「本学OBOG経営者に学ぶ 第2回経営者サロン」
VUCA時代を生き抜く「自分らしい生き方とは?」
VUCA時代を生き抜く「自分らしい生き方とは?」
甲南大学経済学部が主催する「経営者サロン」は、学生たちがOBOG経営者から実践的な学びを得る貴重な機会を提供しています。2025年7月11日に開催された第2回サロンには、株式会社ベベ代表取締役社長の卜部正寿氏が招かれ、「自由なディスカッションを通じて VUCAの時代における 『自分らしい生き方を手に入れる』 ために必要な力について考える」をテーマに、熱いメッセージを届けました。
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ファシリテーター
石川 路子 先生
甲南大学文学部英文科ご出身とのことですが、学生時代の学びや経験は、経営者としてのキャリアにどのように活きていますか?また、洋服が好きでアパレル業界に入られた初期のキャリアでのご経験について、印象的なエピソードがあれば教えていただけますか?
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卜部 正寿 さん
甲南大学文学部で学んだことは、答えのないことに対して、自分なりに問いを立て、その問いに答えていく考える力を養うことでした。会社も社会も、決められた答えをやる場所ではありません。主体性をもって自ら考え行動することの大切さは、文学部での学びが根底にありますね。高校は与えられた課題の解法を解く場所でしたが、大学は自分で問題を発見し、主体的に取り組む場所です。
私のキャリアは、洋服が好きだったことからアパレル業界のワールドに入社したことから始まります。実は、教員だった父から『お前には社会経験が必要だ』と言われ、就職活動が遅れたのですが、ワールドに補欠合格で入ることができました。入社後、配属前の研修期間で倉庫での生地裁断作業を担当したんです。毎日ハサミで生地を切り続ける単純作業に、『大学を出てこれか』と絶望感を感じた時期もありました。

しかし、ある時偉い方に『増加する生地在庫を何とかできないか』と言われ、在庫の『ハギレ』を生地資料として整理し、これを使って特別で市販されていない一点モノの服をスタイリストやモデル向けに作ってはどうかと提案したんです。それが採用され、『お前面白い』と評価されたことが、私のキャリアの大きな転換点となりました。この経験を通じて、与えられた仕事の中でも工夫し、主体的に行動することの重要性を痛感しました。
私はリクルートという会社が好きですが、リクルートでは上司に『どうしたらいいですか?』と言うと『お前は、どうしたいの?』と必ず返されます。あるべきやりとりは『どうしたらいいですか?』ではなく、『こうしようと思います。問題があればご指摘ください』という主体性を持った仕事への向き合い方を、上司は導こうとしているのです。自分で決められるようになると仕事が楽しくなり、自分の人生をコントロールできるようになります。
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ファシリテーター
石川 路子 先生
ワールドからニトリ、そしてヨウジヤマモト、現在の株式会社ベベと、異なる企業で重要な役割を担ってこられましたが、それぞれの転換点での挑戦や学びについてお聞かせください。VUCAの時代を乗り越える上で、どのような考え方や行動が重要だとお考えでしょうか?
卜部さん:ワールドでは海外事業を20年近く担当しました。その後、ニトリに転職し、物流もプラスしたSPA(製造小売業)業態を、ハンズオンにて推進いたしました。当時のニトリは黄緑色など『ダサい』イメージがありましたが、イタリアのデザイナーとの契約を提案し、白色を基調としたシンプルで洗練された商品へとイメージ改革を推進しました。これも大きな挑戦でしたね。その後、日本初のラグジュアリーブランドだったヨウジヤマモトの立て直しに携わりました。私はヨーロッパとアジア両方で10年ずつ仕事をしてきた経験があり、両方の市場を理解する人材として招かれたんです。実は、ワールドを辞めるきっかけとなった非上場化の際、私が意見を対立させたファンドの人間が、後にヨウジヤマモトへの転職を依頼してきたという繋がりもありました。
これらのキャリアの転換を振り返ると、まさに『計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)』を実感します。これは、キャリアの8割は偶然によって決定されるという考え方で、偶然を避けるのではなく、計画的に導き、ポジティブに捉えることを意識することが重要です。嫌なことがあっても、それは次の成長のための経験だと捉え、積極的に行動することでチャンスを掴めます。チャンスの神様には前髪しかありません。自分がチャンスだと感じた時は、迷わず行動してください。
現在、株式会社ベベでは、少子化が進む日本市場だけでなく、海外市場、特にインドネシアへの展開を視野に入れています。インドネシアは人口が多く出生率が高く、乳幼児死亡率が低いことから将来性のある市場と見ていますが、闇雲に選んだわけではありません。日本が戦後輸出した『母子手帳』システムに代表されるように、日本へのリスペクトがある市場を選定しています。社会に貢献する企業でありたいという強い思いが、そこにはあります。

