公認心理師という“心の専門職”をめざして
─ 異文化の中で見つけた道

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2025.7.22
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中国出身の李 匯崢(リ カイソウ)さんは、2018年に甲南大学経済学部に正規留学生として入学。在学中に経済学だけでなく心理学にも関心を深め、公認心理師養成カリキュラムを履修しました。大学及び大学院で必要な単位を修得。今年(2025年)3月に実施された第8回公認心理師国家試験で見事合格されました。留学生として日本で学ぶ日々の中、言語や文化の壁を乗り越えながら、心理支援の専門職をめざして努力を重ねた李さん。今回はその挑戦の軌跡と、資格取得までの道のりについて、お話を伺いました!

 

 

Contents

・公認心理師資格の取得まで

・公認心理師と臨床心理士の違い

・甲南大学の公認心理師養成カリキュラム

・李さん インタビュー

 

 

 

 

公認心理師は、2017年に施行された「公認心理師法」に基づいた、日本で初めての心理職の国家資格です。医療、福祉、教育、司法、産業など、さまざまな分野で心のケアを担う専門職として位置づけられています。心理学に関する専門的な知識と技能をもとに、支援を必要とする人々に対して、他職種と連携しながらカウンセリングやアセスメントなどの心理支援を行います。社会の多様な場面で心の健康を支える公認心理師の役割は、年々重要性を増しています。

 

 

公認心理師資格の取得まで

 

これから心理学を学ぶ方の一般的な取得方法は区分A・B・Cの3つのルートで、その条件は以下の通りです。(※この3つのルート以外に、すでに大学や大学院で心理学を専門的に学び終え一定の条件を満たした方が資格取得できる、経過措置もあります)

 

 

4年制大学で「指定の科目」を履修し、さらに大学院で「指定の科目」を履修・修了することで国家試験の受験資格を得ます。

 

4年制大学で「指定の科目」を履修した後、「特定の施設」において2年以上の心理職実務経験を積み、所定の研修を受けることで受験資格を得ます。

 

区分AおよびBと同等以上の知識と技能を有すると認定された者が、個別審査により受験資格を得ることができます。

 

これらの条件を満たすことで、公認心理師試験の受験資格が得られます。そして試験に合格し、公認心理師としての登録証が発行されてはじめて、公認心理師として正式に認められます。

 

 

 

 

 

公認心理師の資格は、心の専門職として多様な分野で活かすことができます。代表的な活躍の場には、病院やクリニックなどの医療機関、学校や教育センター、福祉施設、企業の相談室、司法・矯正施設などがあります。医療の現場では患者や家族への心理的支援、学校では児童生徒の心のケアや発達支援、企業ではメンタルヘルス対策や職場環境の改善に貢献します。

 

 

 

臨床心理士は、臨床心理学にもとづいた専門的な知識と技法を用いて、心の悩みや問題に取り組む心理専門職です。資格は、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格で、長い歴史と実績を持ち、信頼性の高い資格として広く認知されています。

 

臨床心理士は、医療機関や学校、児童相談所、福祉施設、企業などさまざまな場で、カウンセリングや心理アセスメント、心理療法などを通じて支援を行います。とくに教育・医療・福祉領域でのニーズが高く、スクールカウンセラーや医療チームの一員として活動することも多く見られます。

 

公認心理師と臨床心理士は、どちらも心理支援を行う専門職ですが、それぞれの特徴を以下のようにまとめました。

 

 

 

 

 

甲南大学の公認心理師養成カリキュラム

 

甲南大学では、公認心理師の受験資格を得るために必要とされるカリキュラムを提供しています。学部卒業後は、他大学の大学院進学が必要になりますが、国立大学法人を含む公認心理師・臨床心理士養成の大学院への推薦入学制度があります。甲南大学の公認心理師養成カリキュラムの大きな特徴は、心理学系の学部・学科に限らず、すべての学部の学生が公認心理師を目指してカリキュラムを履修できる点にあります。例えば、経済学部や理工学部などに所属しながら、心理学の専門科目や実習を計画的に履修することで、国家試験受験に必要な要件を満たすことが可能です。これも甲南大学の彩り教育のひとつです。

 

 

公認心理師の試験は2018年から始まりましたが、本学の公認心理師養成カリキュラムを履修した一期生が初めて国家試験を受験したのは、第7回(2023年度)からです。その第7回試験では合格率90%を記録し、全国平均(76%)を大きく上回りました。続く第8回試験(2025年3月実施)でも、本学卒業生の合格率は83%と、全国平均(67%)を大幅に上回る結果となっています。

 

 

 

李さん インタビュー

 

では、公認心理師に合格された、李 匯崢(リ カイソウ)さんにお話を伺います。李さんは現在、甲南大学大学院人間科学専攻博士後期課程に進学されています。

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

甲南大学を選んだ理由は?

