研究概要
ご挨拶 [コーディネーター(研究総括)] 甲南大学先端生命工学研究所 所長・教授 杉本 直己 病気の原因となる遺伝子を編集し、遺伝情報(塩基配列)を恒久的に書き換える技術(ゲノム編集技術、CRISPR/Cas9)は、治療法がない遺伝性疾患を治療できる可能性を秘めた革新的な技術です。しかし、ゲノム編集技術は、新たな疾患を発症する可能性があるという深刻なリスクもあります。そのため、既存のゲノム編集技術を改良するとともに、ゲノム非編集による新規の遺伝子発現制御技術の開発が待望されております。 遺伝を担う物質である核酸(DNA や RNA)は、二重らせんの構造をしていると考えられています。しかし、核酸は、同一の塩基配列でも周辺環境によって、三重らせん、四重らせんなどの非二重らせん構造を形成しています。非二重らせん構造が形成されると遺伝子発現に関わる生体反応が阻害されるため、細胞内では核酸の構造変化によって、遺伝子の発現に変動を与える可能性があります。(図1参照)そこで本研究交流事業では、核酸の構造と安定性の解析を基にして、化学的手法により既存のゲノム編集技術を改良するとともに、細胞内の環境に応答した核酸の構造変化によって制御される遺伝子発現機構(Condition Response Intra-Structure Transition Expressional Regulation : CRISTER)を解明していきます。さらに、CRISTERを制御することにより、ゲノム“非”編集による革新的な疾患遺伝子の発現制御法を開発することを目標といたします。 これらの研究を円滑に遂行するため、本国の研究拠点となる甲南大先端生命工学研究所(FIBER)の研究グループと国内の連携研究グループおよび高い専門技術を有する 5 カ国(英国、スロベニア、米国、インド、イタリア)の海外研究グループ(連携拠点)が連携して、核酸化学 CRISTER 制御コンソーシアムを形成します。本コンソーシアムでは、それぞれの専門分野を牽引してきたトップレベルの研究者、および次世代の中核を担う中堅・若手研究者を各研究拠点に配置させ、国際的な研究・人的交流を行うことで、迅速に研究を展開します。また、本コンソーシアム内の各国の拠点において、博士研究員や大学院生を対象に最先端の“核酸化学”の手法を取得できる若手研究者育成プログラムを実施いたします。このような活動により、核酸化学をキーワードに若手研究者を育成し、若い世代の研究者間のネットワークを強化することで国際的交流拠点を形成することを目指します。 図 1. 核酸非二重らせん構造とその役割
本事業の概要 研究交流事業では、日本側のコーディネーター(甲南大・杉本直己)が、世界的にトップレベルの実績を有する研究者(海外連携拠点)と核酸化学 CRISTER 制御コンソーシアムを構築します。研究計画(図2)として、CRISTER を【探る】研究では、X 線構造解析で実績のある英国 Reading 大学及び NMR 解析の世界的な研究所であるスロベニア国立 NMR センターのグループと連携します。また、 CRISTER を【解く】研究では、米国 Carnegie Mellon 大学及びインド Calcutta 大学のグループと連携し、核酸構造を制御する人工分子の開発及び解析を行います。さらに CRISTER を【制す】研究では、人工分子の有効性を細胞や個体レベルで評価するため、ウイルスの研究で著名な研究者であるイタリア Padova 大学のグループと連携します。杉本らと海外の連携拠点の研究成果を本国の参加研究者らにフィードバックし、計算科学や臨床医学研究を行っている国内グループと実応用を目指したゲノム編集および非編集研究を展開します。 各連携拠点との共同研究を加速するために、シンポジウム・国際会議を開催し、特に若手研究者を中心とした、最新の研究成果を発表する講演会を定期的に実施いたします。また、研究者同士の交流を深めることを目的とし、各連携拠点への研究者の短期滞在や研究成果報告会を定期的に行います。さらに、国内外の若手研究者の育成を目指した最先端の核酸化学実験の技術を習得するプログラムを実施いたします。参加研究者として次世代を担う若手・中堅研究者を配置し、本事業の企画・遂行を積極的に行うことで、各拠点との連携が強化され継続的な海外連携体制を構築して参ります。 図 2. 本事業の研究計画