甲南大学地域連携センター

KONAN INFINITY
23.10.18

えん罪救済プロジェクト:名古屋地裁&愛知県警レポート!

 えん罪救済プロジェクトの名古屋研修合宿では、様々な刑事司法の現場に触れることができました。今回は、メンバーによる、名古屋地裁での傍聴と、愛知県警の見学のレポートを掲載します!

 

          

 

 今回の研修の中で最も印象に残っているのは、名古屋地方裁判所での裁判傍聴です。

 私はこれまで裁判を傍聴したことがなく、今回が初めての参加でした。手荷物検査を終えてその日行われる裁判の一覧表を見ると、ちょうど裁判員裁判が行われていることが分かり、実際に足を運びました。法廷に入り傍聴席の最前列に座ると、裁判官や検察官、弁護人のほかに、裁判官を取り囲むようにずらりと並んで座っている裁判員の方々と、刑務官に監視されながら座る被告人の姿が見えました。

 身体を震わせ、消え入るような声で検察官や弁護人からの問いかけに答える被告人の姿を間近で見たとき、「この人が本当にやったのか」と、凶悪な事件を起こしたとされる被告人が目の前にいるということが信じられませんでした。

 裁判の中で何度も「覚えていません」という言葉を繰り返し、言葉を濁す被告人の姿を見て時々怒りが湧き上がってきましたが、その時、私はあることに気がつきました。それは、まだ犯人だと確定していない被告人に対して、勝手に「この人が犯人だ」と決めつけてしまっている部分が自分の中にあったということです。

 本件では被告人は概ね容疑を認めているとはいえ、無実であるという可能性は否定できません。「もしこの事件が冤罪で、被告人が質問にうまく答えられず、言葉を濁していたのだとしたら」と考えると、何とも言い表せない複雑な感情が込み上げてきました。

 きっと、多くの人が持っているこのような認識が冤罪を生むひとつの原因なのだと思います。一度「犯人だ」とされたイメージを払拭することがいかに難しいかということを身に染みて感じた瞬間でした。

 今回、名古屋研修で様々な施設を見学させていただき、実際に目で見ることの大切さを実感しました。前期に授業で学習し、理解しているつもりでいた知識でも、その場に足を運んで初めて得られたことがたくさんあり、刑事司法について考え直すきっかけになりました。これからも刑事法について学習し、さらに学びを深めていきたいと思います。最後に、このような機会をくださった皆様、本当にありがとうございました。

[法学部1回生・川添千鶴]

 

 IPJ学生ボランティアの名古屋研修の一環として名古屋地方裁判所を訪問し、裁判を傍聴しました。裁判傍聴ははじめての経験でしたが、先輩に手取り足取り解説して頂きながら傍聴しました。

 私が傍聴したのは殺人未遂を問われている刑事事件でした。裁判員裁判の対象となっており、裁判官に加え裁判員の方がおられました。被害者の女性の方に被告人の男性が掴まれその際にナイフを掴んで被害者を刺したのではないかというものです。

 今回の裁判の争点は、うつ病を患っており気が動転してナイフで刺した記憶がないと主張する被告人に責任能力があるのか、殺意があったのか、そして取調べで得られた自白調書の信頼性などでした。

 私が興味深く感じたのは殺意の存否と調書についてです。

 公判では犯行に使ったナイフを持った際のナイフの刃の向きが被告人と被害者のどちらに向いたのかについて裁判官から質問があり、その刃の向きで殺意の存否についての確認をしていました。もしナイフの刃が被害者の方に向いていれば殺意が存在したのではないかと推測することができます。ただ、これは裁判を傍聴している素人である私には想定できなかった殺意の認定方法であり、その質問を聞いた際思わず声が漏れました。

 次に調書についてです。現在長時間に及ぶ取調べは冤罪を生み出す一つの問題点として取り上げられており、長時間の取調べの結果、真実とは違った虚偽の供述を行ってしまう問題が生じています。本件の取調べでも証拠の中の記録で取調べが23時まで行われたり長時間の取調べが行われたりしていたことが判明しました。被告人も取調べの際の供述と裁判で述べた供述に齟齬が生じていたため、目の前で取調べの問題点を見ることになりました。実際に冤罪が発生しているかは裁判傍聴では分かりませんでしたが、このような長時間の取調べが常態化しているのではないかと疑わずにはいられませんでした。

 今回の事件では取調べの録音録画が行われており、実際にそのような趣旨の会話も公判内で行われていました。しかし現在の日本では録音録画がされているだけであり、取調べの最中に止めるものはおらず長時間の取調べが密室で行われた事実が存在したことをみると、取調べによって被告人が疲弊したことによって虚偽の供述をしてしまった可能性も否定できません。長時間の取調べが冤罪を生み出す要因の全てとは言えません。しかし私は冤罪を生み出す一つの要因であると考えています。冤罪の被害をなくすためには取調べへの弁護人の立ち会いの必要性をさらに痛感しました。

 裁判傍聴は今まで勉強してきた手続が目の前にあり、自身の勉強不足を痛感した場でもありました、しかしそれよりも偶然傍聴した裁判でも冤罪の可能性があったため、意外と冤罪は身近な問題なのではないかと感じました。

 名古屋研修は全てが貴重な経験でした。その中でも法曹を目指す私にとって裁判傍聴は考えさせられるものでした。この経験・思いを活かして今後IPJでも社会に出た後でも冤罪被害に苦しむ人々を1人でも多く救いたいと思います。

