
甲南大学の読書王に聞く!
今年読んだおすすめの本 ベスト3 2024
今年読んだおすすめの本 ベスト3 2024
大学時代に身につけたい「読書習慣」というスキル。
昨年も実施した、KONANライブラリ サーティフィケイトに認定された学生3人に今年読んだ本からベスト3を選んでもらうという企画。その2024年版を今年も実施します!よく日本人の“読書離れ”と言われますが、全国学校図書館協議会の調査によると、小学生から高校生までの月間読書数は微増もしくは横ばいだそうです。読書離れしているのは、実は成人世代からで「スマホ利用の増加」や「忙しい」が理由だとか。けれど素早いアウトプットが求められる社会人ほど、あらかじめ知識や情報をインプットしておける読書習慣は重要なスキルです。大学4年間は、この習慣を養うラストチャンスかもしれません。とはいえ書店や図書館に並ぶ膨大な書籍を見ると、何から読めば良いのか迷いますよね。このおすすめから興味を持った一冊があれば、それをきっかけに、ぜひ読書習慣を身につけましょう。
本を読む楽しさを知ることが、まずは第一歩。
KONAN-PLANET 記者
それでは自己紹介をかねて、 読書を好きになったきっかけなどを教えてください。
船越さん
マネジメント創造学部3回生の船越です。きっかけは、高校時代の友人に読書好きな子がいたことです。彼女から借りた本がすごく面白くて、読書ってこんな楽しいんだと気づかせてもらいました。それからいろいろな本を読みましたが、好きなジャンルは推理小説ですね。作中の事件を現実の社会問題に照らしあわせながら読むと、すごく考えさせられます。そんな読書好きを活かせるかなと思ってライブラリ サーティフィケイトに参加し、今年は60冊ぐらい読みました。
塩谷さん
マネジメント創造学部4回生の塩谷です。読書のきっかけは、小学生の頃に父や母が絵本の読み聞かせをしてくれて、この物語はその後どうなったんだろうと考えるのが好きだったからですね。自分で小説とか読むようになっても、内容について想像したり推測したりするのが楽しいんです。ライブラリ サーティフィケイトは、大学で頑張る目標がほしいと思っていたので入学前から取るつもりでした。今年読んだ本は、8月から10月まで忙しかったので40冊ぐらいです。
伊場田さん
文学部3回生の伊場田です。私の家族には本好きが多く、小学生の頃から、家にある本を読んでいました。家の近くに図書館があったので、そこにも家族でよく通いましたね。ただ高校生ぐらいになるとなかなか本を読む時間もとれなくて、しばらく遠ざかってしまったんです。そこで大学生になったことをきっかけに以前の読書習慣を取り戻そうと思い、ライブラリ サーティフィケイトにも挑戦しました。いまのところ年間の読書数は50冊ぐらいですね。
本を読む楽しさを知ることが、まずは第一歩。
KONAN-PLANET 記者
ではさっそく、今年読んだ本の3位から紹介してもらいましょう。
船越さん:私の3位は『灰色の虹』(貫井徳郎著)です。身に覚えのない罪でいきなり逮捕されて殺人犯にされた男が刑期を終えた後、自分を冤罪に陥れた検事や弁護士に復讐していくというストーリーです。日本社会でも「冤罪」はよく問題になりますが、いまだにそれがなくならない現実。無実の罪に問われた人と、その家族を守ることのできない社会の現状について考えさせられました。
-たしかに冤罪というのは、いつ自分の身に振りかかってくるかわかりませんものね。
船越さん:ええ。それに現代は多様な情報が飛び交う時代だからこそ、情報の真実性についても常に考える必要性があることを知るきっかけになる作品だと思います。
-表面的な情報に流されないというのは現代の大きな教訓ですね。それでは塩谷さん。
塩谷さん:『ぼんくら陰陽師の鬼嫁』(秋田みやび著)です。大学生だった野崎芹が、アルバイトをクビになったうえ、アパートの火事で住むところまで無くしてしまいます。途方に暮れていた公園で陰陽師をしているという北御門皇臥と出会い、彼の使う式神が見えることから相互利益として結婚することになった芹。そんな彼女が、次々に起こる不可解な事件に取り組んでいくというストーリーです。
-なんだかミステリアスですね。この作品の、どういった点がおすすめでしょうか。
塩谷さん:主人公の芹は、最初は仕方なく夫婦になるわけですが、物語が進むにつれて皇臥や彼の使役する式神たちとの関係が深まっていきます。その過程が、読んでいてすごく面白いんです。
ーストーリーだけではなく、登場人物の描写も楽しめるんですね。では伊場田さんは?