 

 

 

李 匯崢さん

 

大学進学時には、社会や人の行動を広い視点で理解したいと思い、実学としての側面が強い経済学部を選びました。特に甲南大学は、少人数制で学生と教員との距離が近く、丁寧な指導を受けられる点に魅力を感じました。また、落ち着いた学習環境と関西圏でのアクセスの良さも決め手となり、自分のペースでしっかり学べると考え、進学を決めました。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

キャンパスライフの思い出は?

 

 

 

李 匯崢さん:学問に集中できる落ち着いた環境で、先生方も温かくサポートしてくださいました。中でも、学内の研究発表会で異なる分野の学生たちと意見を交わしたことが印象に残っています。日本人学生や他の留学生との交流を通して、視野が広がり、多様な価値観に触れられたのは貴重な経験でした。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

公認心理師を目指したきっかけは?

 

 

 

李 匯崢さん:留学生活の中で、文化や言語の違いから孤独や葛藤を抱える人が多いことに気づきました。私自身もそうした体験をしたからこそ、“心の専門家”として誰かの支えになりたいと思うようになりました。心理学を学ぶことで、多様な人々が安心して自分らしくいられるよう寄り添いたいと考え、公認心理師を志しました。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

実際、公認心理師養成カリキュラムを
履修してみていかがでしたか?

 

 

 

李 匯崢さん:医療・福祉・教育・司法など、幅広い領域を視野に入れた学びができました。特に印象的だったのは、実習やスーパービジョンを通じて、“語りに耳を傾ける姿勢”の大切さを体感できたことです。文化の違いに寄り添う臨床を目指す私にとって、多くの気づきと学びのある貴重な経験でした。

※スーパービジョン…心理士が専門性を向上させるために、経験豊富な心理士から指導や助言を受けること。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

苦労されたことや印象的な経験は?

 

 

 

李 匯崢さん:一番大変だったのは、日本語での専門的な文献や法律の理解、そして実習記録や報告書の作成です。精神科病院や学校での実習では、緊張しながらも多職種の支援者と連携し、クライエントと関わる経験ができました。異なる文化背景を持つクライエントの話を聴く中で、“言葉にならない思い”をどう受け止めるかを深く考えるようになり、それが今の研究テーマにもつながっています。

 

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

大学院での学びについて教えてください。

 

 

 

李 匯崢さん:大学院は実践と理論が深く結びついた教育で、“その人の世界にどう寄り添うか”を真剣に考える姿勢を養うことができました。特に、事例検討やスーパービジョンでは、単なる知識ではなく、クライエントとの関係性や対話の中で生まれる感情に向き合う経験ができました。少人数制のゼミで、自分の文化的背景も含めた対話を通じて、多様性を尊重する臨床姿勢を学ぶことができました。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

国家試験を振り返っていかがでしたか?

 

 

 

李 匯崢さん:最も苦労したのは、広範な出題範囲を日本語で正確に理解し、記憶することでした。制度や法律、発達・教育領域の専門用語に苦戦しましたが、過去問を繰り返し解き、友人と内容を教え合うことで理解を深めました。合格を知ったときは、ほっとした気持ちと同時に、“ようやくスタートラインに立てた”という実感が湧き、支えてくれた先生方や仲間への感謝で胸がいっぱいになりました。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

現在の研究について教えてください。

 

 

 

李 匯崢さん:現在は、甲南大学大学院人間科学研究科で、精神分析的心理療法における『異文化間の治療関係』について研究しています。文化やエスニシティ(民族性)の異なる治療者とクライエントの間で無意識的に生じる感情や誤解が、治療関係にどのような影響を与えるのかに関心を持っています。日本社会における外国人治療者としての臨床経験をもとに、文化的違いが治療の中でどう現れ、それをどう理解し乗り越えるのかを探究しています。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

これから目指す人へのメッセージをお願いします。

 

 

 

李 匯崢さん:最初は言語や文化の違いに不安を感じることもあると思いますが、その経験こそが心理臨床において大きな力になります。多様な視点を持つことで、クライエントの語りをより深く理解し、寄り添うことができます。困難に直面したときは一人で抱え込まず、周囲とつながりながら歩んでください。あなた自身の背景や感性が、きっと誰かの支えになる日が来ると思います。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

今後の目標は?

 

 

 

李 匯崢さん:多文化間の違いを理解しながら支援を行う臨床心理の分野で、実践と研究の両面から貢献していきたいと考えています。特に、言葉にしづらい孤独や葛藤を抱える人々に寄り添い、その人の文化的背景や語りに丁寧に耳を傾ける姿勢を大切にしたいです。また、将来的には大学などの教育機関で、異文化理解を重視した心理支援の在り方を次世代に伝えていけたらと願っています。

 

多文化間臨床の分野で実践と研究を両立しながら、教育機関で異文化理解に基づく心理支援の重要性を伝えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

異文化の中での経験を自分の強みに変え、
公認心理師としての一歩を踏み出した李さん。

 

研究と実践の両面で活躍されるとともに、
心理学や異文化理解の大切さを
次の世代に伝えていってくれることでしょう。

 

これからの李さんの活躍を期待しています。

 

 

 

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