甲南大学の読書王に聞く!
今年読んだおすすめの本 ベスト3 2025
今年読んだおすすめの本 ベスト3 2025
ネット時代にこそ必要な、読書で鍛える知的体力。
人類が、情報を個人の「記憶」ではなく、媒体への「記録」として残しはじめてから、少なくとも5,000年の歴史があるとされています。紙と印刷は情報の大量流通を実現し、デジタル技術はさらに高速で拡大させています。ネットの公開情報ならだれでも瞬時にアクセスでき、生成AIを使えば要約までしてくれる時代。一方で「知的体力」という言葉が注目されています。ネットなどで効率的に収集した情報でも、それを効果的に活用するには知性の基礎体力が必要だというわけです。では、この知的体力の持久力や柔軟性を鍛えるにはどうすれば良いか。その手段として、読書が有効だと言われています。すでに恒例の読書王企画。ライブラリサーティフィケイト認定を受けた甲南大生からのおすすめ本を通じて、ぜひ新たな読書体験に触れてみてください。そしてネット時代にこそ必要な知的体力を鍛えましょう。
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KONAN-PLANET 記者
まずは自己紹介と、読書好きになった
きっかけなどをお聞かせください。
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海野 朱音さん
私の母が読書好きで、祖母の家に行ったときものすごい数の本があったんです。2~300冊はあったと思うんですけど、それを「すべて読んでみたい」と思ったのがきっかけでした。
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岡本 悠伽さん
私は大学に入ってからです。なにか新しい趣味を始めたいなと考えたとき、読書なら手軽に始められて良いかなと思いました。空き時間などを利用すれば、ずっと続けていけそうですしね。
ー いつも読む本はどうやって選んでいますか。
海野さん:特に意識はしていませんけど、友人に勧められて読みはじめることも多いですね。あとは、ドラマやアニメなんかでストーリーにひかれて、その原作を読むことも多いです。どうしても気になる続きを、一気に読むことができますし。
岡本さん:私はネットで興味をもつことが多いですし、本の雑誌『ダ・ヴィンチ』とかで情報を集めたりもしています。もちろん、よく書店に足を運んで、本棚をくまなく歩いたりもします。選び方は、ほんとさまざまですね。
ー ライブラリサーティフィケイトの認定には、入学後に一定数以上の本を読んで記録することが条件にありますが、1年にどれぐらいの本を読むんでしょう。
海野さん:1回生のときからエントリーしていますが、年間の読書数は30冊ぐらいでしょうか。ただ今年は就活とかいろいろと忙しかったので、まだ20冊ぐらいしか読めていません。
岡本さん:私も大学院への進学を志望しているので、今年はまだ20冊ぐらいですね。ライブラリサーティフィケイトも2級の条件は満たしているんですが、教員インタビューという課題をクリアする時間がとれずに足踏みしてしまっています。

まず3位は、人気ドラマの原作と異色の哲学書。

KONAN-PLANET 記者
それでは、いよいよおすすめBEST3の発表にいきましょう。
まずは海野さんとっての第3位は?
海野さん:私の第3位は、東野圭吾さんの『真夏の方程式』です。

ー ドラマ化された「ガリレオ」シリーズの一作で、映画化もされた作品ですね。どんな内容なんでしょう。
海野さん:主人公の物理学者・湯川学は、海底資源開発の説明会のため玻璃ヶ浦という町を訪れ、そこで出会った小学生の恭平と親しくなります。ところが、二人の滞在する旅館で元刑事の変死事件が発生。湯川は、16年前の未解決事件とあわせて真相を究明しつつ、関係する家族の秘密にも迫っていくというミステリーです。
ー この小説の魅力はどこでしょう?
海野さん:ミステリーの鍵であるトリック解明だけでなく、家族の愛や罪と向き合う人間ドラマがとても心に残る作品なんです。シリーズを通して湯川学はちょっと偏屈で、子ども嫌いの人物として描かれているんですが、この作品では少年としっかり心を通わせ、その姿にはぬくもりさえ感じさせてくれます。また、とても美しい海辺の風景と、とても切ない事件の真実。その対比が印象的で、読み終えた後にすごく深い余韻が残りました。
ー なるほど、単なる謎解きではないドラマが楽しめるんですね。
では、岡本さんの第3位を教えて下さい。
岡本さん:私は、しんめいPさんの『自分とか、ないから。』を選びました。