人生の結果は『考え方×熱意×能力』の掛け算で決まります。熱意と能力はゼロから100、要はプラス領域しかありませんが、特に『考え方』は、マイナス領域もあります。犯罪など、悪い考えを持てばマイナスにも成り得るので、これらの掛け算では、熱意と能力がプラスでも、『考え方』がマイナスなら、全体としてマイナスの人生となるのです。世の中のためになりたい、人の役に立ちたいという前向きな考え方を持つことが、良い結果を生み出す土台となります。
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ファシリテーター
石川 路子 先生
変化の激しい時代において「自分らしい生き方」を手に入れるために、特に大切なことは何だとお考えですか?また、若者がキャリアをデザインする上でどのような視点を持つべきでしょうか?
卜部さん:最も重要なのは主体性です。そして、キャリアデザインを考える上で、目標を高く持つことも大切です。目標と願望は違います。目標とは明確な時限設定があり、いつまでに何をどうするのかを具体的に定めるものです。そして、常に『一番』を目指すこと。二番手以降は人々の記憶に残りません。一番を目指した先に、唯一無二の存在である『オンリーワン』が生まれるのです。
また、常にポジティブに考えることが大切です。落ち込んでも早く忘れること。仮に嫌なことがあっても、それは次の成長のための経験、あるいは失敗のための経験だと捉えましょう。失敗しないと次の成長はありません。何か嫌なことがあった時は、次に何か良いことが起こるために今これを経験しているのだ、と思うようにしています。



ベベのCMで「ノーボーダー」というメッセージを掲げていますが、
その真意は何でしょうか?
卜部さん:子供たちに国境は関係ありません。人種や知識にとらわれず、純粋な心を持った子供たちの幸せを願う気持ちが込められています。誰もが持っている幼い頃の思い出のワンシーンに、ベベの服が寄り添えていたら嬉しいですね。

起業を目指しています。
どのような学びや心構えが必要でしょうか?
卜部さん:大切なのは、『何のためにそれをするのか?』という目的意識です。世の中の役に立つのか、人のためになるのか、人類の進歩に貢献するのか。目的のない起業は、たとえ成功しても虚しさが残るでしょう。また、仕事を選ぶ際は、純粋にそれが好きで、長時間熱中できるもの、体が勝手に動くような状態になるものが、あなたに向いている仕事の兆候です。

仕事がうまくいっているな、と感じるサインはありますか?
卜部さん:人から様々なことを頼まれるようになること、これが一つのサインです。仕事は一人ではできません。みんなの協力があって成り立ちます。一生懸命仕事に取り組んでいれば、周囲から信頼され、依頼が増えていきます。一方で、天狗になりかけたら、周囲の意見に耳を傾け、謙虚さを忘れないことが重要です。

卜部社長にとって「幸せ」とは何ですか?
卜部さん:家族がいれば家族が幸せになること、会社でポジションにつけば社員が幸せになること、お客様が幸せになること。そして、自分の企業が何のために存在しているのかという答えが見え、それをちゃんと実行できている状態が幸せだと感じます。

経営者として、最も難しいと感じることは何でしょうか?
卜部さん:『決断』することです。部長クラスまでは過去事例や競合の様子などを参考に『判断』することができますが、経営者には誰もやったことのない、失敗する可能性のあることでも『やるかやらないか』を『決断』する力が求められます。他の人が失敗したからこそ、新しいやり方で一番を目指すチャンスがある、という逆説的な考え方も必要です。

社会に出て誹謗中傷など理不尽な状況に直面した時、
どう向き合えば良いでしょうか?
卜部さん:基本的には聞き流すことです。明日になれば新しい一日が始まり、昨日のできごとは気にしなくていい。ただし、人格を否定するようなものや、本当に悪意のある相手に対しては、毅然とした態度で臨むことも必要です。
ファシリテーターを務めた経済学部の石川路子教授は、卜部社長のメッセージが「学生だけでなく、参加者一人ひとりの心に深く響くものだった」と振り返ります。卜部氏の言葉は、まさにVUCAの時代を生きる私たちにとって、自身のキャリアや人生を切り拓くための羅針盤となるでしょう。
目標を高く持ち、主体的に行動し、
偶然のチャンスを掴み取る。
困難な状況を新しい発想で乗り越え、
社会に貢献していく。
これらの教訓は、まるで未来を照らす
灯台の光のように、
私たちを正しい方向へと
導いてくれるはずです。