コネ採用ってズルい? それとも合理的?
知られざる“つながり経済“の仕組み

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2026.2.20
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「サークルの先輩の紹介でアルバイトが決まった」「友人のつながりでインターンの話を聞いた」「友だちの紹介で就職した」という話、耳にしたことありませんか。人との“つながり“が、採用や賃金、働き方を左右する・・・・・・そんな視点で研究を行っているのが、甲南大学経済学部講師の荻巣嘉高先生。雇用と“つながり“の関係とは? “つながり“を生むには?今の社会を生き抜くヒントについてお話を伺いました。

 

 

Contents

・経済学×ネットワーク科学

・“つながり“と雇用の関係とは

ネットワークが生むメリットと格差

・経済学は世の中を読み解くツール

 

 

 

経済学×ネットワーク科学

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

荻巣先生が経済学の研究をするようになった
きっかけは何だったのでしょう

 

 

 

荻巣 嘉高先生

 

正直なところ「経済学を学べばお金持ちになれるかもしれない!」と思ったのがきっかけです。10年以上、経済学に関わっていますが、残念ながらお金持ちになれる兆しは全くありません(笑)。経済学の中でも、私はネットワーク科学と呼ばれる分野を応用した研究をしています。

 

 

ネットワーク科学に興味を持ったのは、大学院のゼミを決めるために、何人かの先生と面談を行なっていたときでした。神戸大学大学院経済学研究科の小林照義先生の研究室に伺ったとき、経済学者としては見慣れない研究報告用のポスターがありました。それがまさにネットワーク科学の研究だったわけです。話を聞いていくうちに、「これは経済学での応用が利きそうで、面白そうだな」と感じたことがきっかけです。ネットワーク科学は、個々人の行動とその帰結を考えたりする「ミクロ経済学」と経済全体の事象を分析する「マクロ経済学」を“結びつける“ことができる可能性を秘めていると感じました。

 

 

経済学とネットワーク科学を組み合わせると、
どんなことが分かるのでしょうか

 

荻巣先生:マクロ経済学とネットワーク科学を組み合わせることで、採用や賃金の問題を読み解くことができます。中でも、私が注目しているのが、近年活発化している「紹介雇用」です。人を点、友人関係を線として人々を結ぶと、社会ネットワークと呼ばれるネットワークになります。「紹介雇用」とは、この社会ネットワーク、つまり“つながり“から生まれる雇用です。こうした雇用は、採用される側の交友関係が大きく影響し、採用のされ方や賃金、働き方に格差をもたらすことが分かっています。

 

 

 

 

“つながり“と雇用の関係とは

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

現在、紹介採用はどのくらい行われているのですか

 

「紹介雇用」は雇用全体の20%となり、近年のトレンドに。

荻巣先生:2024年の雇用動向調査データによれば、新卒・転職者を含めると、日本で最も多いのは採用サイトなどの広告による採用で約33%。次に多いのが紹介による採用で約20%で、これはハローワークを通じた採用よりも多い割合になります。新卒採用ではそれほど多くないと考えられますが、転職市場では紹介採用の重要性が高まっています。特に最近では第二新卒市場を含め、若年者も転職市場に参加しやすいため、学生にとっても人ごとではないかもしれませんね。

 

 

 

縁故採用のイメージも、以前とは
変わってきているような気がします

 

荻巣先生:そうですね。以前は、知り合いの紹介があれば書類審査もなく入社できることもあったのかなと思います。しかし近年は、紹介であっても面談や選考を行うのが主流です。かつて縁故採用は、やや後ろめたいイメージがありましたが、最近では縁故採用をしていることをオープンにする企業も増えています。その代表例が「リファラル採用」です。

 

 

リファラル採用とは、どのようなものなのでしょう

 

リファラル採用とは、社員が友人や知人を会社に紹介する採用方法

荻巣先生:会社のことをよく理解している社員からの紹介なので、採用のミスマッチが起こりにくいという特徴があります。また、求人広告を出す必要がないため、採用コストを抑えられる点も、企業側にとって大きなメリットですね。

 

 

労働者側には、どのようなメリットがありますか

 

荻巣先生:自分ではなかなか接点を持てない企業と出会える可能性があります。転職サイトの検索では見つからない企業を知るきっかけにもなります。そのため、リファラル採用は、いまや募集情報を得るための一つの手段として定着しつつあります。

 

 

 

 

ネットワークが生むメリットと格差

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

ネットワーク科学の観点から見た、
リファラル採用の特徴はありますか?

 

価値観や属性が似た人が集まりやすく、効率のいい採用が可能

荻巣先生:同じような人が集まるコミュニティから紹介されるため、価値観や属性が似た人が集まりやすい特徴があります。結果として、効率よく業務にフィットする人材を採用できます。このように、同じような価値観を持つ「似たもの同士」が集まることを「ホモフィリー(Homophily)」といいます。

 

 

ホモフィリーとは?初めて聞きました…

 

荻巣先生:簡単に言うと「類は友を呼ぶ」ということです。人は、同じような属性や価値観を持つ人とつながろうとする傾向があります。例えば金融業界のリファラル採用では、銀行に適性のある人が自然と集まりやすくなります。ちなみに私の周りには大学関係者が多く、一風変わった雰囲気の人が多いです(笑)。それもホモフィリーの一例ですね。

 

他にも例えば大学のOB採用などは、ホモフィリーを利用したものと考えられそうです。ある部活のOBが活躍している企業があるとしましょう。このとき企業は同じ部活出身者をOB採用すれば、同じように活躍が期待できる特性を持った労働者を採用できるかもしれません。企業から見るとOB採用は合理的な採用方法のひとつだと言えます。

 

 

 

縁故採用は、国によっても違うのでしょうか

 

荻巣先生:違いますね。日本や中国では恩義を大切にする文化が縁故採用に影響する可能性が指摘されています。※  一方アメリカでは、友人関係から仕事を見つける人が多く、SNSを活用した採用も盛んです。また、退職した元社員を再雇用することも昔から多いです。日本では、最近よく耳にするようになったアルムナイ採用が似ているかもしれません。お国柄や国民性が表れていますよね。

※引用:渡辺深 (1991) 「転職:転職結果に及ぼすネットワークの効果」『社会学評論』42巻
Bian, Y. (1997) “Bringing strong ties back in: Indirect ties, network bridges, and job searches in China,” American Sociological Review, 62.