ー なんともユニークな著者名と作品名ですね。どんな内容なんですか?
岡本さん:東大卒業の作者が32歳のとき、とつぜん虚無感におそわれて無職になり、離婚して実家に帰るんですね。そこから立ち直ろうとしているときに出会った、東洋哲学について紹介している哲学エッセイです。
ー なんだか硬そうな内容ですね。
岡本さん:ところが全然違うんですよ。「哲学」というと、小難しいイメージがあると思うんですが、とても軽い口調と砕けた文体で、すごくおもしろく解説してくれます。ほんとうに“笑える哲学エッセイ“になっているんです。「無我」とか「空」とか、東洋哲学の難解な思想をユーモアたっぷりに説明してくれて、ほんとうに肩の力を抜いて読むことができる。読者の心を軽くしてくれるような、おすすめの一冊です。
ー なるほど。エンタメとして楽しめる哲学書。これは新鮮ですね。
学ぶこと、気づくこと。どちらも読書の醍醐味。

KONAN-PLANET 記者
つぎはBEST3の第2位にいってみましょう。
海野さん:私の第2位は、柿内尚文さんの『パン屋ではおにぎりを売れ』です。

ー これは、いわゆるビジネス書ですか。
海野さん:ええ。「考える力はセンスではなく技術で磨ける」という視点から、誰でも実践できる12の思考法を紹介する本です。タイトルからもわかるように、常識をすこし“ずらす“ことで、新しい価値やニーズを見つける。そんな発想法を教えてくれます。
ー ユニークなアイデアを見つめるための考え方を、鍛えてくれるわけですか。
海野さん:はい。「考えるって、こういうことか!」と、読めばまさに目からウロコが落ちます。ただ論理的に思考するだけでなく、直感や遊び心を大切にする姿勢が新鮮で、アイデアに行き詰まったときの突破口になると思います。大学のゼミや課題でアイデアを考えるときにも、すごく役立つと思いますね。「もっと早くこの本に出会いたかった」と、本気で残念に思うほどでした。ビジネス書と言っても、学びや就活にも役立つような、柔軟な発想を育てるためのヒントが満載です。
ー すごい高評価ですね。これは一読の価値がありそうです。
続きまして、岡本さんの第2位は?
岡本さん:私が選んだのは、吉川トリコさんの『余命一年、男をかう』です。

ー これまた印象的なタイトルですね。いったい、どんな物語なのでしょう?
岡本さん:主人公の片倉唯は40歳ですが、幼いころから貯金が趣味で、老後のためにずっと節約の生活をしていました。ところが無料だからと受けたがん検診で、子宮頸がんだと診断されてしまう。そんな彼女が、病院の待合でホストのリューマから借金を頼まれることが発端の物語です。
ー 余命宣告された女性とホストの男性、意外な組み合わせですね。おすすめの理由はどこでしょう。
岡本さん:唯は、もう節約する必要もなくなった解放感を感じて、延命治療も拒否するんですね。けれど知り合った男性、家族のためにホストをしているリューマとの交際を通じて、少しずつ生きることの大切さに気づいていくんです。余命宣告ものにありがちな悲劇的なラストではなく、唯が生きることに対して前向きになっていく展開が感動的でした。だれしも将来への不安はあると思いますが、いまこの瞬間に目を向けて、楽しんで生きることも忘れたくないなと感じさせてくれました。
ー 暗くなりがちなテーマなのに、むしろ希望を感じさせてくれる小説。これは興味がわきますね。
ともに、時代を超えた世界観が魅力の小説が1位に!

KONAN-PLANET 記者
それでは、いよいよ第1位の発表をお願いします。
海野さんにとって今年のベストだった一冊は?
海野さん:私の第1位は、日向夏さんの『薬屋のひとりごと』です。

