一人ひとりの愛をリングというカタチにシルす
KATATi SiRUSi lab
とても華やかな印象のあるブライダル産業ですが、いまは少子化や結婚観・家族観の変化によって環境が大きく変化しつつあります。そんな中、注目を集めているのが「KATATi SiRUSi」というブライダルリングのブランド。若い人でも選びやすい価格帯ながら約3,000種もの組合せで結婚指輪を選べるなど、カスタマイズの自由さから「自分らしさ」を大切にする層に大きな反響を呼んでいます。そんな新たなムーブメントを生みだそうとしている谷口遥香さんに、今回はお話をお伺いしました!
おふたりだけのワクワクするようなカタチをサポートできる、ブライダルリングブランドへ。

KONAN-PLANET 記者
お忙しい中ありがとうございます。本日はよろしくお願いします。

谷口 遥香さん
よろしくお願いします。

KONAN-PLANET 記者
谷口さんは株式会社ハー企画取締役会長ということですが、どんなビジネスを展開しているのでしょう。

谷口 遥香さん
ブライダルリングブランド「KATATi SiRSUi」を主に展開していて、「KATATi SiRUSi lab」というのは2020年に苦楽園でオープンしたコンセプトショップです。起業したのは2020年で、現在は国内外のセレクトショップ33店舗にブライダルリングを卸しています。

KONAN-PLANET 記者
どのようなコンセプトでブランドを展開しているんですか。


谷口 遥香さん
「KATATi」は婚約指輪で「SiRUSi」は結婚指輪のブランドですが、「KATATi」はセンターダイヤモンド代込みで15万円以下のラインナップです。婚約指輪を贈るというのは、ブランドやお金だけじゃなくてそこにどれだけの想いが込められているか、ということが大切だと思っています。その想いを込めるプロセスを設計することが私たちの役目です。

KONAN-PLANET 記者
「プロセスを設計する」というのはどういうことでしょうか。

谷口 遥香さん
お客様は相手の顔を思い浮かべながら、リングを自由にカスタマイズできるようにしています。例えば、相手の好きなリングのカラーを想像しながら、ダイヤモンドは多い方が良いのか、控えめな方が良いのか選べたり、手先のプロポーションを気にしている方には指が細く見えるデザインのものを用意したり。贈る人のオリジナリティーをプラスしてプレゼントする。そんなブランドとして展開しています。

KONAN-PLANET 記者
なるほど。価格ではなく、リングに込められた想いで価値を表現するわけですか。

谷口 遥香さん
想いを「KATATi(カタチ)」にして、人生をともに歩む「SiRUSi(シルシ)」にしてほしい。そんなイメージです。


変化に強い自分へ進化させてくれた、海外留学。
甲南大学のマネジメント創造学科(CUBE)ご卒業ということですが、甲南大学を選んだ理由は?
大学4年間の中でもっともやりたかったことが海外留学だったんです。留学したい学生を全力で応援してくれそうなイメージと、世界にはばたく人材を育てるという理念に惹かれてCUBEへの進学を決めました。
入学時には海外留学がいちばんの目標だったんですね。
ただ、海外留学の条件であるTOEFLの基準点がどうしてもクリアできず、入学して半年である決断をすることになりました。それは、もっと勉強する時間を確保するため、アルバイトと部活のどちらかをあきらめることです。
中高一貫校に通った6年間はずっとなぎなた部に所属していて、仲間と挑戦することの達成感をすごく感じていたんです。だから大学でもアーチェリー部に所属しました。アルバイトに関しては、お金目的というよりも、将来に向けて自分が興味を持てそうな分野を探すという明確な目的があって頑張ってたんです。私にとってどちらも大切でしたが、このままでは海外留学という最大の目標が達成できないということから、悩んだ末に部活をあきらめることにしました。
キャンパス生活でのウエイトというか、優先度を考えた決断でしたね。おかげでTOEFLの点数はクリアできましたし、ニューヨーク州立大学バッファロー校への留学も実現できました。アルバイトについても、カフェやアパレルの店員、レジ打ち、タブレット端末の販売、倉庫での軽作業、家庭教師といろんな仕事を経験できましたね。


