ゼミの研究テーマ

    私たちのゼミでは、近代日本文学と美術・イメージの交流について多角的に考えることをテーマにしています。
    「演習Ⅰ」(2年次)では、研究課題を設定し、文献を調べて考えを組み立てる基礎力を身につけます。こちらで用意した課題や、学生の関心に応じた調査課題(ある程度自由ですが、指導して修正・変更を求める場合もあります)について調査するのに必要な基礎的な研究能力を身につけます。資料を用意した発表を行い、討議の結果を踏まえレポートを作成して提出します。
    「演習Ⅱ」(3年次)では、研究テーマの枠組にそって、学生が自由に課題を選び、資料を用意した発表を行い、討議の結果を踏まえレポートを作成し提出します。

研究テーマの枠組には、次のようなものがあります。

 

最近の研究発表テーマ

 

最近の卒業論文テーマ

 

 

 

研究事例から 竹久夢二画集について

夢二画集春の巻    1909年に、「白樺」や創作版画誌「月映(つくはえ)」の版元ともなる洛陽堂という出版社が、竹久夢二のコマ絵集『夢二画集 春の巻』を刊行して、話題となりました。
 コマ絵というのは、活版印刷による誌面の空白を埋める木版のカット画のことで、本文とは関わりがなくてもよいことになっていました。
竹久夢二は、コマ絵の作家として活躍し、瞳が大きい女性像が人気を博しました。コマ絵を集めて画集にしたのが洛陽堂の夢二画集のシリーズで、多くの読者を得ました。
「!?」というコマ絵(1909年6月「中学世界」)は、ごらんの通り、本文の評論の内容とは関係がありません。しかし、『夢二画集 春の巻』の巻頭画に選ばれた時には、絵の下に「波は/淘去(とうきょ)し淘来(とうらい)せり。/人は/いづこより来り/いづこにかゆく。」という詩のような表現が付け加えられました。返しては寄せる波を、人の生に重ねています。言葉と絵を組み合わせるという試みが夢二画集の特徴のひとつでした。 夢二画集春の巻
 さて、もとのコマ絵の意味は、滑稽さをねらったものです。男女の足跡が砂浜に残っていますが、潮が満ちてくると、足跡が海に消えたように見えます。それが「!?」の意味です。ところが『夢二画集 春の巻』の巻頭画では、人生を波にたとえたシリアスな言葉がそえられて、本来の滑稽さは消されて、海辺の漂泊というモチーフが前面に出ています。絵と文学が出会って、新たな意味が生み出されているのです。
夢二の表現に魅せられた画学生恩地孝四郎や田中恭吉は、夢二と交流を持ちますが、大正期には、たいへん斬新な表現を展開し、萩原朔太郎の詩集『月に吠える』の装幀・挿絵に関わることになります。

 活版印刷の時代に、空白を埋める木版のコマ絵が重宝されたことは、仕事を失いかけていた浮世絵の彫刻師が活躍の場を見出したことを意味しています。版を重ねた夢二画集は、大衆が視覚文化を消費するきっかけを作ったともいえます。
文学と美術の交流をさぐることは、表現と社会の関係に目を向けることであり、その中には、現在につながる問題も発見できるのです。