量子コンピュータで科学研究は爆発的に進化する!?
「量子力学」で開く未来の扉

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2025.3.21
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原子や電子などミクロの世界は、私たちの常識では計りしれない秩序によって支配されています。量子コンピュータとは、そのミクロの世界の法則を使って超高速な情報処理を行うまったく新しいコンピュータです。実装化が進めば、さまざまな科学研究が爆発的に進化し、私たちの生活や社会を大きく変えるともいわれています。量子コンピュータ研究の現在と未来について、理工学部物理学科の髙吉慎太郎准教授に語っていただきました。 

 

 

Contents

・量子力学とは

・量子コンピュータとは

・量子コンピュータの今後の可能性について

 

 

 

量子力学とは

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

まずは、量子力学について簡単にお伺いできますか?

 

 

髙吉慎太郎 准教授

 

 

ミクロの世界では不思議な法則が働く

 

私たちが日常生活でボールを投げたり、荷物をもったりする際に経験している物理の現象は、古典力学というルールに従っています。しかし、このルールは原子や電子といった微小なスケールにはそのまま適用できません。 量子力学はこのようなミクロの世界の物理現象を記述する理論です。たとえば電子の位置と速さを同時に正確に知ることはできません。日常のシーンでボールを投げた場合、速さを測ることでボールが今どこを飛んでいるかを知ることができますが、ミクロの世界では、電子の速さを測定したとき、電子は異なる位置に同時に存在しうるのです。このように物体がさまざまな状態をとる可能性のあることを「重ね合わせ」といいます。私たちの日常感覚に反するかも知れませんが、半導体、レーザー、太陽電池などもこの量子力学の原理を基にして動いています。

 

 

 

 

 

量子コンピュータとは

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

量子コンピュータとは、どのようなものでしょうか?

 

 

スーパーコンピュータをはるかに凌ぐ超高速情報処理

 

髙吉准教授:量子コンピュータは、量子力学の原理を利用する新しいタイプのコンピュータです。 従来のコンピュータでは、文章・画像・音声といったデータはすべて0と1の数字の並びで表されます。この0または1のことをビットといい、データの編集や削除などの情報処理はこのビットの並びに対して行われます。量子コンピュータは、確率的に0にも1にもなりうる「量子ビット」を利用します。量子ビットは「重ね合わせ」の特性をもっているため、確率的に可能性のあるすべてを一度に並列処理することが可能で(下図参照)、従来のコンピュータとは桁違いの速さを発揮します。スーパーコンピュータの場合、たくさんのCPUやGPUを並列使用して大量のビットに対する処理を行いますが、量子コンピュータは量子ビットの内部で可能性のある全部を並列させることができるため、スピードはスーパーコンピュータをはるかに凌駕します。とはいえ、量子コンピュータはエラーを引き起こすノイズに対して非常に脆弱であること、多数の量子ビットの制御や結合が物理的にむずかしいこと、といったハード面の課題が数多くあります。

 

 

 

 

 

 

-髙吉先生の研究内容を教えてください。

 

エラーに負けない量子ビットをつくる研究

 

髙吉准教授:私が研究するのは、量子コンピュータが外部から受けるノイズエラーを低減するための、量子計算方式です。研究対象としているのは、「物質が局所的なノイズの影響を受けずに全体的な形で性質が決まる」というトポロジーの考え方に基づく、「トポロジカル量子計算」です。その方式の一つにエニオンと呼ばれる特殊な粒子を用いるものがあります。私は、STMと呼ばれるミクロの世界を観察できる特殊な顕微鏡を用いて、このエニオンの移動や検出を行う方法を理論的に追究しています。いわばエラーに負けない量子ビットをつくる研究です。最終的な目標としては、エニオンを用いて量子コンピュータのCPUにあたる部分の実装化を提案できればいいなと考えています。

 

 

研究を支えるクラスター計算機。大規模な数値計算やシミュレーションを行う。

 

 

 

量子コンピュータの今後の可能性について

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

量子コンピュータの今後の可能性について、お伺いできますか?

 

 

量子コンピュータで科学研究は飛躍的に発展する

 

髙吉准教授:量子コンピュータは開発途上ですが、今後発展・実装化されればさまざまな科学研究を加速させることができるでしょう。高速かつ正確な分子構造予測や化学反応シミュレーションにより、薬学や材料科学の分野で大きな進展が期待できます。経済・金融や都市交通などにかかわる「最適化問題」への飛躍的なアプローチも可能になります。

その他、素粒子・宇宙物理学や医学、機械工学などの幅広い分野の研究で量子コンピュータが活用されるようになると考えられます。さらに、量子コンピュータの超高速処理をもってすれば、人工知能のモデル学習も桁違いに効率化します。そうなれば、ますます人間に近いAIが開発されるでしょう。

 

-量子コンピュータが発展することにより、量子力学の需要が高まりそうですね!

 

「量子力学」で開く未来の扉

 

髙吉准教授:現在、先に述べたハード面の限界もあって量子ビットの数は数百から数千程度であり、実用的な問題を高速で処理する段階には至っていません。しかし今後、量子ビットの数が増えれば処理能力は一気に向上するかもしれません。そのような時代になれば、量子コンピュータのプログラミングやエンジニアリングを行うことのできる「量子人材」の需要が高まるので、量子力学をより幅広い人たちに理解しやすいかたちで説明できるような工夫が求められるでしょう。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

髙吉先生ありがとうございました。

甲南大学では、進化型理系構想の具体化が着々と進行しています。

詳しい内容は特設サイトをチェック!!

 

 

 

 

 

 

 

今回お話しを聞いた人
甲南大学 理工学部 物理学科 髙吉 慎太郎 准教授

東京大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ジュネーブ大学博士研究員、マックスプランク複雑系物理学研究所研究員などを経て、2020年4月より現職。

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