あるときは歌人、あるときは会社員。
共感と驚愕が詰まった「短歌」の魅力を伝えたい。

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2022.4.04
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「なべとびすこ」として活躍する注目の若手歌人、鍋島志織さん。
創作にとどまらず短歌カードゲームの開発やワークショップを開催し、
短歌の魅力をたくさんの人に伝えています。
そして、機械メーカーに勤務する会社員という、もう一つの顔が・・・

 

いつ、なぜ短歌にハマったのか? 短歌ってどんな楽しさがあるのか?
歌人と会社員を両立させるコツは・・・などなど、鍋島さんに直撃!
さらにKONAN-PLANET記者は短歌カードゲームにも挑戦。
短歌の知られざる世界を、一緒にふれてみましょう!

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

今日はよろしくお願いします!
初歩的な質問で申し訳ないのですが…
短歌は俳句や川柳とは違うんですよね?
その違いって何なんでしょう。

 

 

鍋島さん

 

はい、まずは、そこから説明しますね!

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

ありがとうございます。
鍋島さんが短歌に興味をもち始めたのは、
いつごろだったのですか?

 

 

 

鍋島さん

 

社会人2年目のころでした。
季語も不要で、五・七・五・七・七のリズムに乗せるだけでいい。
とても自由で、言葉遊びに近いのが面白いと思いました。

 

 

 

長年の苦手意識が短歌を広げる活動へ
今はWebマガジンの編集長をしていますし、SNSで短歌を発信したりしていますが、実は短歌のハードルはとても高かったんです。学校の宿題でつくったことがありましたが、できないし、わからないし、まったくいいイメージがありませんでした。

 

最初に短歌に興味をもったのは、今から8年ほど前。雑誌「ダ・ヴィンチ」の穂村弘さんの連載『短歌ください』がきっかけでした。連載は面白いけど「短歌をつくる」ことには興味がわかなかったのですが、エッセイを読み尽くして、いよいよ短歌関連の本を読むしかなくなって、とりあえず入門書から読み始めたんです。いろいろな歌人の入門書を読むと、私の苦手意識が完全な誤解だと分かり、つくりたいと思うようになりました。

 

穂村さんの本で「普段生きている社会と短歌の世界では価値が逆転する」ことを知りました。社会で役に立つことは、短歌の世界では役に立たない。しょうもないこと、些細なこと、一瞬の出来事の方が、短歌では価値があるし印象に残るんですね。当時は社会人1年目で、仕事がうまくいかなくて落ち込んでいて、この言葉がとても響いた。会社では輝けなくても、短歌の世界でなら輝けると思ったんです。つまずき落ち込んでいた私の支えになりました。

 

 

 

普段の日常生活の中では
「お金を稼ぐこと」や「便利さ」に価値がある。
短歌の世界では全く逆で、
ほんの些細な出来事や、くだらないことの方が
価値があり、みんなの記憶に残ります。

 

 

 

本当は『短歌ください』を読み始めてすぐ短歌を始めてもよかったし、穂村さんにハマってすぐに短歌の入門書を読んでもよかった。けれども、私は短歌を作るまで5年かかりました。それがいまだに悔しくて、今もあのころの自分のために活動を続けている気がします。私が短歌への苦手意識を拭うのに数年かかったように、同じように短歌を敬遠していたり、誤解をしていたりする人がたくさんいるのではと思い、自然に短歌を広める活動にも力を入れるようになりました。

 

 

過去のネガティブ感情を払拭したことで、
短歌が楽しくなり、もっと広めたいと意欲的に!

 

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
苦手意識があったからこそ、今の鍋島さんがあるんですね。
「短歌と社会の価値観が逆転する」というのは面白いです!
親しい人には言えるけど、大きな声では言えないこと、
家族にも言えないことを短歌にしてみるのも面白いと思いますよ
鍋島さん
鍋島さん

 

短歌で自分の人生の棚卸し
短歌は今考えていることだけでなく、例えば子どものころのうれしかったことなども短歌の“ネタ”になります。それがイヤな記憶だとしても短歌作品として昇華できるので、精神的にとても良いです。自分の人生の棚卸しをする、そんな感覚です。
私は社会に出て挫折した時に、短歌に出合って心が軽くなりました。同じように悩みを抱えている人や、自分の気持ちを人に伝えるのが恥ずかしいという人も、短歌なら表現できたり心が軽くなったりすると思うんです。そんな人たちに、まずは短歌を楽しんでもいたい!という思いでつくったのが、短歌のボードゲームです。

 

「57577 ゴーシチゴーシチシチ」
原案・ゲームデザイン:なべとびすこ/ゲームデザイン:天野 慶 / 発売元: 幻冬舎

 

鍋島さんが原案・ゲームデザインを手がけたカードーム『57577 ゴーシチゴーシチシチ』(幻冬舎)は、SNSでバズり、テレビ番組でも取り上げられるほどの人気ぶり。「5音カード」と「7音カード」を組み合わせて短歌をつくるゲームで、ふりがな・ローマ字も併記。大人はもちろん、子どもや外国人にも評判だそう。

 

 

鍋島さん

 

せっかくなので
今日は実際にゲームをして
短歌の創作を体験してみましょう!

