「本学OBOG経営者に学ぶ 第3回経営者サロン」
ビジネスのヒントは足元に落ちている。
日常の「違和感」を価値に変え、絶望を「遊び」で突破する経営哲学
―株式会社クロシェ代表取締役 沼部美由紀氏に学ぶ―

NEWS!『甲南人』の活躍 > トピックス
2026.2.20
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2025年12月19日、経済学部主催の「第3回経営者サロン」が開催されました。ゲストは本学経済学部の卒業生で、株式会社クロシェ代表取締役の沼部美由紀さんです。累計8万足を売り上げたバレエシューズブランド「farfalle(ファルファーレ)」や「TRECODE(トレコード)」、セレクトショップ「Jasmin Speaks」など、数々のヒットブランドを世に送り出してきた沼部さん。約90分間にわたるサロンでは、華やかな成功の裏側にある「挫折」や「独自の市場分析」、そして逆境を力に変える経営哲学が、ユーモアを交えて明かされました。

 

 

「もっと広い世界を見たい」―

幼少期の好奇心が全ての原点

 

-沼部氏の飽くなき探究心の源泉は、10歳までの記憶に遡ります。

 

沼部美由紀さん

 

沼部さん:私の原点は、幼少期の環境にあります。当時は、少し治安が不安定な地域に住んでいました。九州から関西へ移り住んだ両親は、新しい土地で自分たちのコミュニティを大切に実直に生活していましたが、子供の目にはその世界がとても限定されたものに映り、少しもどかしく感じていたんです。テレビに映る芦屋の穏やかな光景を見ては、『あっち側には、もっと広くて綺麗な世界があるはずだ』と、食い入るように画面を見つめていました。

 

-この「現状の枠を超えて、広い世界へ飛び出したい」という純粋な渇望こそが、彼女のその後の人生を突き動かすエネルギーとなりました。

 

 

 

「事務ができない」という直面と、銀行員時代の苦悩

 

-大学卒業後、バブルの波に乗って大手銀行に入行した沼部氏ですが、そこで「自分に向いていないこと」に直面します。

 

沼部さん:学生時代、事務作業が苦手でアルバイトを継続できなかった経験があったのですが、銀行に入っても書類の入力ミスを繰り返してしまい、周囲のエリートたちとの差に打ちのめされる日々でした。でも、面接で評価された『喋ること』や『人と繋がること』には自信がありました。そこでようやく、自分の才能が活きる場所は他にあると確信したんです。

 

-2年後、彼女は「海外へ行ける」という言葉に導かれ、食器輸入商社のバイヤーへと転身します。

 

 

 

 

 

「体験」こそが価値を生む ―

ダンボールから始まった快進撃

 

-27歳で独立し、念願の食器店をオープンさせたものの、当初は全く売れない日々が続きました。

 

沼部さん:綺麗な食器を並べるだけでは、お客様の心は動きませんでした。でもある日、営業時間中に届いた荷物を解いていると、お客様が『何が入っているの?』と興味津々に覗き込んできたんです。イギリスの古い新聞紙に包まれた食器を見て、『現地の空気を感じるわ!』と喜んで買っていかれました。お客様は単なる『モノ』ではなく、届いたばかりのワクワクするような『体験』を求めているのだと気づいた瞬間でした。

 

-その後、沼部氏は「ダンボールを開封する日」をイベント化し、店を大繁盛へと導きました。

 

 

 

 

 

「5分と5時間」の差―

観察から生まれた独自の分析術

 

-食器店からアパレルへと事業を広げたきっかけは、百貨店での催事という「足元」の現場にありました。

 

沼部さん:大好きだったイギリスの食器の設営には、重い商品を一つずつ並べるのに5時間もかかりました。しかし、ふと隣のブースに目を向けると、インポートセーターを販売しているアパレル店は、わずか5分で設営を終えていたんです。 驚きは設営時間だけではありませんでした。単価の低い食器に対し、隣のアパレル店は売上でも10倍近い差をつけていたのです。 この効率の違いに気づけたのは、自分の作業に没頭するだけでなく、周囲を観察していたからです。どこに気づきがあるか、常にアンテナを張っておくことの重要性を学びました。

