あなたは大丈夫?「情報の偏食」を防ぐメディアリテラシーの重要ポイント
手のひらのスマホ一つで、世界中の情報にすぐ触れられる便利な時代。「確かな情報を見極める力」がこれまで以上に求められています。情報化社会の中で、信頼できる情報を判断するために必要な力とは・・・甲南大学の全学共通科目『地域とメディア』で講師を務める神戸新聞社の冨居雅人氏に、今こそ個人が身につけるべき力について伺いました
手のひらのスマホ一つで、世界中の情報にすぐ触れられる便利な時代。「確かな情報を見極める力」がこれまで以上に求められています。情報化社会の中で、信頼できる情報を判断するために必要な力とは・・・甲南大学の全学共通科目『地域とメディア』で講師を務める神戸新聞社の冨居雅人氏に、今こそ個人が身につけるべき力について伺いました
Contents
・全学共通科目『地域とメディア』とは
・あなたは大丈夫?「情報の偏食」を防げ!
・ 新聞はタイパがいいメディア!?
・情報を「自分ゴト」として考える


KONAN-PLANET 記者
まずは、自己紹介をお願いします!

神戸新聞社 経営企画局 局次長
冨居 雅人さん
冨居さん:1987年に甲南大学文学部英文学科(現在は英語英米文学科)を卒業し、学生時代は邦楽研究会で尺八を担当し、名取にもなりました。卒業後、神戸新聞社に入社して記者となり、社会部で事件取材や地域課題の報道に携わり、その後、支社や写真部などを経験。現在は神戸新聞社の経営企画局で局次長(NIE・NIB推進部長、教育ICT部長兼務)として、学校や企業、自治体の主に若い世代を対象に新聞を活用して学びを深め、社会人基礎力を高めてもらうNIE(Newspaper in Education)やNIB(Newspaper in Business)事業に取り組んでいます。
NIEは主に小学校から高校までが対象ですが、私は大学生こそ新聞を活用して時事に触れ、自分で考える力、時代を読み解く力を身につけてほしいと考えています。甲南大学とは10年以上のおつきあいで、『地域とメディア』の授業はもともと文学部で文章表現などをテーマに開講されていましたが、2016年に神戸新聞社と甲南大学が包括連携協定を結んでからは、全学部対象の講座となりました。
※(マネジメント創造学部対象の科目名は『情報とメディア』)
ー 『地域とメディア』ではどのようなことを学ぶのでしょうか。
冨居さん:全学共通教育センターの久保はるか教授と、私を含めた弊社社員や多彩な経験を有する講師らが全15回の講義を担当し、時代を読み解く力やメディアリテラシーを習得します。阪神・淡路大震災が発生した1995年からインターネットが急速に発達し、ここ数年はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)というパーソナルなソーシャルメディアが爆発的に広まったことにより、世の中や暮らしの風景が一変しました。最近は兵庫県知事選などの選挙をめぐってもSNSの影響が大きな話題になりました。SNSは便利ですが、厄介なのは、新聞と違って真偽不確かな情報が溢れていることです。だからこそ「その情報は本当に確かなのか」を判断する力が欠かせません。

ー 具体的に、どのような力を身につけるのですか。
冨居さん:まず、SNSの情報のみに頼ることの危うさについて理解し、膨大な情報の中から確かな情報を得る力を身につけます。講義は大きく分けて二つあり、一つは人権やジェンダー問題、経済、SDGs、防災など、社会課題を「自分ゴト」に置き換えて、時代をどう考え、どう生きていくのかを探ります。もう一つは、新聞社の持つスキルを活用し、端的でわかりやすい文章表現や読解力、発信力などをワークショップ形式で学びます。これらは、就職活動で大いに役立つスキルとなるでしょう。


KONAN-PLANET 記者
現代の情報環境には、どのような課題がありますか。
冨居さん:インターネットとSNSの発達により、「すぐに答えが見つかる」時代になりました。以前は分からないことがあれば図書館や書店で専門書を探したり、同級生と調べ合って意見交換したり、先生に質問したりと外向きに行動する必要がありましたが、今は、手の中のスマートフォン一つで、すぐに答えに辿り着けてしまいます。そうした便利さの反面、情報を得る苦労や調べるプロセスを経験しないまま知識を得てしまう怖さがあります。また、その情報が正しいかどうか確かめないまま受け取ってしまいがちになることも問題です。
さらに厄介なのは、SNSや検索エンジンがAI(人工知能)とアルゴリズムで「使い手の関心にちなんだ情報だけ」を集めてくることです。
AIは、私たちの行動を学習し、「この人は野球が好き」「大谷翔平選手のニュースを見る」と判断すると、関連する情報ばかり集めて表示するようになります。知識の深掘りには良いのですが、裏を返すと「興味がない情報に触れる機会を失ってしまう」状況が生まれます。「大谷選手については詳しくても、別のチームの情報は全く知らない。他のスポーツのことも分からない」ということが起こってきます。

ー なるほど、得られる情報が偏ってくるのですね。
「情報の偏食」は心身の健康にも影響する
冨居さん:そうなんです。このように「関心のある情報」がどんどん集められ、そればかりに触れることを、私たちは「情報の偏食」と呼んでいます。食べ物の偏食と同じです。食べ物の場合、鉄分が足りないと貧血を起こすから自分でも気づくし、「顔色が悪いな」と周りの人が気づいて教えてくれます。一方、情報の偏食は、自分が偏った情報の取り方をしていることに気づかず、他人もわざわざ指摘してくれない。それどころか、「あの人、考え方が偏っているよね」と距離を置かれるようになり、気づいた時には孤立している、というようなことになりかねません。気をつけないと心身の健康にも影響します。
ー どうすれば「情報の偏食」を防ぐことができますか。
冨居さん:複数の情報に接することが大切です。たとえば、友達や先生など複数の考えに接するとしたら、どの考えが正しいと思うか、自分の意見はどの意見に近いか・・・など、「自分の立ち位置」が見えてきます。インターネットでも情報の出どころを確認しながら複数の情報に接したり、複数の新聞を読み比べたりすると、自然と自分の視点や視座ができてくると思いますし、フェイクニュースに騙されることもなくなります。