 

 

 

本来、並び替えてトランプのポーカーのように遊ぶのですが、リモートでも遊べます!
あらかじめ5音と7音のカードを12枚ずつ用意しましたので、
この画像を見ながら、それぞれが組み合わせて遊んでみましょう!

 

 

鍋島さんが選んだ12枚のカードはこちら↑
ピンクが5音の言葉 青が7音の言葉

 

さらに7音の「角を曲がれば」を必ず使うことにします。
さっそく5・7・5・7・7を組み合わせして完成させましょう!
時間は3分です!よーいスタート!

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
う・・・意外と難しい! 3分じゃ足りないです!
ですよね。この3分で瞬発力でつくるのが大事です!
鍋島さん
鍋島さん

3分後

 

では、みなさん発表していきましょう!
鍋島さん
鍋島さん

 

KONAN-PLANET 記者

 

「よみがえり 言えばよかった  夢ならば
角を曲がれば  運命の人」

 

とてもすてきです!
「よみがえり」「言えばよかった」が続くと、
今は言えていないんだな、後悔しているんだな、
というのが分かりますね。
さらに「夢ならば」「角を曲がれば」と仮定に仮定を重ねています。
「運命の人」が現実にはいない、という逆説が見て取れます。
実際に作った意図とは違うかもしれないですが、
短歌はただでさえ短いので
さまざまに解釈できるのが楽しいですし、魅力ですね。
鍋島さん
鍋島さん

 

 

鍋島さん

 

ちなみに私もつくってみました。

 

「泣きながら 角を曲がれば どっか~ん!
あわんてんぼうの 運命の人」

 

少女漫画のシーンを連想させつつ
でも最初が「泣きながら」とすることで
情景が悲しみから楽しさに変わっていきます。

 

このように同じようなことばを使っていても
意味が異なってくるのが短歌の魅力です。

 

あと、たまたま並べたことばが短歌になっていた・・・
という偶然性もゲームならでは。
ぜひ、やってみてください!!

 

 

 

「楽しい!」が広がる短歌のフィールド
「面白そうなゲームだな」と買ったら、たまたま短歌のゲームだった。そこからふわっとでも「短歌って面白いな」とか「なんか楽しかったなあ」って思ってもらったり、短歌を始めるきっかけになったりするといいなと思います。数年後にどこかで短歌を見たとき「そういえばあのカードゲームって短歌のゲームだったんだな」「短歌いいなあ、気になるな」というのでもいいんです。

 

ちなみに、カードゲーム『57577 ゴーシチゴーシチシチ』は、学校の授業や学童などの教育現場でも使われています。こうした遊びを通じて短歌に親しんでもらえるとうれしいです。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

ゲームを出版するほどの行動力、しかも、会社員と歌人の二足のわらじ。
鍋島さんの「同時進行能力」がすばらしいと感じました。
それは、どのようにして培ったのでしょうか?

 

 

 

鍋島さん

 

興味のある心理学だけでなく、好きな文学や哲学も学べると、
甲南大学の人間科学科に進学しました。
幅広い分野を学んだ経験と大学で出会った友人の存在が
短歌と仕事を両立する力になっています。

 

 

 

 

歌人と会社員、バランスのとれた複業スタイル
仕事では自社サイトの運営やカタログ・社内報の制作を担当しており、歌人としての活動や学びが役に立っています。もし、短歌をやっていなかったら、会社の価値基準や独自の文化に染まってしまうのではないかと思うのです。仕事でつまずいた時、自分には別の道がある、もう一本の杖がある、と思えるのはメンタル面でも大きな支えになっています。とはいえ『57577 ゴーシチゴーシチシチ』の発売前は時間との戦いでした…隙間時間や仕事帰り、有給休暇も活用しながらようやく完成させることができました。サポートしていただいた周りの方々に感謝です。

歌人と社会人の複業を今後も続けていきたいと思っています。最初は趣味から始まって、7年間楽しくやっていたら、いつの間にかそうなっていました。今、短歌ブームと言われていますが、もっと広めていきたい。歌人として創作活動にも力を入れて、歌集が売れる世の中にしていきたいと思っています。

 

 

 

短歌に心惹かれ、日々腕を磨き、
活動の幅を広げていく鍋島さんから目が離せません!!
これからのご活躍にも期待しています!

 

学園広報誌『KONAN TODAY No.61』でも
鍋島さんのインタビューを掲載しています。
こちらも合わせてご覧ください。

 

 

 

 

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