活躍する卒業生が解説!“物流の2024年問題”とは?
最近、たびたび耳にする“物流の2024年問題”。これは2024年4月から施行される働き方改革関連法が引き起こす物流業界のさまざまな問題の総称です。物流業界に従事する人たちの働き方が変わると、どのような問題が起こるのでしょうか?物流業界に欠かせない倉庫のデベロッパー・株式会社シャロンテックの福山博之代表取締役社長(甲南大学経済学部卒)に、2024年問題の概要と対応策や、今、物流業界で起きていることなどについて解説していただきました。新しく設立された甲南大学デジタルツイン研究所への想いも語っていただきました。
労働時間に拘束時間は含まれる? 含まれない?
KONAN-PLANET 記者
福山社長、本日はよろしくお願いします。早速ですが、世間で言われている“物流の2024年問題”とはどのような問題でしょうか?
福山社長
“2024年問題”とは、働き方改革関連法の施行によって起こると考えられている、さまざまな問題を指します。この法律には、年間の総拘束時間や1日の拘束時間、連続運転時間等、さまざまな規制が設けられていますが、一番の問題は、時間外労働の上限が年960時間に規定され、総労働時間が制限されることにあります。
KONAN-PLANET 記者
総労働時間が制限されると、物流業界ではどのような問題が起こるのでしょうか?
福山社長
トラックドライバーの場合で言いますと、長時間の運行が難しくなります。そのため今、ドライバーが1人で運行している長距離ルートを走るには、2人のドライバーが必要になります。例えば、大阪―東京間を走る場合は、中間地点の浜松市三ヶ日エリア辺りでドライバーを交代することになるでしょう。
KONAN-PLANET 記者
となると、人材を確保しなければなりませんね。
福山社長
そうなんです。ただし、運転時間のみを労働時間とするのか、拘束時間も含めるのかは議論が分かれるところなんですよ。例えば、フェリーにトラックごと乗り込んで移動している時間や、物流施設前で荷物を下ろすのを待つ時間を労働時間とするのか、休憩時間とするのかは判例もさまざまで、法律でもまだ規定がありません。
KONAN-PLANET 記者
確かに判断が分かれそうですね。 4月以降、ドライバーさんの給料も変わると言われていますが、どうでしょうか。
福山社長
現在、ドライバーの給与は、多くの場合、運行本数と実働日数で計算されていますが、4月からは、拘束時間を労働時間に含むか含まないかで、給与は変わるでしょうね。
KONAN-PLANET 記者
新しい法律がドライバーさんや運送会社に大きな影響を与えそうですね…。ところで、福山社長の会社は倉庫のデベロッパーでいらっしゃいますが、働き方改革関連法によってどのような問題が起こると考えられますか?
福山社長
当社は問題ありませんが、物流業界全体を見ると、効率化の必要はあると思います。特に、物流施設前でのトラックドライバーの待ち時間は改善しなければならないと思っています。現在、荷主(保管や輸送などの依頼主)の指定時間通りに到着しても、物流施設や荷主の指示待ちで数時間、待たされることは常態化していますから。
KONAN-PLANET 記者
それは効率が悪いですね…。改善はできないのでしょうか?
福山社長
運送会社はどうしても顧客の荷主より立場が弱いので、改善を要請しにくいのが現状です。もちろん、改善に努めている荷主はいますが、冷凍倉庫を使う荷主や、庫内のスケジュール管理ができていない会社の状況は変わっていませんね。
KONAN-PLANET 記者
スケジュール管理はそんなに難しいのでしょうか?
福山社長
消費者は欲しいものを欲しいときに買いたいし、ECサイト等で注文したらすぐに手元に届くものだと思っています。そうしたニーズに対応するには、全ての商品の在庫を持たなければなりません。しかし、すべての商品をそろえるのは、難しいので、急いで調達する必要があります。そのため、スケジュール管理が難しくなるのです。
KONAN-PLANET 記者
なるほど。消費者はすぐに商品がほしい、そして企業(荷主?)はそのニーズに応えたいわけですから、難しい問題ですね。解決方法はありますか?