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人と話す コミュニケーションは有意義なメディアの一つ。人の意見は十人十色。友達と喋る、先生に話を聞くなど、さまざまな意見に触れると、自分の「情報の風景」「関心の領域」が広がり、視点・視座が多様になる。 |
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新聞を読む 新聞はプロが裏取りをした確かな情報のみを掲載しているメディア。また、紙面レイアウトの一覧性から、紙面をながめるだけで政治、経済、事件、スポーツ、地域ニュース、文化など、幅広い情報に接するきっかけができる。 |
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新聞を読み比べる 確かだと思っても一つの情報を鵜呑みにしないことも重要。一つのテーマについて、他紙は違う見方をしているかもしれないので、複数の新聞の情報が持つ視点に接して情報を読み解くことが大切。新聞に限らず、情報との向き合い方の基本にしてほしい。 |


新聞で「自分の関心領域の外側」の情報に触れよう
冨居さん:AIとアルゴリズムの世界で情報と接していると、「自分の関心領域の外側」にある情報に触れることが極めて難しくなります。では、どうすれば自分の興味関心のない情報と接することができるのか。それには、新聞がとても有効です。新聞は、膨大な情報の中から「これだけは知っておいてほしい」という記事が一面に集められます。つまり、新聞の一面を見るだけで、その日の重要な話題がわかるようになっているんですね。
また、新聞の見出しは「究極の要約」とも言われ、見出しを読むだけで、一本の文字列なのにだいたいどんなニュースか分かるようにできています。さらに、どんなに長文の記事でも、一段落目を読めば概要がつかめるようになっています。わかりやすく人に物事を伝える文章力の基本「5W1H」をしっかり盛り込んで書かれているからです。そういうことを頭に入れつつ記事を読み解く訓練をすると、自分の力になっていきます。
新聞で「偶然の出会い」を楽しもう
冨居さん:さらに、一本の記事を読むと、その周辺にある他の記事も目に飛び込んできます。セレンディピティ=「思いがけない発見」「幸運の出会い」などと言われますが、そうした体験から、興味がどんどん広がっていく可能性もあります。新聞は自分の関心のある情報に接しながら、他の情報にも接することができる。それがネットの情報とは異なる点でしょうか。

ー 確かに、新聞は紙面を眺めるだけで、
世の中の動きが分かりますね。
冨居さん:私は学生たちに「新聞はタイパがいいよ」と伝えています。例えば、1分で最も情報が多く得られるメディアは何かを考えると、やはり新聞だと思うんですね。テレビやラジオだと1分間で報じられるニュースは多くて2本程度でしょうし、インターネットだとつい文章を読み込んでしまうので、やはり同じくらいでしょう。その点、新聞は1分あれば一面にある七本ぐらいの見出しとリードぐらいは、ざざっと読める。しかも、信頼できる確かな情報が載っている。非常にタイムパフォーマンスがいいメディアだと思いませんか。


KONAN-PLANET 記者
多様なメディアに触れながら「自分で考える力」を育てるには
どうすればいいでしょう。

情報を受け取るだけではダメ。自分ゴトとして深く考えよう
冨居さん:情報と向き合い、自分の中にしっかり取り込み、活用・発信できる力を身につけることが大切です。例えば私の講義では、学生に毎回課題を出して、レポートを書いてもらいます。当日の朝刊を教材にしながら、その日の講義の内容をふまえて関連した記事を選び、そこから見えてくる課題について考察します。「すごいなと思った」だけではなく、なぜ「すごい」と思ったのか、それが自分の学生生活にどのように影響し、日常生活にいかなる課題が見えてくるのか、それに対して自分なりの解決策を考えてみて・・・というように、何事も「自分ゴト」として捉え、物事を深く考える癖をつけて欲しいと思います。
世の中の多様な出来事を「自分ゴト」として考えると、いろいろなことが想定できるようになります。防災では、いつか起きる地震に対する備えの意識が芽生え、自分の周りの大切な命を守れるでしょうし、日々の生活においてもさまざまな備えにつながっていく。それは、自分の未来を見通す力にもなります。
ー 最後に、メッセージをお願いします。
冨居さん:いろいろな情報に触れ、いろいろなことに関心を持つこと。それが、多様な考え方を身につける第一歩になります。興味・関心の幅が広く、いろいろなことを知っている人のもとには、自然と情報が集まってきます。確かな情報と向き合い、自分の頭で考え続けて、多くの視点や視座を持ってください。その積み重ねが、きっと皆さんの未来を支える力になっていくと信じています。

今回お話しを聞いた人


株式会社 神戸新聞社 経営企画局 次長
NIE・NIB推進部長/教育ICT部長
甲南大学非常勤講師
冨居 雅人さん
大阪府豊中市出身。1987年、神戸新聞社に入社。編集局社会部次長、解説委員、映像写真部長、マーケティング室長などを経て現職。「メディアリテラシー」「伝わる広報術」「防災リテラシー」「ハンセン病問題」など幅広いテーマで、企業や自治体、大学などで講演・研修などを行う。甲南大学ソーシャルビジネス・アントレプレナー育成プログラム講師。神戸大学「ひょうご神戸学」講師。1998年、関西写真記者協会の協会賞受賞。2003年、兵庫県「井植記念文化賞」受賞。