伊場田さん:私の3位は『ようこそ地球さん』(星新一著)です。作者は短編小説よりもさらに短いショートショートという分野で有名な方ですが、未来の人類に待ち受ける悲喜劇が42篇もおさめられた一冊です。ワクワクするような物語から、少し切なくなる物語まで。どれも詩的で軽やかな文章で、しかも起承転結がはっきりしていて読みやすく、どの話にも驚くようなアイデアが詰め込まれています。
-ショートショートという形式ってあまり馴染みがないかもしれませんが、
意外性のある結末に驚かされるというのは醍醐味ですよね。
伊場田さん:それに短い時間でも一話ずつサクサクと読み進めていけるので、忙しくてまとまった読書の時間がとれないという人にもおすすめしたいです。
日常に気づきを与えてくれた2位の小説たち
KONAN-PLANET 記者
それでは、2位の作品紹介に移りたいと思います。
船越さん:はい。私が選んだのは『終末のフール』(伊坂幸太郎著)です。8年後に小惑星が衝突して地球は滅亡すると予告されてから5年。人々が余命3年のいまをどのように過ごしているかを短編連作の形で描いた小説です。働く人もいなくなって生活必需品さえ買えない中、犯罪に走ってしまったり、自ら生命を絶つ人が出てきたり。あるいは子宝を授かった夫婦が産むべきかどうか苦悩したり。人が絶望的な状況におかれたときの行動を、さまざまな視点で物語にしています。
-設定はSF的ですけど、極限状態での人々の葛藤や選択を描く クライシス小説ともいえるのでしょうかね。
船越さん:読みながら常に、自分ならどうするだろうと考えさせられます。いまの生活というのが当たり前のように続く保証などないのだと。だからこそ支えてくれている周囲の人々に感謝しつつ、やるべきことを先送りにしないように生きる大切さに気づかされました。
-普段の生活ではとても考えつかない視点ですね。それでは塩谷さんの2位は?
塩谷さん:私は『質屋からすのワケアリ帳簿 双生の祝い皿』(南潔著)を選びました。横領の濡れ衣を着せられて会社を辞めた目黒千里は、家賃や生活費にも困り、両親の形見である結婚指輪を換金しようと“質屋からす”を訪れます。ところが質屋オーナーの烏島は、結婚指輪ではなく、物に宿る記憶を透視できるという千里の不思議な力の買いとりを提案。質屋の従業員として働くことになった彼女が、その力をきっかけとしてさまざまな事件に遭遇していくというシリーズです。
-3位の作品と少し設定が似ていますね。どうしてこの小説と出会ったのでしょうか。
塩谷さん:もともと祖母が母親にすすめて、さらに母親が私にすすめたという経緯で出会った小説なんです。シリーズはほぼ全巻読んだんですけど、この巻あたりから千里と烏島の距離が近づいていくんですね。けれど直接的な描写ではなく抽象的な表現ばかりで、そこから二人の関係の変化を読みとるのが楽しい作品です。
-親子三代での愛読書ですか。シリーズが続いているようなので幅広い方に人気なんでしょうね。
では伊場田さんどうぞ。
伊場田さん:2位は『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(桜庭一樹)です。母子家庭で育ち、はやく自立してお金を稼ぎたいと願う中学生のなぎさは、自分を人魚だと言う不思議な転校生の藻屑と出会い、最初は振り回されつつも徐々に仲良くなっていきます。そして藻屑が父親から虐待されていることを知ったなぎさは、二人で逃げ出すことを決意するという物語です。
-人気の作家さんですけど、なんだかとても重そうなテーマの小説ですね。
伊場田さん:ハッピーエンドの物語が好きだし、読んだ小説にもそういうものが多かったんですけど、この作品はまったく違いました。夢や理想を抱く子どもたちにとって、現実の大人たちの前では世界を変えられない無力感。その痛みや絶望が伝わってきて、題名に込められた作者の想いまで強く実感できるというか。今年読んだ本の中でも、とくに心に重くのしかかった作品として2位に選びました。
今年いちばんの感動や驚きをくれた第1位
KONAN-PLANET 記者
いよいよ1位の発表です。 さあ、みなさんはどんな一冊を選んだのでしょうか。
船越さん:私の1位は『偶然屋』(七尾与史著)です。世の中には偶然屋という人がいて、依頼があれば偶然に見せかけたできごとを起こすという設定です。この偶然が無事に成功しても、偶然屋はアフターフォローとしてその後を見守るんですが、依頼の影に隠されていた意図が表にでてきて物語がどんどん進んでいく感じです。ストーリーが緻密で、けれどテンポよく進んでいく展開ですから、だれでも読みやすいんじゃないかと思い1位にしました。
