知ってるようで知らない!「円安」の真実。

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2022.7.21
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最近ニュースでよく耳にする「円安」というワード。

何となく理解はしていても、その仕組みや影響までは理解できていない人も多いのではないでしょうか・・?今回はそんな「円安」について、甲南大学経済学部で国際経済分野の研究をされている青木浩治先生からお話を伺います!

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
青木先生!早速ですが、「円安」とはどのような状態なのでしょうか

「円安」を知るためには、まずは「為替レート」について知っておく必要があります。「為替レート」とは違った国のお金の交換レートのことで、例えば日本で最もポピュラーな‘ドル円レート’は、1ドル??円などと表示されます。1ドルの値段が高くなる現象が「ドル高」で、その裏返しが「円安」です。つまり、外国のお金に対して円の相対的な価値が下がることが「円安」ということになります。
青木先生
青木先生

 

高くなるのに「円安」と呼ばれるわけは?

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
1年半前は1ドル103円でしたが、2022年6月には1ドル135円を上回る水準になっています。1ドル103円から1ドル135円になったのに、なぜ「円安」と言われるのでしょうか・・・

たしかにわかりにくいですよね(笑)日本では、1ドルの「為替レート」を円表示で表現することが主流ですが、それをひっくり返して「円の値段」で考えてみればわかりやすいですよ。1ドルが100円のとき1円は1/100=0.01ドル、1ドル135円のとき1円は1/135=0.0074ドルです。つまり、ドルの値段が上昇することは1円の値段が下がることと同じです。「円安・ドル高」とセットで覚えておくと混乱しません!
青木先生
青木先生

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
なるほど!たしかに「円安・ドル高」と覚えておけばとても分かりやすいです!でも、どうして日本では「ドル建て」表示にするんでしょうか?「円建て」で表示した方がわかりやすいように感じたのですが・・・

円の価格で「為替レート」を表示することもできますが、1円0.01ドルのようにわかりづらい形になってしまいます。また、過去からの慣習の要素も強いです。ドル以外にイギリスのポンドや欧州19カ国が使用しているユーロは、日本と違って自国通貨の価格を外国通貨で表示しています。
青木先生
青木先生

 

 

急激な「円安」、その背景には・・・

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
円安」の状態はよく分かりました!では、現在「円安」が進んでいる理由は何なのでしょうか?

「為替レート」を決定する要因は非常に多く複雑ですが、その1つは「金利差*」です。
 *金利とはお金の貸し借りに伴う利子(利息)のこと
青木先生
青木先生

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
「金利差」ですか・・・?

はい。その国の中央銀行がお金の供給量を減らす政策を行うと、その国の通貨の金利は上がります。これを金融引締め策というのですが、アメリカの中央銀行が2022年3月からこの政策を強化しました。一方、日本の中央銀行である日本銀行はその逆で金融緩和策を継続しているため、ドルと円の金利に大きな差が出る状態になっています。
青木先生
青木先生

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
利に差がでると、どうして「円安」になってしまうんでしょうか?

金利差がある場合、金利が高い国で資金を運用した方が利益が多くなるため、金利の高いアメリカのドル資産の購入が進みます。しかし、日本円ではアメリカの資産を購入できないので、まず銀行に手持ちの円を売ってドルに替え、そのドルでアメリカ連邦債などのドル資産が買い進められます。そのため、円が売られてドルが買われることになり、ドルの価格が上昇し、その裏返しとして円の価格の下落につながります。
青木先生
青木先生

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
なるほど!「円安」は他国の動きにも影響を受けるのですね・・・

 

 

 

 

はい。今回の「円安・ドル高」の主因は日本ではなくアメリカの金融政策の変更なんです。

ある意味で日本(およびその他の国々)はアメリカの政策変更のとばっちりを受けていると言っていいでしょう(笑)。

 

アメリカという国は国際金融の世界において特別なポジションに位置しており、アメリカの経済の混乱は世界に非常に大きな影響を及ぼすことが知られています。

 

同じ金融引締め策でも日本やヨーロッパのものとは次元が異なり、アメリカの金融引締めは日本円だけでなく主要国の通貨の同時安、世界的な債券安(金利上昇)、株安、およびビットコインのような暗号資産価格の下落をもたらしています。残念ながら日本ではこの認識は一部の人を除いて薄いように思われます・・・。

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
アメリカの動きにそれほど大きな影響を受けるとは・・・恥ずかしながら私も認識がありませんでした。

 

 

 

進む「円安」、その影響は?

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
では、「円安」になるとどんな影響があるのでしょうか?

