カンボジア児童養護施設の“おかあさん”。
「スナーダイ・クマエ」の絵画展を開催します。

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2023.8.18
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カンボジアのシェムリアップ州にある児童養護施設で、子どもたちから「おかあさん」と慕われる日本人女性がいます。それが「スナーダイ・クマエ」事務局長のメアス博子さんです。
メアスさんは、1997年に甲南大学経営学部を卒業され、卒業旅行でカンボジアを訪れたことがきっかけで、カンボジア人男性とご結婚。その後ご主人が1998年に児童養護施設「スナーダイ・クマエ」を設立(同年カンボジア内務省ローカルNGO登録済み)。メアスさんは2000年より同施設の管理運営責任者となり、2011年から2018年は代表を務められ、現在は事務局長をされています。「スナーダイ・クマエ」はカンボジアの言葉(クメール語)で「カンボジア人の手によるもの」という意味が込められています。
今回は施設に関わることとなった経緯やこれまでの思い出、設立当初と比べて変わったこと、これからの目標など様々にお話しをお伺いしました。

 

 

KONAN-PLANET記者

本日はよろしくお願いいたします。
早速ですが、メアスさんがカンボジアとつながりを持たれたきっかけを教えてください。

 

 

メアスさん

私が大学4年のとき、母が知人からカンボジアに中学校の校舎を建設したので、それを見に来ないか、と誘われたことがきっかけです。母自身は都合がつかず、ちょうど卒業旅行の時期だったため、私が代理として一人で見に行くことになりました。これが契機となって、初めてカンボジアとのつながりを持ちました。

 

 

 

偶然にカンボジアとの縁がつながったメアスさん。その後、新しく建設された中学校の建設責任者兼日本語通訳者として現地にいた男性と出会い、ご結婚されます。そしてそのご主人が、1998年に児童養護施設「スナーダイ・クマエ」を設立することとなりました。

 

 

KONAN-PLANET記者

ご主人はどうして児童養護施設を創られたのですか?

 

 

メアスさん

彼は少年時代にカンボジアの内戦に巻き込まれ、それから逃れるために来日していました。日本で大学院まで出たのですが、その過程で多くの方からたくさんの支援をいただいて高等教育を受けることができました。一方で、大学在学中に、自分がかつて生活していた難民キャンプを訪れたときに、あれから何年も経っているにも関わらず、当時とほとんど何も変わっていない現状を目の当たりにして、これは自分がカンボジアのためにやらなくてはいけないと考え、教育の機会を持てない子どもたちを支援すると決めたそうです。

 

 

KONAN-PLANET記者

メアスさんは2000年から運営に携わられていますよね。何かきっかけがあったのですか?

 

 

メアスさん

1999年から、カンボジアの首都プノンペンで夫と幼い息子とともに暮らし始めたのですが、当時のプノンペンはものすごく治安が悪く、夫は自分が家を不在にしている間の私や息子の様子をとても心配していました。それが理由で、家には3人のメイドさんやドライバーさんがいました。息子の世話も含めて身の回りのことはすべてその方たちがやってしまいますし、日本では歩いて行ける距離のスーパーに行くのにも車で送ってもらう、という生活でした。

 

 

KONAN-PLANET記者

メイドさんやドライバーさんと聞くと優雅な暮らしをイメージしますが、プノンペンの情勢もあり、大変な生活だったのですね。

 

 

メアスさん

そうなんです。外出もできず、少しでも家事に手を出すと「やらないでください。」と言われ、本当に何もすることがありませんでした。人って『何もすることがない。』というのはとても辛い状況なのだなと痛感しました。当時20代半ばだったのですが「このままでいいのか。」という想いと日々葛藤していましたね。そしてあるときに「やっぱりこれではだめだ。」と思い切り、シェムリアップで施設の運営に携わりたい、と夫に相談したことが始まりです。

 

 

KONAN-PLANET記者

ご自身で決断されたのですね。2000年というと、スナーダイ・クマエ設立から3年が経過したタイミングです。ホームページを拝見すると、現在のスナーダイ・クマエは子どもたちのはじけるような笑顔があふれ、生き生きとした様子が伝わってきますが、当時の施設の様子はどのようなものだったでしょうか。

 

 

メアスさん

当時は男の子が多かったのですが、派閥があったり喧嘩も多かったりと、かなり険悪なムードでした。一方で、施設は1万平米ほどあるのですが、至るところにゴミが散乱しており、とてもこのまま生活ができる環境ではありませんでした。

 

 

KONAN-PLANET記者

なるほど。そんな中、運営に携わりはじめてまずは何をされたのですか?