福山社長
あるとしたら、「トヨタ生産方式」を世の中に実装するしかないでしょう。これは、顧客の要望によって生産計画が決まり、必要なものを必要なタイミングで生産する方式で、受注生産に近い形です。これが実現できれば、在庫は最小限で済みますし、生産と管理の無駄も抑えられるでしょう。 もうひとつ考えられるのは、お金の流れを変えることです。今、給料はだいたい25日に支払われますが、この慣習によって消費行動が月末に集中してしまいます。しかし、給料日を週1回にすると、そうした事態は避けられるのではないでしょうか。 また、ボーナスもなくしてしまえば、現状ボーナス時期に一気に消費が増えてしまっている物流の平準化が進み、季節変動が少なくなります。これによって、世の中が効率化することで物流の平準化・効率化が進むことになるでしょう。
2024年から「配送料無料」が消える!?
AIの活用、DX化で2024年問題は解決に向かうのか
KONAN-PLANET 記者
2024年問題への対応策として、物流業界ではどのような動きがありますか?
福山社長
2024年問題に対応するための一番のポイントは、人材確保です。物流業界は人手不足が深刻化しているので、外国人労働者を雇わないと難しい状況です。ただ、現状では、外国人はトラックドライバーとして働けないので、今、業界ではその解禁に向けて動き出しています。 また、AIを活用すれば、効率を上げる仕組み作りができると思います。
KONAN-PLANET 記者
輸送では、どの工程でAIを活用できそうでしょうか?
福山社長
輸送において、配車効率の向上は永遠の課題なので、その工程でシステムを使うことができればいいと思います。実は昔、配車ソフトを作ったのですが、人がやった方が早いようなソフトしかできませんでした。スーパーコンピューターを使えば、時間がかかる問題は解決できますが、当時は、そこまでしてやる仕事ではないなという思いがありました。しかし、現状を見ると、スパコンを使ってでも、有効な配車ソフトを作らなければならないと思っています。 加えて、物流業界では、物流エンジニアリング*がほとんど行われていないので、その技術開発も必要だと思います。そのほかに物流でDX化できるとしたら、積載効率を上げるためのソフトの活用ですね。その開発が今、待たれていると思います。
※事業形態や物流システムに合わせた物流機能の適正配置および効率的な施設づくりなどを実現させるための計画技術
KONAN-PLANET 記者
積載効率を上げるソフトの開発は、難しいのでしょうか?
福山社長
さまざまな形状、大きさのものを載せる場合が大半なので、難しいと思いますよ。ただ、常に定型物を積むのなら簡単だと思います。ロボットでピッキングを行う場合も、ロボットの手に合う定型物が多い方が効果が出やすいと思います。
甲南デジタルツイン研究所で デジタルに強い甲南大学に!
KONAN-PLANET 記者
甲南大学では最先端のデジタル技術を学べたのですね。
福山社長
はい。しかし、その歴史が完全に途絶えたわけではありません。実は、一般社団法人全国銀行協会のシステムも、甲南大学でテストしてから世に出されているんですよ。残念なのは、その事実がほとんど知られていないことです。それがよくないですね。もっと「デジタルを学ぶなら甲南大学」と認知されるようになってほしい。甲南デジタルツイン研究所が、かつての甲南大学の姿を取り戻してくれると期待しています。
KONAN-PLANET 記者
ご期待にお応えできるよう、がんばります。引き続き、ご協力いただけるとうれしいです!
福山社長
物流業界には甲南大学の卒業生も多く、汽船会社や運送会社の社長を務める卒業生も少なくありません。活発に交流しているので、甲南大学を中心とする会社をつなぐシステムの構築は可能性があると思います。近い将来、物流業界で働く卒業生とデータでもつながれるよう、新しい研究所での活動のお役に立てるとうれしいです。
KONAN-PLANET 記者
甲南デジタルツイン研究所でのロジスティックスに関する研究が、物流業界の課題解決の一助となれば、と思います。本日は、ありがとうございました!
2024年問題は、 物流業界だけの問題ではないと 改めて実感しました。 現在、物流業界が抱える課題が 今後どのように改善されていくのか 注目したいと思います。
- 今回お話しを聞いた人
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株式会社シャロンテック
福山 博之 代表取締役社長
昭和57年(1982)3月、甲南大学経済学部を卒業後、株式会社ダイフクに就職。13年間営業・エンジニアを務めた後、日本ネットワーク研究所で物流コンサルティングに携わる。18年前、日本ネットワーク研究所をバイアウトして社名を株式会社シャロンテックと改名し、現職に就任した。