 

-アパレル知識がゼロの状態から、彼女は独自の市場分析を開始。ネットの情報ではなく、自ら市場の最前線へ足を運び、業界の流通構造や原価率を徹底的に調査しました。この時作り上げた独自の「仕入れ地図」を手にフランスへ飛び、独自のルートを確保したことが、その後の大きな飛躍へと繋がりました。

 

 

 

 

 

 

石川教授が読み解く「エフェクチュエーション」の思考

 

 

-この沼部氏の鮮やかな転換と行動を、ファシリテーターの石川路子先生(経済学部)は経営学の視点から解説しました。

 

ファシリテーター
石川 路子先生

 

石川先生:沼部さんの行動は、まさに『エフェクチュエーション(実効理論)』そのものです。これは、あらかじめ完璧な目標を立てて突き進むのではなく、『自分は誰か(個性)』『何を知っているか(知識)』『誰を知っているか(人脈)』という、今手元にあるリソースを活用し、偶然の出来事をチャンスに変えていく思考プロセスです。

 

 

 

 

倒産危機の絶望さえも「キャンプ」でチャンスに変える

 

-10年間右肩上がりの成長を続けた後、リーマンショック後の売上激減により、倒産寸前の危機に直面します。

 

沼部さん:10年間うまくいきすぎて、自分を無敵だと思い込み、勉強を止めていた報いでした。家も車も失うかもしれないという極限状態。そこで私がしたことは、現実逃避の『キャンプ』でした。子供には『これから毎日車で暮らすことになるぞ』と教育しつつ(笑)、週末をキャンプ場で過ごすうちに、まだブーム前だったキャンプ関連のビジネスを思いつきました。これがV字回復のきっかけとなったのです。どん底まで落ちれば、あとは上がるだけ。沈んだ分だけ、高く飛べる。人生のグラフにマイナスがあるからこそ、大きなプラスが生まれるのです。

 

 

 

 

 

学生へのメッセージ

 

 

-サロンの終盤、沼部氏はこれから社会へ出る学生たちに向け、最も重要な教訓を伝えました。

 

沼部さん:ビジネスの種(自分だけの秘密)は、ネットの中ではなく、常に皆さんの足元に落ちています。でも、気づくだけでは不十分です。大切なのは、その気づきを大切にして、すぐに行動に移すことです。

 

-最後に学生たちとのディスカッションでは、不安と向き合う学生たちへ力強いアドバイスが送られました。

 

 

 

全てを賭けるのではなく、生活を守る「保険の財布」と、挑戦のための「チャレンジ財布」を分けることで、大胆な一歩が踏み出せる。

 

 

 

「やろう」と決めた瞬間、一旦情報を遮断する。情報を入れすぎると他人の失敗まで自分のことのように感じて足が止まる。まずは一歩踏み出し、動きながら修正すればいい。

 

 

 

AIにできないのは「感情」で人を動かすこと。自分が心から「面白い」と思う熱量こそが、これからの時代の武器になる。

 

 

-石川路子先生(経済学部)は、「沼部さんのように、自ら行動して見つけた『自分だけの秘密(気づき)』を形にする力こそが、今の予測不能な時代を生き抜く本質である」と結びました。

 

 

 

〈  編集後記  〉

沼部氏の物語は、まるで「真っ暗な夜道を、手元の小さな懐中電灯だけで進む探検」のようです。遠くのゴールが見えなくても、目の前の足元を照らし続け、そこに落ちている「違和感」という石を拾い集めるうちに、いつの間にか道ができ、振り返れば輝かしい航跡となっている。 「成功も失敗もすべては資産になる」。どんな逆境も「面白がる」沼部さんの姿勢は、これから社会へ羽ばたく学生たちにとって、最高のエールとなりました。

 

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