-偶然だと思っていたことが実は意図的だったとなると、
なんだか疑心暗鬼になってしまいそうですね。
船越さん:たしかに、今日だれかと会ったことも偶然ではなく意図的だったとしたらどうだろう、ほんとは偶然など存在しないのかもしれないと少し不安な気持ちになりました。でも私なら、もしも偶然屋に出会えても依頼はしないでしょうね。偶然は偶然のまま、自然のままに日常を楽しむ余裕をもちたい。この本を読んでそんな思いを抱きました。
-偶然を楽しめる余裕というのは大切ですよね。では塩谷さんの1位を教えてください。
塩谷さん:私にとっての1位は、なんといっても『ドルフィン・デイズ!』(旭晴人著)です。プライドが高くてなかなか就職先が決まらなかった潮蒼井は、父親の紹介で受けたドルフィントレーナーの試験に見事合格。試験中にパートナーとなったイルカのビビと一緒に、イルカショーへのデビューをめざしていきます。ところがある日、ビビに致命的な異変が見つかり、大変な事態になっていくという物語です。最初に読んだときには泣いてしまうほど感動して、何度も読み返すくらい大好きになってしまった小説です。
-それほどまでに気に入ってしまった理由はどこにあるのでしょう。
塩谷さん:ビビがもうショーに出演できないとなったとき、蒼井は納得できずに無茶をして、大きな失敗と挫折をするんです。けれど、ビビも蒼井と一緒に泳ぎたいんだというお互いの絆に気づくと、もう自分のプライドなんか関係なく「いまできることは何なのか」を考えて行動をはじめる。私もネガティブになることがあるけど、そんなとき一人の力ではなく、だれかと気持ちが通じあうことで変われることもあるんだなと考えさせられました。
-絆の大切さに気づかせてくれる作品なんですね。読んでみたい気がします。では最後に伊場田さん。
伊場田さん:『レモンと殺人鬼』(くわがきあゆ著)です。父親が通り魔に殺され母親も失踪という悲劇に見舞われ、それでも2人でがんばって生きてきた小林姉妹ですが、ある日、妹の妃奈が遺体で発見されます。しかも彼女は生前に保険金殺人の容疑がかけられていたようで、姉の美桜が疑惑を晴らすために動きだすという物語です。真相を追う中でいろんな人物に出会うんですが、そのたびに物語が二転三転、さらには四転していって、事件の全体像もどんどん変化し、最初は自分を悲劇のヒロインだと思っていた美桜の立ち位置さえも変わっていく。その展開の速さと面白さに圧倒されました。
-なるほど。ではこの作品をあえて1位に選んだポイントはどこでしょう。
伊場田さん:どれを1位にするかは悩んだんですけど、こんなミステリー小説があるのかという衝撃を受けたのが最大の理由です。小学生の頃に読んだシャーロック・ホームズシリーズやアガサ・クリスティの作品などとは、展開がまったく違いました。伏線回収も見事ですし、物語としての面白さやキレの良さは今年読んだ中ではダントツの1位です。
世界を広げ、想像力を刺激する。それが読書の魅力。
KONAN-PLANET 記者
あらためて、みなさんにとって読書の魅力ってどういうところでしょう。
船越さん:本を読むことで自分のあまり知らない分野のことについて学べることが魅力です。例えば医療や法律の専門知識がなくても、読書を通じて興味や関心を持つことができ、学びの幅も広がっていくんです。読書というと自分の世界に閉じこもるイメージを抱かれがちですけど、むしろ新しい扉をくぐって自分の世界を広げていく感じですね。
塩谷さん:私はライトノベルが好きなんですが、その後の登場人物たちの行動をいろいろと想像できることが読書のポイントだなと思っています。『ドルフィン・デイズ!』だと、蒼井はいまどんなイルカショーをやっているんだろうとか、ちょっと恋愛関係になりかけた女性トレーナーとはどうなったのかなとか。そんな余韻を楽しめる小説が多いんです。
伊場田さん:やっぱり、さまざまな世界に入り込めることが読書の魅力だと思います。本の世界を通じていろいろな自分になれる感覚がありますよね。あとは電車とか、ただ移動しているだけの時間でも、本があるだけですごく豊かな時間にすることができます。いつでも手軽に、ワクワクするような経験に出会えるんですよね。
-ありがとうございました。これからも読書の世界を楽しんでくださいね。
KONAN-PLANET 記者
「良書には結末が無い」というのはイギリスの作家 R・D・カミングの言葉ですが、
本との出会いは心に大きな余韻をのこし、
新たな行動力や想像力を与えてくれるのだと今回の選評から感じました。
この記事を読んでくれた方も良い機会なので、
まずは一冊、お気に入りの本を見つけてみてください。
※画像の引用元はamazonから使用しております。