どうなる?アフターコロナの日本経済
インバウンド&大阪・関西万博が関西経済を救う!?

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2022.8.21
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2018年、2019年と、インバウンドによって大いに潤った関西。
しかし、新型コロナウイルス感染症の流行により、外国人観光客はほぼゼロに。
国内の需要も落ち込み、関西の経済は瀕死の状態に・・・
そんな関西を救うには、どうすればいいのでしょうか。
日本経済および関西経済の短期予測などを研究されている甲南大学名誉教授の
稲田義久先生に、関西経済の「希望」について伺いました。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

稲田先生、今日はよろしくお願いします。
まず、「インバウンド」について、詳しく教えてください。

 

 

 

稲田義久先生

 

「インバウンド」とは、「日本に訪れる外国人客が、日本国内で財やサービスを購入すること」で、貿易統計上は「輸出」に計上されます。この輸出には2種類あって、一つは「財の輸出」です。こちらは、半導体などの電子部品、化学光学機器、鉄鋼、自動車など、国外に運べる輸出をいいます。そして、もう一つが、運べない「サービスの輸出」です。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

「サービスの輸出」・・・これは、どういう輸出でしょうか。

 

 

 

稲田義久先生

 

「サービスの輸出」とは、日本の「サービス」を売ってお金を稼ぐ、ということです。例えば、外国人観光客が日本にやってきて、私が住んでいる奈良で人気のおしゃれなかき氷を食べ歩くとします。すると、外国人は日本に対してお金を払うことになる。他にも、寺社仏閣の拝観料やホテルの宿泊代、イベントの参加費なども「サービスの輸出」に当てはまります。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
なるほど、その「サービスの輸出」=「インバウンド」なんですね。

 

その通りです。インバウンド=Inboundとは、「中に入ってくる」という意味で、外国人が日本に来て消費することをいいます。製造業の多い大阪は財の輸出も盛んですから、インバウンド需要とアウトバウンド(=財の輸出)、この2つの輸出が関西の経済を引っ張ってきたといえますね。
稲田義久先生
稲田義久先生

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
でも、インバウンド需要で潤うのは、観光業だけですよね?
そう、そこがポイントです。インバウンドの経済効果は観光業だけにとどまりません。コロナ前、京都や大阪ではホテルの建設ラッシュで建設への投資が生まれました。多くの外国人がレストランで食事をすれば、食材への投資が増えますし、人も必要ですから雇用が増えます。インバウンドは、観光業だけでなく、さまざまな業界の経済効果につながっています。
稲田義久先生
稲田義久先生

 

 


関西経済における、コロナの影響が深刻


 

コロナ以前/以後の、関西におけるインバウンドによる経済効果

中国人たちの爆買いが話題になった2015年頃から訪日外国人客の数は年々増え続け、2019年には3188万人の外国人が日本を訪れています。それが、新型コロナウイルスの影響で2020年は412万人に激減しています。

 

 

結果、外国人が旅行で消費する金額も減少・・・

旅行の消費額を見ると2019年に4兆8,135億円と過去最高を記録しましたが、その後新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年は7,466億円、21年は1,208億円と大幅減少しました。これは、訪日外国人が消費した金額の数字ですから、その波及効果まで考えるとさらにダメージが大きいと考えられます。2019年までうなぎ登りだったインバウンドによる経済効果は、コロナで大打撃を受けました。それまで、外国人に依存してきた観光業は、まさに今、苦境に立たされています。

 

 

 


インバウンド減少で1.1兆円が関西から消えた!?


 

 

KONAN-PLANET 記者

 

実際に数字を見ると、いかに新型コロナウイルスが
経済に打撃を与えたかわかりますね。

 

 

稲田義久先生

 

そうですね。「これではあかん!」と政府もGOTOトラベル事業などの施策で需要を喚起しようとしましたが全く足りず、2019年と2020年の観光消費額を比較すると、コロナ禍による損失は18兆円にものぼります。また、観光業というのは意外と裾野が広く、社会経済にも大きな影響を与えています。特に大きいのが雇用の面で、他産業と比べて雇用誘発への影響度が第7位となっています。注目すべきはその内訳で、観光業の雇用はパートタイマーなどの非正規雇用が36%を占めており、関西でも非正規労働者たちが大きな影響を受けています。

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

確かに観光客が一気にいなくなって、
あんなに賑わっていた京都のまちも閑散としました。

 

 

稲田義久先生

 

ここ数年、インバウンドが関西の景気を下支えしてきたことは間違いありません。インバウンドによる旅行消費の減少によって、全国で4.4兆円の減少につながったと分析しています。このうち、1/4にあたる1.1兆円ほどが関西経済での影響とされています。経済波及効果の推計結果を見ても、特に大阪、京都での影響が大きいことがわかります(日本経済新聞社、2021年10月5日付より)。その裏で雇用の損失が発生していることも、忘れてはならないと思いますね。

 

 


2025年の大阪・関西万博が、関西経済の救世主となる!


 

 

KONAN-PLANET 記者

 

関西はこれからどうなるのか・・・
なんだか絶望的な気持ちになってきました。

 

 

稲田義久先生

 

いやいや、嘆くのはまだ早いですよ。関西には2025年開催の大阪・関西万国博覧会があるじゃないですか! 私は、この万博が経済に大きなインパクトを与えるのではないかと大いに期待しているんです。大阪・関西万博には、2つの可能性があると考えています。

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

大阪・関西万博の2つの可能性??ぜひ教えてください!!