 

 

同じ紹介採用でも、誰からの紹介かで大きく違う。

 

荻巣先生:ひとえに紹介と言っても、親族からの紹介と、ビジネスパートナーからの紹介では、構造がまったく異なります。アメリカでの研究によると、親族からの紹介では雇用側が「親族だから安い給料でも働いてくれるだろう」と考えることから、賃金が低くなりがちです。また、恩義を感じて離職しづらくなる傾向もあります。一方、ビジネスパートナーからの紹介は、スキルアップを目的に転職してくる人が多いため、賃金が高くなりやすい傾向があります。ただし、キャリア志向が強いため、次のステップを求めて転職しやすいという特徴があります。これは企業にとってデメリットですね。

※引用:Brown, M., E. Setren and G. Topa (2016)
“Do referrals lead to better matched? Evidence from a firm’s employee referral system,” Journal of Labor Economics , 34.

 

 

 

リファラル採用が広がることで、
社会にどのような影響がありますか?

 

リファラル採用は社会的な分断を引き起こす!?

荻巣先生:今後リファラル採用が浸透してくると、交友関係が広い人には有利ですが、交友関係がそれほど広くない人はチャンスが減るわけです。また、ホモフィリーの存在は紹介雇用を通して同じような人を職場に引き寄せ、異なる視点や価値観を持った人の採用を妨げる可能性があることも指摘されています  そういう意味で、リファラル採用は社会的な分断を招く可能性があると言われています。ダイバーシティが叫ばれる今だからこそ、注意が必要です。

※引用:リファラル採用の落とし穴 東京大学教授・山口慎太郎-ダイバーシティ進化論」『日本経済新聞』2022年11月7日

 

 

 

「良いつながり」を築くヒント

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

大学生にとって就職は重要なトピックです。
「良いつながり」を築くために、
日常から意識できることはありますか?

 

荻巣先生:大学には、至る所に人と出会うチャンスがあります。授業で、ゼミで、部活で、アルバイトで、いろんな人とつながることができる。どこにチャンスが転がっているか分かりませんから、接点を多く持っておくことが大事だと思います。

 

それが、何かを始めるきっかけになったり、就職のチャンスや、高い賃金につながる可能性がある。また、将来的には、その人が自分の夢を手伝ってくれる人になるかもしれません

 

 

なるほど!
でも、すべての人と濃い関係が作れるか不安です…

 

Keep in touch――薄くてもつながりを持ち続けよう

荻巣先生:実は、違う社会階層の人とつながるには、「薄い関係」のほうが良いという研究があります。
就職活動のOB訪問などは、同じ大学という共通点はありますが、面識のない薄いつながりですよね。そういうつながりの方が、知らない世界の人や違うグループとつながる「ブリッジ」になることがあります。

 

濃いつながりである必要はなく、「Keep in touch」、つまり薄くてもつながりを持ち続けることが大切です。

 

 

 

経済学×ネットワークの視点で見ると、
いろいろなことが見えてきますね。
ちなみに、先生のゼミでは
みなネットワークについて研究しているのですか?

 

荻巣先生:それが、誰もやってくれないんですよ(笑)。学生はそれぞれ興味のあることが違いますから、私のゼミでは、みなが自立してそれぞれのテーマを研究しています。自分に合った目標を持ち、ゴールを決めて、自分の研究を進めていくというように、学生の自主性に任せています。

 

 

最後に、
経済学を学ぶことで「身につく力」とは何でしょうか?

 

社会を読み解くツール=経済学で、洞察力を身に着けよう

荻巣先生:私は経済学を「工具箱」のようなものだと考えています。経済学というツールで社会を分解すると、いろいろなことが見えてきます。

 

また、どういうメガネをかけて社会を見るのかで、社会の見え方が変わってきます。合理的に見えて実は合理的ではないもの、逆に合理的ではないように見えて合理的なものを見分ける力が身につきます。それが、世の中を見る「洞察力」につながるのだと思います。

 

 

世の中を見る「洞察力」とは?

 

荻巣先生:例えばSNSで「1カ月で1億円稼ぐ方法を教えます」という広告がありますが、本当に儲かるなら自分でやればいいはずで、わざわざ教える必要ないですよね。

 

そうした違和感に気づけるようになると、怪しい話に騙されにくくなります。経済学というツールを使って、ぜひ、これからを生き抜く洞察力を身につけてください。

 

 

 

今回お話しを聞いた人
甲南大学 経済学部 経済学科 荻巣 嘉高講師

南山大学経済学部経済学科卒業。2024年3月に神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程を修了し、2024年4月より現職。専門分野はマクロ経済学・労働経済学・ネットワーク科学で、日本経済学会、日本応用経済学会、日本金融学会に所属。趣味はゲーム、アニメ、温泉旅行。

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