『万葉集』というと、「固い」「難解」という印象を抱く人が多いかもしれません。しかし、たった一目で恋に落ちた初恋の繊細さを描く歌もあります。現代の恋する思いと同じですね。
『万葉集』は、すべての文字が漢字で書かれています(なにしろ、平仮名はまだ発明されていませんから)。これは、「制約」のように思われますが、実は、「表現の可能性」が広がっているのです。つまり、用いる漢字一字を変えるだけで作品世界をまったく異なるものにすることもできるからです(実例は、下を参照して下さいね)。まさに、研ぎ澄まされて厳選された言葉と表現の世界です。
ゼミでは、その世界をわかりやすく説明するように、日々努力しています。ある時は絵を描いたり、ある時は絢香や西野カナの歌を歌ったり……。そして、研ぎ澄まされた作品世界の表現に立ち会っているゼミの学生自身の感性も、日々磨き上げられているのです。
上記の「漢字一字を変えるだけで作品世界をまったく異なるものにする」ことの実例を示しましょう。たとえば、愛する妻を失った夫の哀しみを歌う作品があります。夫は亡くなった妻のことを「こふ」のですが、この「こふ」には「恋」という漢字を当てるのが一般的でしょう。しかし、「眷」という漢字をあえて選んでいる作品もあるのです。この「眷」は「振り返る」という意味を持ちます。つまり、この漢字を用いることにより、愛する妻との温かな生活をひたすら振り返る夫の姿が、作品の中で造形されることになるのです。まさに、研ぎ澄まされて厳選された言葉と表現の世界ですね。
(卒業式の日、巣立って行く学生たちからもらった花束です)
ゼミ生は卒業後、高等学校国語教諭・中学校国語教諭・小学校教諭・郵便局職員・重工業関係企業デザイン部門・生命保険会社・病院事務・流通関係企業……などで働いています。