 

 

メアスさん

子どもたちの顔と名前を覚えるのはもちろんですが、とにかくゴミを燃やしまくりました(笑)
施設中に散乱していたゴミを朝から晩までずっと燃やし続けていましたね。
来る日も来る日もゴミを集めては燃やすという作業を続けていたのですが、あるとき何人かの子が「手伝うよ。」と声をかけてくれたんです。
するとそれから次第に手伝ってくれる子が増え、最終的には全員が一緒に作業してくれるようになりました。

 

 

KONAN-PLANET記者

黙々と施設のために働くメアスさんの姿を見て、感化されたのですね。とっても嬉しい瞬間でしたね!
その後、施設の様子はどのように変わりましたか?

 

 

メアスさん

まずは、目に見えて子どもたち同士が仲良くなりました。レンガが飛び交うような激しい喧嘩をしていたのが噓のように、良い雰囲気に変わっていきました。しかもゴミが無くなって、敷地が綺麗になると、そこに「庭を造ろうか?」とか「お花を植えようか?」という話になり、かつては投げ合っていたレンガを使って花壇を造るなど共同作業が増えて、私と子どもたちの距離もぐっと近づきました。それから、「どうせやるなら担当と時間割を決めようよ。」ということになり、施設内におけるそれぞれの役割と一日のスケジュールを決めていきました。これが現在の施設運営の原点となっています。

 

現在の花壇の様子

 

KONAN-PLANET記者

自分たちが生活する場所を、自分たちの手で造り上げる、素晴らしい形ですね!

 

 

メアスさん

そうですね。最初の焼却作業のときに、無理やり命令して子どもたちを巻き込まなかったのが良かったのだと思います。自主的に子どもたちが関わってきてくれたことが本当に嬉しかったです。

 

ままごとをする子どもたち

 

 

KONAN-PLANET記者

これまでスナーダイ・クマエで過ごした子どもたちは約100人になるとのこと。
異国の地でそこまで懸命に取り組まれる、その力の源は何なのでしょうか?

 

 

メアスさん

私は自分の道は自分で選んできました。自分の意志で選択した道だからこそ、ここまで取り組むことができているのだと思います。また、海外移住する際に父と母が快く送り出してくれたこと、これに応えるためにも日々自分と戦っています。私は周りの誰かと比較するのではなく、「自分に負けたくない。」と思って行動しています。こうして真剣に取り組み続けていると、大変なときに運よく甲南大学の卒業生に出会って助けてもらったり、まさかと思うところで縁がつながったりと、不思議な巡り合わせによく遭遇するんですよ。

 

 

KONAN-PLANET記者

周りに流されず、自分の気持ちに正直に進んできたからこそ全力で取り組むことができて、様々なところでご縁がつながるのですね。
今でもスナーダイ・クマエを卒業した子どもたちとの接点はあるのでしょうか。

 

 

メアスさん

はい、もちろんあります。遊びに来てくれたり、勉強を教えに来てくれたり、いろんな形で施設を訪れてくれます。特にラーヴォという子は、スナーダイ・クマエ初期の卒業生なのですが、現在は代表を務めてくれています。他にも役員をしてくれている卒業生も何人かいて、大変心強いです!
また、今施設で過ごしている子どもたちが、スナーダイ・クマエを巣立って自立して社会で活躍し、家庭を持っている卒業生を見ることは非常に良い影響を与えています。ここできっちりと生活すれば、自立した大人になれるのだと実感することができますからね。

 

卒業生と子どもたちが遊んでいる様子

 

KONAN-PLANET記者

年の近い卒業生が良いロールモデルとなっているのですね!

 

 

メアスさん

その通りです!現在スナーダイ・クマエの運営に携わってくれている卒業生たちはみんな、私と一緒に毎日ゴミの焼却に取り組んだ子たちです。卒業生が施設運営に関わってくれていることが、スナーダイ・クマエの大きな特長の一つで、自慢でもあります!

 

真ん中がラーヴォさん

 

KONAN-PLANET記者

それではここからは、スナーダイ・クマエの日常を教えていただけますか。

 

 

メアスさん

現在施設には小学校4年生から中学3年生の子どもたち計10名がいます。今は少なめですね。
施設から学校までは比較的近く、日々学校に通っています。学校から帰ると、平日の夕方は施設内でパソコンの授業があったり、英語や日本語などの語学を学んだりしています。

 

現在スナーダイ・クマエで生活する子どもたち

 

 

KONAN-PLANET記者

学校での勉強だけでなく、施設の中でも様々な教育を行っているのですね!

