個人の名誉が守られない日本!?
ネット社会で「全員メディア」の恐ろしさ。

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2021.4.21
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ネットでの誹謗中傷、SNSでの炎上騒動、無責任な人たちが容赦ない言葉を発信したり、事実無根のフェイクニュースを流したり・・・インターネットの急激な発展により、なんだか秩序のない世の中になりつつあります。なぜ、こんなことになってしまったんでしょうか?どうして、ネットが誹謗中傷の温床に?刑法でもすくいきれないネットの世界は、まさに「ザル状態」。その原因に法律の視点で迫ります!

 

 

 

 

「1週間以内に返さないと顔を公開します」
話題となった「ネットさらし」

「商品を返さなければ、顔写真のモザイクをはずして公開します」。2014年、万引きの被害を受けた中古品販売会社が、防犯カメラに写っていた犯人らしき人物の画像を顔がわからないよう加工してホームページなどに掲載。返却しなければ顔を公開すると警告し、大きな話題になりました。結局、警察からの要請もあって公開は中止に。3日後に犯人は逮捕されましたが、この対応に賛否両論が分かれ議論を呼びました。

 

 

被害者なのに犯罪者に?

万引きの被害者が、犯人とおぼしき者の映像を「万引き犯人」として公開することは刑法的にどうなんでしょうか?

お話を伺ったのは甲南大学の園田 寿名誉教授。『刑法を切り口にすると今の世界がどう見えるか』という視点で、ネットワーク犯罪や大麻、賭博の問題、ポルノの問題、名誉毀損など、さまざまな問題を研究対象としています。そんな園田先生いわく、「現行の法律では、名誉毀損にあたる恐れがある」とのこと。

「徐々に整備はできているが、インターネットの急速な発展に、法律や倫理が追いついていない部分があり、今回のような、被害者自らが犯人を検挙するような行為を認めると、制度的なパニックを引き起こす危険性すらある。たとえば、コロナ禍での自粛警察のように、みんなが犯人捜しをやっているような個人個人が監視しあう世の中になってしまう可能性がある」と、先生。

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
なぜ真犯人だとしても「名誉毀損」になるのでしょうか?

 

「万引きの件数が膨大で警察の手に負えない、それなら自分で回収するしかない、という店側の対応は同情できる面もあります。しかし、防犯カメラに写っている人物が真犯人だったとしても、その映像を公開することは名誉毀損罪(刑法230条)になる可能性があります」と園田先生

 

 

 

刑法 第230条

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、

その事実の有無にかかわらず、

3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

 

 

 

つまり、「人を批判した者はその事実があろうとなかろうと処罰する」>ということ。 「『人は一切批判してはならない』という考え方は明治政府から受け継ぐ名誉毀損の基本なんです」、と園田先生。しかしその後、刑法230条の2が設けられます。その内容は、

 

 

 

「名誉毀損に当たるような行為であっても、

(1)その事実に公共性が認められ、

(2)公益を図る目的があれば、

(3)その事実が真実であれば、名誉毀損にならない」

 

 

 

これにより公共性、公益性、真実性の解釈が問題になってくるわけですが、今回の万引きについては「犯人の名誉毀損になる」というのが園田先生の見解。ちなみに、新聞の犯罪者報道で実名を公表することは、公共の利害に関係している=公共性が認められるので名誉毀損にはなりません。

「『公益性を目的とする』とは、社会全体の利益の増進を図るということです。万引のケースでいえば、これは被害にあった店が、もっぱら自分の被害回復のためにあのような行為を行っているわけで、230条の2の免責を受けないと考えられるからです。いわば、犯罪被害を自力で回復する「自力救済」を行っているのです。犯罪被害の回復には警察の手によることが原則ですが、それを待っていては被害回復が極めて難しくなるような場合には、自力で回復することも例外として認められるのですが、あのケースではそのような緊急的な状況は見られません。」

この事例に関する園田先生の視点を、もっと詳しく知りたい方はコチラ↓
https://news.yahoo.co.jp/byline/sonodahisashi/20170209-00067531/

 

 

 

ネットが「ザル」になってしまった理由。

園田先生によると、刑法は明治40年に作られましたが、上の刑法230条の2は戦後の昭和22年、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領下で新設されたもの。当然、インターネットなんてなかった時代です。マスコミは念頭にありましたが、まさか個人が犯罪事件をネットで公表する時代が来ようとは、まったく想像していなかったでしょうね。刑法については何回も改正はされていますが限界があり、完全に法律が時代に追いついていない状況です。

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
70年以上も前の法律をなぜ改正しないのでしょうか?

 

刑法第230条の2第2項を削除すれば、このような問題は起きないのでは?という声も聞こえてきますが、この第2項は「言論の自由」を守るために考えられた条文のため、削除すると報道の自由が脅かされる恐れがあり慎重な議論が必要と園田先生はいいます。

さらに、先生によるとテレビ、新聞、ラジオなどのようなマスコミの場合は、公に発表する前に必ず編集側でチェックが入ります。だから、第三者の目による冷静な情報発信が可能となる。しかし、個人がSNSなどを使ってメディアのように全世界に向かって発信できる現代のような時代は、そんなチェック機能は存在しません。だから、事例のような公開処刑のようなことが起こるのです。

 

 

 

 

自分をひとつのマスメディアとして考えてみる。

やっていることは誉められたことじゃないけど、犯人の顔をネットに晒すことがあってもいいのか、そこを議論すべきだと園田先生。現行犯の画像を晒してもよいとなると、本当に軽微な犯罪をする人の、個人が特定できる写真を無断でネットに公開してもいい、ということになりかねません。

例えば・・・

 

 

・公道で痰や唾を吐いたらネットでさらされるかもしれない

・壁に落書きをしてもさらされるかもしれない

・どうしても我慢ができず公園で排泄をしてもさらされるかもしれない

 

 

悪いことをしたからといって、それがすぐにネットへさらされるという世の中はとても怖いですよね…。

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
このような状況を改善するために法律を整備することはできないのでしょうか?

 

「法律を改正して制限することは可能だが、そのことで今度は『言論の自由』が脅かされることになる。
そういう意味でも法律の改正で対応するというのは最後の手段ではないでしょうか。インターネットやSNSは、今や我々の生活と切っても切り離せない存在です。まずは皆さんがネットリテラシーを高め、互いに思いやりの心を持ってうまく付き合っていくことが大事ですね。」

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

法律が古いから改正すればいい、という簡単な問題ではないようですね。

インターネット・SNSは私たちに多大な恩恵を与えてくれるもの。

倫理観と思いやりの心を持ってとうまく付き合っていきたいですね。

 

 

 

今回お話しを聞いた人
甲南大学 園田 寿 名誉教授 (元法科大学院教授)

甲南大学名誉教授、弁護士。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、青少年有害情報規制、個人情報保護などを研究。趣味は、囲碁とジャズ。【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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