多国籍な環境の中でプロジェクトに取り組んだり、日常生活を送るというのはほんとうに新鮮な体験でした。けれど文化や習慣が異なる人たちと過ごすのは大変なこともあって、たとえばバスルームの使い方ひとつでもルームメイトと揉めたりしました。けれど自分の価値観を一方的に押しつけても解決はしない。「綺麗に使えばこんなに気持ちよくなれるよ」と、お互いにプラスになる着地点を提案してこそ受け入れてもらえる。多様性への対応というか、さまざまな状況を柔軟に乗り越えていく能力というのが留学生活で磨かれましたね。
4年という限られた時間の中で、勉強、部活、アルバイトなど「やりたいこと」と「やるべきこと」にしっかりと優先順位をつけてキャンパスライフを送った谷口さん。だからこそ海外留学という最優先の目標を達成でき、かけがえのない経験もできたわけです。学生ながら驚きの自己分析力や判断力ですね。


「師匠」との出会いで、新たな世界への挑戦を決意。
大学卒業後は、まず広告代理店に就職されたんですよね。
求人情報の「doda(デューダ)」で有名なパーソルキャリア株式会社に新卒で採用されました。
これは大学時代にいろいろなアルバイトを経験したおかげです。自分はどんな仕事でも「楽しめる」人間なんだと気づいたんですね。それならひとつの分野に固執するのではなく、いろいろな業界の人と接することができる仕事をしたい。そんな気持ちで広告代理店を中心に就活しました。
広告業界で三年ほど勤めて独立されるわけですが、なにかきっかけはあったんですか。
会社でもある一定の成績を収められるようになって、では次のステップをどうしようと考えていたんですね。そんなとき、いつもお世話になっていた取引先の社長とお話していて「雇う側と雇われる側」では世界が、常識が、まったく違うよということを聞かされたんです。そのときに、私の好奇心が大きくくすぐられて、新しい世界に飛び込んでみたい、と思いました。
なぜ、ブライダルジュエリーという分野を選ばれたのでしょう。
相談した社長が、ジュエリー業界でとても顔の広い方だったんです。その方の下で一年ほど働かせてもらい、宝石のこと、業界のことはもちろん、生き方や見た事のない世界をたくさん背中で見せてくださりました。なので、これからもずっと、私の「師匠」です。
はい、それから学んでいく過程で、ブライダルジュエリーの卸業界は、まだまだ私のような若手がほとんどいないことにも気づきました。この状況は「かえってチャンスなんじゃないか」と感じたことが起業の後押しになりました。が、やはり1番の大きな理由は「師匠」が「谷口さんなら出来ますよ」とずっと声をかけ続けてくれたことです。
よく聞かれるんですが、ビジネス面で苦労した記憶がないんですよ。一年間の下積みを終えて独立するときに「師匠」の紹介などで卸先がすぐに7店舗ぐらい決まって。その後、DM発送とか地方巡りとか“どぶ板営業”のようなこともしましたけど、当時は「早く恩を返したい」と必死だったので「苦しい」という感情は無いに等しかったと思います。それよりも独立の前後に一年ほど住んでいたマンションの浴室がどうにも生理的に受けつけなくて、それは苦労しましたね。
留学時代のバスルームといい、お風呂にまつわるトラブルに縁があるようで……。
起業に向けた節約の日々で仕方なく住んでいたんですが、とにかくゆっくりと浴槽に浸かれる生活に戻りたくて。もう毎晩「一日も早く引っ越したい!」と口癖のように呟いていました。
ま、まあ、その強い気持ちがモチベーションになったのかもしれませんね。
人生にはいくつもの転機が訪れますが、そのときに大きな力となるのが人との出会いです。とはいえ「幸運の女神には前髪しかない」というギリシャ詩人の言葉のように、出会いを活かせるかどうかは人それぞれ。アドバイスに素直に耳を傾け、しっかりとビジネスチャンスを見いだせたことが谷口さんの成功のポイントでしょうか。


