知ってるようで知らない!「円安」の真実。
最近ニュースでよく耳にする「円安」というワード。
何となく理解はしていても、その仕組みや影響までは理解できていない人も多いのではないでしょうか・・?今回はそんな「円安」について、甲南大学経済学部で国際経済分野の研究をされている青木浩治先生からお話を伺います!
高くなるのに「円安」と呼ばれるわけは?
急激な「円安」、その背景には・・・
*金利とはお金の貸し借りに伴う利子(利息)のこと
はい。今回の「円安・ドル高」の主因は日本ではなくアメリカの金融政策の変更なんです。
ある意味で日本(およびその他の国々)はアメリカの政策変更のとばっちりを受けていると言っていいでしょう(笑)。
アメリカという国は国際金融の世界において特別なポジションに位置しており、アメリカの経済の混乱は世界に非常に大きな影響を及ぼすことが知られています。
同じ金融引締め策でも日本やヨーロッパのものとは次元が異なり、アメリカの金融引締めは日本円だけでなく主要国の通貨の同時安、世界的な債券安(金利上昇)、株安、およびビットコインのような暗号資産価格の下落をもたらしています。残念ながら日本ではこの認識は一部の人を除いて薄いように思われます・・・。
進む「円安」、その影響は?
– – – – – 個人 – – – – –
まずは個人です。もっとも身近な例は、海外旅行や海外留学の費用高騰ではないでしょうか。
「円安」とは円の価値が相対的に下がることです。現地の通貨を手に入れるために今までよりもたくさんの円のお金が必要になりますので、海外にいく人には負担増になります。
一方、その逆で、日本に来る外国人にとってはメリットになります。
2020年の新型コロナ感染ショックにより、大打撃を受けていたインバウンド観光が(3,000万人超の観光客、4.8兆円の輸出が消滅しました)、6月からの外国人の流入規制の緩和や直近の「円安」で回復が見込める点は大きなプラス要素です。
– – – – – 企業 – – – – –
次は、企業の輸出と輸入について考えます。
企業差はありますが輸出関連企業が恩恵を受けることは間違いありません。ただ、よく言われる『「円安」になれば輸出が増えるのでメリットがある』という表現は半分間違いです。
大手輸出関連企業は輸出取引の6割以上をドルなどの現地通貨建て価格で行い、現地シェア確保の目的から、その輸出価格(輸出先での現地価格)をあまり頻繁には変更しません。そのため、「円安・ドル高」で輸出金額は確かに増加しますが、輸出される数量はほとんど変化せず、「円安」の景気刺激効果は限定的です。
輸入については、日本への輸入品の7割以上は外国通貨建てで取引されるため、輸入関連企業や輸入に依存する家計にとってはデメリットになります。外国企業は日本企業と異なり、輸出先の現地通貨建て(日本円)で輸出を行う場合でも、円建て輸出価格を値上げして対応する傾向が強く、例えば最近のドイツ車やiPhoneの値上げがその代表例です。
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一方で、「円安」=物価上昇のようなイメージをもたれがちですが、現在までのところ「円安」が輸入物価に与える影響は限定的です(6月時点の最新データでは輸入物価上昇の3割強の寄与)。実は残り7割の真犯人は、「円安」ではなく世界的なエネルギー・資源価格の高騰なのです。
「円安」に対する常識を疑ってみよう!
これまで見てきたように、「円高」局面と「円安」局面でそれぞれの利害が真逆になり、対立するのは日本経済の特徴なのです。日本円の国際取引における利用が低調なのがその理由ですが、その結果、1973年以降長らく続いた「円高」局面では円高恐怖症が声高に叫ばれ、逆に現在のような「円安」局面では悪い円安キャンペーンが展開されるわけです。
これは日本だけの現象であり、アメリカはもとより日本と同じ工業国であるドイツでも観察されない現象です。例えば「ドル安」になってもアメリカの輸入品のドル建て価格はほとんど変わりません。「円安」=輸入物価上昇という日本の常識は世界の常識では必ずしもなく、その原因にさかのぼって受け止めるべきです。一度、常識を疑ってみることをお勧めします。
「円安」で日本がお金持ちに?知られざるメリット
現在保有している約1.3兆ドルの外貨資産の円換算額は1ドル103円の「為替レート」のもとでは134兆円ですが、1ドル135円に「円安・ドル高」が進行すると、その円換算額は176兆円に増加します。あくまで一時的な含み益ですが、日本の国家税収(67兆円)の約6割にあたる約42兆円の評価益が増加することになります。残念ですが、それを有効活用することは議論されていません。
国際経済を勉強することは私たちの生活の仕組み・成り立ちを知り、その改善策を考える上でとても重要です。「経済学」という経済を見る「眼鏡」を装着すると、見える世界ががらりと変わります。国際経済を勉強する意義はその「眼鏡」の装着です。裸眼では見えなかったことが「眼鏡」を付けることで見えるようになり、大きく世界観が変わってきます。その「眼鏡」の装着は簡単ではありませんが、意義あることだと思います。
- 今回お話しを聞いた人
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甲南大学 経済学部 経済学科 青木浩治 教授
神戸大学大学院 経済学研究科 博士課程後期課程を単位修得退学後、長崎大学 経済学部助教授を経て、1993年に甲南大学に着任し、現在、甲南大学 経済学部 経済学科 教授、博士(経済学)。専門分野は国際経済学。近年の研究テーマは「為替レートの理論・実証分析」で、中国経済の研究も行っている。