難しい質問ですね(笑)実は、「円安」の影響は個人・企業などによって異なり、どの立場かによっても影響が変わります。
青木先生
青木先生

 

 

 

 

– – – – –  個人 – – – – – 

 

まずは個人です。もっとも身近な例は海外旅行や海外留学の費用高騰ではないでしょうか。

「円安」とは円の価値が相対的に下がることです。現地の通貨を手に入れるために今までよりもたくさんの円のお金が必要になりますので、海外にいく人には負担増になります。

 

一方、その逆で、日本に来る外国人にとってはメリットになります。

2020年の新型コロナ感染ショックにより、大打撃を受けていたインバウンド観光が(3,000万人超の観光客、4.8兆円の輸出が消滅しました)、6月からの外国人の流入規制の緩和や直近の「円安」で回復が見込める点は大きなプラス要素です。

 

 

– – – – –  企業 – – – – – 

 

次は、企業の輸出と輸入について考えます。

企業差はありますが輸出関連企業が恩恵を受けることは間違いありません。ただ、よく言われる『「円安」になれば輸出が増えるのでメリットがある』という表現は半分間違いです。

 

大手輸出関連企業は輸出取引の6割以上をドルなどの現地通貨建て価格で行い、現地シェア確保の目的から、その輸出価格(輸出先での現地価格)をあまり頻繁には変更しません。そのため、「円安・ドル高」で輸出金額は確かに増加しますが、輸出される数量はほとんど変化せず、「円安」の景気刺激効果は限定的です。

 

輸入については、日本への輸入品の7割以上は外国通貨建てで取引されるため、輸入関連企業や輸入に依存する家計にとってはデメリットになります。外国企業は日本企業と異なり、輸出先の現地通貨建て(日本円)で輸出を行う場合でも、円建て輸出価格を値上げして対応する傾向が強く、例えば最近のドイツ車やiPhoneの値上げがその代表例です。

 

– – – – – – – – – – – –

 

一方で、「円安」=物価上昇のようなイメージをもたれがちですが、現在までのところ「円安」が輸入物価に与える影響は限定的です(6月時点の最新データでは輸入物価上昇の3割強の寄与)。実は残り7割の真犯人は、「円安」ではなく世界的なエネルギー・資源価格の高騰なのです。

 

 

 

 

「円安」に対する常識を疑ってみよう!

 

 

 

これまで見てきたように、「円高」局面と「円安」局面でそれぞれの利害が真逆になり、対立するのは日本経済の特徴なのです。日本円の国際取引における利用が低調なのがその理由ですが、その結果、1973年以降長らく続いた「円高」局面では円高恐怖症が声高に叫ばれ、逆に現在のような「円安」局面では悪い円安キャンペーンが展開されるわけです。

 

 

 

 

これは日本だけの現象であり、アメリカはもとより日本と同じ工業国であるドイツでも観察されない現象です。例えば「ドル安」になってもアメリカの輸入品のドル建て価格はほとんど変わりません。「円安」=輸入物価上昇という日本の常識は世界の常識では必ずしもなく、その原因にさかのぼって受け止めるべきです。一度、常識を疑ってみることをお勧めします。

 

 

「円安」で日本がお金持ちに?知られざるメリット

常識を疑うという点で言えば、よく日本は借金経営と言われます。事実そうですが、実は世界最大の債権国でもあり、日本全体では巨額の資金を海外で運用し、配当や利息収入を得ています。輸出や輸入はフロー面の話ですが、このようなストック面に目を向けると「円安」の違った影響が見えてきます
青木先生
青木先生

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
どのような影響があるのでしょうか?

 

先ほどの配当や利息収入の円換算額(現在約20兆円)が増加するのはもちろん、財務省が保有している「外貨準備」と呼ばれる国家資産の評価益が最も分かりやすい例です。
現在保有している約1.3兆ドルの外貨資産の円換算額は1ドル103円の「為替レート」のもとでは134兆円ですが、1ドル135円に「円安・ドル高」が進行すると、その円換算額は176兆円に増加します。あくまで一時的な含み益ですが、日本の国家税収(67兆円)の約6割にあたる約42兆円の評価益が増加することになります。残念ですが、それを有効活用することは議論されていません。
青木先生
青木先生

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
42兆円!?想像もできない値段ですね・・・「為替レート」の影響の大きさを感じます。今回の記事では、「円安」について理解を深めてきましたが、最後に、青木先生から見た国際経済を学ぶ魅力や意義を教えてください!

 

国際経済を勉強することは私たちの生活の仕組み・成り立ちを知り、その改善策を考える上でとても重要です。「経済学」という経済を見る「眼鏡」を装着すると、見える世界ががらりと変わります。国際経済を勉強する意義はその「眼鏡」の装着です。裸眼では見えなかったことが「眼鏡」を付けることで見えるようになり、大きく世界観が変わってきます。その「眼鏡」の装着は簡単ではありませんが、意義あることだと思います。

 

今回お話しを聞いた人
甲南大学 経済学部 経済学科 青木浩治 教授

神戸大学大学院 経済学研究科 博士課程後期課程を単位修得退学後、長崎大学 経済学部助教授を経て、1993年に甲南大学に着任し、現在、甲南大学 経済学部 経済学科 教授、博士(経済学)。専門分野は国際経済学。近年の研究テーマは「為替レートの理論・実証分析」で、中国経済の研究も行っている。

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