 

パソコン教室の様子

 

 

メアスさん

はい。休みの日は、朝にカンボジアの伝統舞踊の練習をしています。
午後は自由時間になっていてみんな好きなことをして過ごして、夕方からはスケボー教室をしています。

 

 

KONAN-PLANET記者

スケボー教室は意外です…!!

 

 

メアスさん

カンボジアの最近の若者は、日本の子たちとあまり変わりませんよ。
スケボーもしますし、インスタを使ってかっこいいスケボー動画をアップしたりしていますね。

 

(上)伝統舞踊の練習
(下)スケボーの教室

 

 

 

KONAN-PLANET記者

日々の家事は誰が担当しているのですか?

 

 

メアスさん

洗濯や掃除は曜日ごとにやる場所と時間を担当分けしているので、それぞれがこなしてくれています。
ご飯は調理スタッフがいるので、そのスタッフの手伝いをしていますが、日曜日だけは子どもたちが自分たちで食べたいものを相談して、自分たちでご飯を作っています。

 

 

KONAN-PLANET記者

自立に向けて勉学だけでなく、日常生活の教育もしっかりなされているのですね!

 

 

メアスさん

子どもたちが大人になったときに、自分の足で歩いて行けるようにしっかりと準備をしてあげたいと思っています。
家庭を大切にして、周りの人と協力して生きていける、そんな人に育ってほしいと願って子どもたちに接しています。

 

みんなで掃除を行う様子

 

KONAN-PLANET記者

今後スナーダイ・クマエをどのような施設にしたいと思っていますか?

 

 

メアスさん

今の運営スタッフが引退したときに、次世代のスタッフとして卒業生たちが入ってきてほしいですね。
実際に施設で過ごしたことのある卒業生たちがスタッフになることで、子どもたちの気持ちも理解できて、かつ運営・管理もきちんとできる、そんな体制になれば良いなと思っています。

 

 

 

KONAN-PLANET記者

まさにスナーダイ・クマエ(=カンボジア人の手によるもの)ですね!
最後に、読者に向けてひとことお願いできますでしょうか。

 

 

メアスさん

何か一つ、好きなことを継続してやりきる体験をしてほしいと思います。やり抜くことはその後の人生の支えや自信になります。またそれを通じて知り合った人たちとの縁が、社会に出てから思わぬところでつながって活きてくることがあります。私は体操競技部に所属していましたが、これまでもこのつながりで助けてもらったことがたくさんありましたから。

 

 

KONAN-PLANET記者

本日はありがとうございました!

 

今回のお話をお伺いするなかで、メアスさんが子どもたちから“おかあさん”として信頼され、慕われていることがひしひしと伝わってきました。
コロナ禍で一時的に日本に帰国をされていたそうなのですが、スナーダイ・クマエに帰ったときには、子どもたちが我先にと飛びついてきたそうです。
子どもたちが自立できるように、勉学はもちろん、教養や伝統文化など幅広い教育を行い、子どもたちのおかあさんとして将来の道筋を真剣に考えておられる姿が非常に印象的でした。

 

カンボジアのお正月の儀式で、親を聖水で清めて感謝を表している様子

 

スタッフさんと子どもたち
20名以上の子どもたちが暮らすことも多くあります

 

 

[スナーダイ・クマエ絵画展開催のお知らせ]
スナーダイ・クマエでは、カンボジアの伝統舞踊の練習をするなど、文化・芸術面の教育にも取り組んでいます。そしてその一つに、「絵画」があります。学校では図工や美術の授業が無いため、子どもたちは自分たちで絵具などの使い方を教え合って絵を描いています。
さらに2009年からは、子どもたちが描いた絵を展示する「スナーダイ・クマエ絵画展」を日本各地で開催しています。2011年からは甲南大学岡本キャンパス甲友会館が神戸会場となっており、今年も以下の日程で開催が予定されています。展示されている絵は購入することもでき、売り上げは施設の運営資金として活用されます。子どもたちが描く絵は色彩豊かで、ダイナミックなものから繊細なものまで様々。そのひとつひとつに個性があふれています。ご覧いただければ、きっと元気づけられる作品、感動する作品に出合えますので、お誘いあわせのうえ、ぜひご来場ください。

 

<スナーダイ・クマエ絵画展(神戸会場)>
日 時:2023年9月8日(金)~9月10日(日)午前10時~午後5時
場 所:甲南大学岡本キャンパス甲友会館(住所:兵庫県神戸市東灘区岡本8-9-1)

 

絵具や筆の使い方も、お互いに教え合って学んでいます

 

 

過去の絵画展(神戸会場)の様子

 

【スナーダイ・クマエの情報はこちらから】

 




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