[法学部1回生・福田晶斗]

 

 名古屋合宿二日目の午後に、名古屋地方裁判所に傍聴に行きました。その日はちょうど裁判員裁判の事件と初公判の事件がありました。どちらも初めて見るものでした。

 まず初めに、裁判員裁判の事件を傍聴しました。裁判官のほかに裁判員がずらりと並ぶ様子は迫力がありました。裁判の内容は殺人未遂事件で、私が見始めたときは、被告人に対して弁護人と検察官がそれぞれ質問している場面(被告人質問)でした。

 どちらも特に口調が変わることなく質問しており、被告人の緊張がこちらにまで伝わってきました。また、検察官は手元のメモに何か書き込みながら、何か構想しながら質問している様子でした。時には何か考え込んでいる様子で、誰も何も話さない時間が続くこともありました。論点はどうやら、被告人が犯行後、なぜ被害者の携帯電話を持ち出したのか、というところでした。弁護人の質問に被告人は「パニック状態になりよく覚えていない」と答えていました。しかし、検察側は被害者の携帯電話が現場に残っていることは、被告人にとって不利に働くと被告人自身が分かったうえで、そのような行為をしたのではないか、という視点での質問をしていました。

 法廷という非常に緊張感がある場で、そのように一人で冷静に思考することが出来るのはそれが仕事とはいえ、すごいと思いました。大学生になってから自分で法律を勉強するようになり、その思考過程の複雑さに触れた分、いったい今検察官は何を考えているのだろうと興味がわきました。今回の事案だと、検察官は携帯電話を持ち出したことについて、いつから持ち出そうと思ったのかなど、細かく質問していました。それはどのような意図があって聞いているのか、それを聞いて最終的に被告人のどんな主張が聞きたいと検察官が思っているのかが気になりました。

 休廷になり、被告人の腕に手錠と縄がつながれるのを見ました。ちょうどこの日の午前中に検察庁で手錠と縄の実物を見る機会があり、実際にそれらが使われている場面を見ることが出来、さらに学びを深めることが出来ました。まだ有罪が確定する前であるから無罪が推定されるのに、傍聴人の前でまるで犯罪者であるかのような印象を抱かせざるを得ないこのようなこの行為は、果たして必要であるのかとも思いました。

 その後、初公判の別の事件を傍聴しました。初めて見る冒頭手続でした。事前に学習した通り起訴状朗読や黙秘権の告知などがありました。その後、被告人の弁護士が被告人に質問する場面があったのですが、先ほどの裁判とは違い、弁護人が被告人を叱責するような場面もありました。淡々と進められるものだと思っていたので、このような場面もあるのかと、とても勉強になりました。

 私が裁判を傍聴したのは中学時代ぶりだったのですが、大学生になって法に関する知識を身につけたおかげで、何かわからず傍聴していた中学生の時とは違い、今一体何をしている場面なのかが分かるようになったことを実感しました。これからもっと多くの事件を傍聴したいと思いました。

[法学部1回生・長尾 眞滉]

 

          

 

 IPJボランティアのメンバーと共に参加した名古屋研修の訪問先の一つ、愛知県警に参観に行かせていただきました。ここでは、警察の業務内容を分かりやすい動画で見たり、実際に業務を行っている施設を見学したりして、警察がどのようなことを行っているかを教えていただきました。

 まず初めに、警察が普段どのような業務を行い、犯罪が起きた際に、どうやって犯人を逮捕するかのプロセスを再現した動画を見ました。動画の中では、警察官が連携し、迅速に犯人の逮捕を行っており、分かりやすい動画となっていました。

 次に愛知県内のすべての110番通報が集まる通信指令室を見学しました。正面には、愛知県内を走っているパトカーの位置を把握できる大きなスクリーンがありました。私たちが見学したときは、ちょうど訓練を行っており、ヘリコプターやパトカーからの映像が、スクリーンに映し出されていました。訓練と言っても、本番さながらの訓練であり、緊張感が伝わってきました。

 この通信指令室には1日平均1000件の通報があり、52秒に一回のペースだそうです。これほどの通報数があるとは思わなかったので、驚きました。また1日の通報の中で、300~400件が緊急性のない通報が含まれており、例えば、運転免許の更新の問い合わせや困りごとの相談があるとおっしゃっていました。これは愛知県だけでなく、他の県などでも同様の問題です。もし緊急性はないけれども、警察に相談したいというときは#9110に連絡すれば、相談に乗ってくれるそうです。この#9110は兵庫県であれば兵庫県警に、大阪であれば大阪府警につながるので、緊急性があるかどうかわからない場合の相談として使う必要があると思います。

 そして次に交通管制センターを見学しました。ここでは、愛知県内の道路状況がわかるスクリーンがあり、渋滞や事故がどこで起きているかが、一目で分かるようになっていました。

 またこの場所で、街中の信号機を操作し、意図的に青信号の時間を長くして、渋滞の発生を防ぐこともできるそうです。そうすることで渋滞の発生を抑えていたことを知りました。

 今回愛知県警に参観させていただき、警察の業務内容を理解し、実際に業務している施設を見学することで、警察がどのようにして街の治安を守っているのかを知ることができました。しかし、警察の業務は重要である一方、冤罪を生むような無理な捜査が行われている事実もあります。その中で、私たちも先入観を持たず広い視野で、警察の捜査に対して考えていかなければいけないと思いました。愛知県警の皆さま、貴重な体験をありがとうございました。

[法学部1回生・坂本蒼依]