強く願うこと。そして消費ではなく投資としてお金や時間を使うこと。
今後、新たなビジネスの展開などは考えておられますか。

少子化の時代ですから、ブライダル市場だけに絞るのではなく、いろいろな形で事業を展開しているところです。KATATi SiRUSi labでもデイリージュエリーを扱うようになりました。年齢層が高い方でも受け入れてもらえるよう、華奢なものではなくしっかりとしたデザインのものもラインナップして。投資目的でダイヤモンドを購入される方とかいらっしゃいますけど、そういう層からもようやく信用を獲得でき、事業として成り立ってきた段階ですね。

それから主人がCUBEの同期なんですが、彼が印刷関係の仕事をしていて、そこにある刺繍機を利用したネームチャームの販売も開始しています。こちらも好評で、月に4,000本ぐらい売り上げる人気商品になっています。
甲南の人脈ネットワークというのは本当に心強いですよ。KATATi SiRUSi labをオープンするときも苦楽園という土地柄に詳しい人がいろいろと相談に乗ってくれたり、多くの卒業生がいちばんに来店してくれたりしました。日頃のビジネスでも、新しいお客様を紹介してくれるなど先輩方がすごく気にかけてくださいます。
なるほど。では甲南大学の後輩に対してアドバイスやメッセージはありますか。

とにかく強く願うことです。ただ願うのではなく、強く願う。そうすれば、自然と行動する意欲がわいてくるはず。行動が伴ってこないうちは、まだまだ願いが弱いということです。また、それだけ熱中できることを見つけるためにも、どんどん新しいこと、新しい人に出会って自分の可能性を広げることです。その出会いの中で、「この人の言うことは信じてみよう!」と思える皆さんにとっての「師匠」に巡り合えるならば、こんな幸せなことはないですよ!私も今では「師匠」と心の中で呼んでいる人があと3人います。自分が重要な選択に迫られた時「この師匠ならこうするだろうな」という基準が出来るので挑戦の後押しにもなります。
谷口さんが大学時代にいろいろなアルバイトに挑戦していた理由にもつながりますね。
それと、これは「師匠」に指摘されたことなんですけど、時間やお金の使い方についてです。ただ漠然と旅行したり、買い物したりすることは、たんなる“消費”でしかない。大切なのは、その時間やお金が、将来の自分にとってどんな役に立つのかしっかり考えて“投資”にすること。経営者という立場の人には、それが常識だと言われたんです。これは今の私にとっても、すごくありがたいアドバイスです。

なかなか深いメッセージですね。
今日は有意義なお話をたくさんありがとうございました!

かつて結婚式といえば家と家との格式張った「祝宴」でしたが、現在では主役の新郎新婦が自分らしい個性を演出した「パーティ」へと変化しつつあります。昔ながらの式場ではなくハウスウエディングやレストランウエディングなど新しいスタイルも広がりつつあり、価格にこだわらず「二人だけの想いを形にする」というブライダルリングのコンセプトは、まさにトレンドにフィットしたものでした。取材の最後に将来の夢として「お世話になった方々へ心から恩返しをしたい」と谷口さんは語りましたが、人と人との絆や気持ちを大切にする姿勢が基本にあるからこそ生まれた発想なのかもしれませんね。

株式会社ハー企画 取締役会長
谷口 遥香 さん
2015年に甲南大学マネジメント創造学部を卒業。広告代理店に3年間勤務した後、ブライダルリングの世界で起業することを決意し、ジュエリー卸会社に入社。経験を積んだ後2020年に独立し、ジュエリーのデザイン・卸業をスタート。現在は国内外の33店舗に卸すなど順調にビジネスを拡大し、同年に苦楽園へコンセプトショップKATATi SiRUSi labをオープン。その運営・販売も手掛けつつデイリージュエリーやネームチャームなど新たな分野にも挑戦している。