的コスメブランドが集まるフランスへ1か月間留学しました。留学先の現地の工場で話を聞かせてもらったとき、逆に相手から日本の技術や文化を称賛されたことがあり、それまで日本の良さにまったく目を向けてこなかったので、日本文化を知らない自分に恥ずかしさを感じました。

 

 

 

 

大学卒業後は、化粧品メーカーで働きながらも、フランス留学時の経験はずっと胸にくすぶっていました。日本文化について身をもって学び、そのすばらしさを世の中へ伝えたいと考え、墨絵を始めました。墨絵は白と黒の濃淡だけで表現することが魅力で、その繊細さも日本らしいと思いました。

 

20代のころは会社員の傍ら、京都や大阪の路上で墨絵の似顔絵を描いたり、作品を販売していました。その頃から着物姿で描いていたので、路上ではおそらく目立つ存在だったと思います()。お客様からは「墨絵なのにオシャレ」と言われ、買ってくれる人もだんだんと増えていきました。仕事の関係で東京に移ってからは、お台場でも描いたりもしました。30歳で個展を開くようになると、創作活動を本格化していき、会社員との両立が難しくなり、36 歳で独立に踏み切りました。

 

 

 

墨絵師としての活動の転機

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

墨絵師として活動することになった転機を教えてください。

 

 

 

「人類みな麺類」プロデュース店の

巨大看板が初仕事に

 

井上さん:墨絵師としての活動の転機は、私の活動に興味を持った甲南OBの株式会社亀井堂総本店の松井社長から、親しい飲食業の社長を紹介していただいたことです。大阪アメリカ村に出店する人気ラーメン店「人類みな麺類」プロデュース店の屋外看板を描くことになりました。店のコンセプトが伝わるように、筆のタッチを生かしつつ、和風のド派手な絵柄に仕上げました。この初仕事がきっかけで、依頼をリピートしていただき、別の飲食店からも声がかかるようになりました。

 

 

初仕事の屋外看板

 

 

現在の活動の主軸は、作品づくりのほか、店舗の看板や内装壁画の制作と、イベントやパーティーで行うライブペイントです。大阪梅田の阪急百貨店やイギリスの高級車ロールスロイスの東京ショールーム、東日本大震災後に再建された福島県龍台寺の落慶祝賀会など、依頼があればどこへでも訪れて、観客の方々の前で墨絵を描いています。

 

日本文化を伝えようにも、興味を持ってもらえなければ始まらないと考えているので、作品には金箔や蛍光色などを取り入れ、チャレンジングで従来の概念にとらわれないようにしています。他にも、通常であれば、墨絵は余白を生かすことで、濃淡の美しさを引き立てます。でも、伝統文様には、〝繁栄〞や〝健やかな成長〞など、一つひとつ意味があり、そんな日本文化も伝えたいので、あえて余白に市松や麻の葉などの文様を盛り込んでみたりもしています。

 

 

京都三条にあるラーメン店の天井面と壁画

 

 

 

エッフェル塔でのライブペイントについて

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

印象に残っているイベントはありますか?

 

 

 

15年の時を経てフランスへ

今度は日本文化を伝えに

 

井上さん:202411月に、フランスのエッフェル塔で開かれる茶会とコラボレーションして墨絵を描くライブペイントは、忘れられない経験です。このイベントは、東京タワーとエッフェル塔の親交から生まれたもので、開催資金をクラウドファンディングで募りましたが、当初はなかなか集まらなくて実現できないかもしれないと思っていました。でも、甲南OBの株式会社エイブル&パートナーズの佐藤代表取締役会長兼社長に支援していただき、目標金額を達成することができました。イベントが実現でき、佐藤会長には本当に感謝しています。ライブペイントでは茶会に合わせ、躍動する「龍」と「虎」を描きました。現地の方からも好評で、「日本に行ってみたい!」と声が上がったときは、墨絵を通して日本文化を広めるという思いが、形になったなと思った瞬間でした。

 

 

フランス・エッフェル塔でのライブペイント

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

甲南大学在学時のお話や

卒業後の関わりについて教えてください。

 

 

 

活動を支援してくれる

甲南ネットワークに支えられている

 

大学在学中には、学祭の看板を作ったりしていたので、その経験が現在の活動の壁画を描くときに生きています。ただ、その時のメンバーからは、「ずっと学祭しているみたいだね!やっていること変わらないね!」と言われますが()振り返ってみれば、甲南大学のネットワークには随分支えられてきました。先ほどお話しした初仕事やエッフェル塔でのイベントは、甲南OBが縁をつないでくれました。フランス留学も「甲南大学同窓会甲南会チャレンジ基金」の奨学金で行くことができました。甲南大学に行ってなければ、今の私はなかったかもしれません。

 

 

 

今後の目標について

 

KONAN-PLANET 記者

 

今後の目標などを教えてください。

 

 

 

墨絵で日本文化を広めるため

次はニューヨークでのイベントを

 

井上さん:私が墨絵師としてここまで歩んでこれたのは、墨絵で日本文化をどう伝えていくのか、目の前の人を喜ばせるにはどうすればいいのかを、真剣に向き合ってきたからだと思っています。次の目標としては、2024年にフランスのエッフェル塔でイベントを実施できたので、アメリカのニューヨークで描きたいなと考えています。墨絵師としての活動の根底にある、日本文化を発信したいという思いは、さらに日本を元気にしたい、自分の国にある文化のすばらしさに気づいて、誇りを持ってほしいと深まってきています。そのためにも墨絵の新たな表現を模索して、これからも描き続けていこうと思います。

 

 

フランス大使館でのライブペイント

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

本日はありがとうございました。

今後のご活躍を楽しみにしています! 

 

 

 

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