 

 

一つは、「拡張万博」という取り組み。一言でいうと、「関西全体のパビリオン化」です。関西にはそれぞれに伝統や文化のある魅力的な観光地がたくさんあります。大阪府だけでなく、周辺の県が自らの魅力をアピールする工夫をすれば、宿泊の増加や延泊の可能性が出てくると考えられます。各地の企業が協力して盛り上げることで、多くの外国人が訪れるようになり、波及効果が期待できます!

 

 

そしてもう一つが「バーチャル万博」の取り組みです。新型コロナウィルスによってオンライン環境が飛躍的に充実した今、必ずしも現地に足を運ばなくても様々なことが楽しめようになりました。例えば、仮想空間でパビリオンやイベントを楽しんだり、バーチャルな観光ツアーに参加したり、ネット上でグッズやお土産を買うこともできます。バーチャルな世界で外国人が関西を楽しんでくれれば、関西の知名度が上がり、その人気が定着する。そして、関西を訪れたいと考える人が増え、新たな人流が生まれる。バーチャルがリアルへの「呼び水」となり、人やモノへの投資が生まれ、経済効果も大きくなると期待しています!

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

なるほど!万博を起点として、大きな可能性が広がっていくんですね。

 

 

稲田義久先生

 

その通りです。2018年の夏、大阪北部地震があり、
外国人観光客が激減しました。
同年9月の台風では関西国際空港が被災し、
観光客が入国できないという事態が起き、さらに、米中の貿易摩擦で
輸出も減少し、「財の輸出も、サービスの輸出もあかん…」、と
関西の地盤が沈んでいたときに決定したのが、
実に55年ぶりの万博だったんです!

 

これは、まさに救世主ですよ!
万博開催は関西経済の回復に必要ですし、上手く活用しなければならないと思っています。みなさん、忘れてはいけないのは、大阪万博ではなく、「大阪・関西万博」ですからね!

 

“関西が一つになってやっていく!”
そこは強調したいところです。

 

 

 


関西経済の反転を狙え!稲田先生が描くシナリオとは?


 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
稲田先生、今後の関西経済を回復させていくためには、何が必要なのでしょうか。
関西経済の低迷は、投資不足にあると私は考えています。関西経済のシェアのピークは1970年度の19.3%。大阪万博があった年ですね。その後、2度の石油危機を経て1989年には16.2%にまで一気に低下。その後はバブルの影響もあり1991年に一旦17.1%へと反転したものの、1990年代後半からシェアは再び低迷し、近年は15%台となっています。
稲田義久先生
稲田義久先生

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
GDPのほぼ2割を関西が占めていた時代があったとは、知りませんでした。
投資率が1%上がると経済成長率は0.46%上昇します。2018年の関西の名目GRPは86.13兆円ですから、1兆円を追加で投資すれば投資率を1.16%ポイント押し上げ、次年度の関西の経済成長率を0.54%ポイント引き上げることになります。関西への内外からの投資が増えれば、成長率も加速するはずです。
稲田義久先生
稲田義久先生

 

 

関西の投資率を上げるには、どうすればいいか

まず、インバウンドの活用です。新型コロナウイルスの影響は2025年には回復するという試算もあります。また、先日ダボス会議で知られる世界経済フォーラム(WEF)が発表した「2021年旅行・観光開発指数レポート」で日本が1位を獲得しました。こんなに安全で、多様な楽しみを提供してくれる国は他にありません。これは最大の資産だと思うのです。国の人口が減っても、外国人が訪れてくれれば所得が上がります。インバウンドの成長は、関西経済の反転に絶対外せません。

 

 

 

 

 

 

\ 稲田先生が考える /
関西のインバウンドを成長させるための3つのキーワード

 

①関西ブランドの向上
関西の魅力をいかに伝えブランドイメージを向上させるか。

 

②周遊化
一極集中が混乱を生む。関西各地への周遊を促すプログラムデザイン。

 

③イノベーション
外国人にとって使いやすい仕組み、インフラの構築。

 

 

 

次に大阪・関西万博の成功です。これは、間違いなく関西経済が大きく転換するきっかけとなります。重要なのは、関西をアジアや世界にどれだけアピールできるか。「関西っておもろいな!」と世界レベルで認知されれば、海外から人を呼び込み、投資が増え、それが持続すれば、間違いなく万博のレガシーとなるでしょう。

これらを推し進めていけば、2040年には関西経済のGDPシェアを国内の2割近くまで伸ばす可能性があると、私は踏んでいます。

 

 

稲田義久先生

 

関西経済を盛り上げるには、投資率を上げること。

そのためには、インバウンドを活用し、

関西全体で万博を成功させることが不可欠です。

 

関西経済の未来のためにも、

甲南生は、それぞれの関西の出身地で、

万博を盛り上げてほしいと思います。

 

今回お話しを聞いた人
甲南大学 経済学部 稲田義久 名誉教授

神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程を単位修得退学後、立命館大学経済学部助教授を経て、1995年より甲南大学経済学部に着任。甲南大学副学長、甲南大学総合研究所所長を歴任。博士(経済学)。 現在はアジア太平洋研究所研究統括兼数量経済分析センター センター長。 主なテーマは日本経済および関西経済の短期及び超短期予測、関西地域の成長牽引産業の展望、計量経済学、環境経済学、政策シミュレーション。

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