ー アニメ化もされて、いま大人気のシリーズですね。あらためてどんな内容なのでしょう?
海野さん:薬師の少女・猫猫(マオマオ)は、誘拐されて後宮に売られてしまいます。そこで幼い皇子が変死する謎に直面するんですが、彼女は薬や毒の知識と観察力を活かして真相を探ります。そのなかで美貌の宦官・壬氏に見出され、後宮の事件に次々と巻き込まれていく物語です。
ー 中世後宮を舞台にしたミステリー・サスペンスというわけですね。どんな点が、特におすすめなんでしょうか?
海野さん:まず、猫猫の冷静でマイペースな性格がとても魅力的なんです。タイトルに「ひとりごと」とあるように、自分から積極的に解決していくわけではなく、下女という弱い立場から仕方なく巻き込まれてしまう。けれど感情に流されず真実を見抜く姿が、とてもかっこいいんです。他にも、薬と毒の知識を使ったミステリー展開、後宮の華やかさと裏に潜む陰謀のギャップ、そして壬氏との恋愛要素と見どころがいっぱいの作品です。推理、歴史、恋愛といったさまざまなジャンルが一冊で楽しめて、いろんな人に幅広くおすすめできます。
ー 世界観、キャラクター設定、ストーリー展開とすべてが魅力的なんですね。人気の理由がよくわかります。
それでは、岡本さんが選んだ年間ベストの作品を教えてください。
岡本さん:1位に選んだのは、髙田郁さんの『志記』です。

ー 髙田さんといえば時代小説で有名な作家さんですね。どんな作品なんでしょう?
岡本さん:これも、江戸を舞台にした時代小説です。黒兼藩の藩医を代々勤める蔵源家に生まれた美津と、備前刀を手掛ける刀鍛冶の一族で祖母も鍛刀として有名だった暁。どちらも女性には困難とされる道を選んだ二人。その運命が、19歳のときに江戸で交錯するという物語です。
ー 恋愛もの以外で女性が主人公の時代小説はめずらしいですね。1位にあげた理由はなんでしょう?
岡本さん:言葉ではなく行動で示していく主人公たちに、勇気をもらえたことですね。たとえば美津は、藩医学校で男性たちからさまざまな妨害を受けるんですが、言い返すのではなく、つねに成績トップを取り続けることで自分を証明していく。おなじ女性として、そんな姿にはやはり共感してしまいます。連作小説の第1巻として刊行されたばかりですから、この先、二人にどんな運命が待ち構えているのかはまだまだわかりません。けれど、とにかく続きを読みたいと心から思わせてくれる一冊でした。時代小説は他に池波正太郎さんの作品とかも読みましたが、髙田さんの小説はもっと現代的ですごく親しみやすいので、多くの人におすすめできます。
ー 男女格差というのはいまだに残る課題ですから、その重要性を再確認させてくれそうですね。
広がるイメージで、時間さえ忘れる読書の世界。

KONAN-PLANET 記者
大学の勉強なども忙しいなか、月に2~3冊の読書ペースを維持するのはなかなか難しいと思いますが、工夫していることはありますか?
海野さん:わたしは電車通学なので、その時間を利用しています。読書に集中しているとあっという間なので、乗車時間も気にならないですね。あと、勉強の合間に休憩がてらの読書時間を挟むようにしています。このとき、あえて先が気になるページで止めて、続きを読むためにも勉強を早く終わらせようというモチベーションにしています。
岡本さん:それはすごいですね。私は続きが気になると止められないタイプなので、ちょっと真似できそうにないです(笑)通学時間を利用して読書時間を確保しているのは同じですけど、ついつい夢中になりすぎて、下車する駅を乗り過ごしたりすることもあるぐらいですから…。
ー それでは最後に、読書の魅力について教えてください。
海野さん:やはり自分の知らない世界に入り込めること。そして、登場人物の気持ちや行動などを自由に空想を広げることができる点ですね。その分、好きな小説がドラマやアニメになったとき、俳優や声優のイメージが違いすぎてショックを受けることもありますけど…。とにかく本を読むだけで、ちょっとした冒険をしている気分になれることが魅力です。
岡本さん:同じく、一瞬で現実とは異なる時代や世界にのめりこめるところですね。あと1位にあげた『志記』もそうですけど、自分と同じとは言わないまでも、似たような境遇にある登場人物の物語を読むことで勇気をもらえることです。私も、法科大学院に進んで司法試験合格を目指そうと思っているので「もっとがんばろう!」という気持ちになれました。
ー 本日はありがとうございました。これからも、お二人が素敵な一冊とめぐりあえますように。


KONAN-PLANET 記者
フランスの小説家スタンダールは「良い本は人生におけるイベント」
だと語りました。今回取材したお二人もそうですが、
結局のところ読書家のモチベーションとは「楽しい」ことなのです。
書店や図書館、あるいはネットにも、本という無限の
エンターテイメントが読者を待っています。
ぜひとも、そこから気になる一冊を見つけてみてください。
楽しみながら知的体力も鍛えられるのなら、
これはなかなか優れた時間投資だと思います。
※画像の引用元はamazonから使用しております。
