甲南大学地域連携センター

KONAN INFINITY
23.10.16

えん罪救済プロジェクト:名古屋拘置所を参観しました!

 名古屋研修の初日は、まずは事前学習の確認をしたうえで、名古屋拘置所に参観に行きました。

 名古屋拘置所は、主として判決確定前の被告人を収容しています。被告人は、犯人であると証明されるまでは無罪の推定を受けますから(無罪推定原則)、拘置所に収容されている被告人は、基本的には無実の一般市民として扱われる必要があります。

 参観では、全国の刑事施設や名古屋拘置所の歴史や現状についての講義の後、所内を参観し、学生からのたくさんの質問にお答えいただきました。

 参加メンバーによるレポートをお読みください!

[法学部教授・笹倉香奈]

           

 

 名古屋拘置所で特に印象深かったことは、未決拘禁者や死刑確定者が日常生活を送る環境を見学したことです。警察や検察官が出てくるドラマで拘置所を目にすることがありましたが、実際にその場所を目にすると、私の想像とかけ離れた自由を制約された環境がありました。

 空しか見ることのできない高い塀や、張り巡らされた鉄格子や有刺鉄線、お手洗いを外から見ることができる部屋…全てに理由があったとしても、自由を奪われるとはこういうことなのだと肌で感じました。

 刑務所は有罪確定者が収容されることもあり、さらに自由が制限された環境だということを考えると、冤罪は絶対に生まれてはならないのだと改めて思いました。

[法学部4回生・大下真奈]

 

 えん罪救済ボランティアの活動の一環として、9月21日から1泊2日の日程で名古屋へ研修旅行に行きました。刑事司法の現場を訪問し、学びを深める目的で行われました。

 名古屋地裁や愛知県警などを参観するなかで一番印象的だったのは名古屋拘置所です。拘置所自体は面会のために行ったことがありましたが、施設の内部を見学し、刑務官の方から直接お話を聞いたのは初めてでした。拘置所の成り立ちから歴史、市の中心部に立地し周辺の景観や環境に配慮した外壁のない高層都市型の刑事施設という名古屋拘置所の特色など様々なことを口頭で学んだ後、実際に施設を見学しました。刑務官同士がすれ違うたびに敬礼をしていたり、扉が多く、通るたびに開錠と施錠を繰り返していたりするなど厳重な仕組みになっていた所が、驚くとともに記憶に残りました。

 拘置所には主に未決拘禁者が収容されていますが、施設での生活は自分がしたいことをしたいときにできなかったり、食事やスケジュールが決まっていたり、トイレについたてしかなく開放的だったりと、常に監視されている状況下だったため、かなりストレスを受けそうな印象を持ちました。未決拘禁者は判決がまだ確定していない被疑者・被告人のことなので無罪推定の原則が及びます。このような人達が上記のような環境で生活しなければならない、ということについては少し疑問が残りました。授業でただ拘置所での生活を聞いて学ぶのと、実際に訪問して自分で体験し質問することで得られるものには差があると感じました。

 また、拘置所に来る前は刑務官の方は体育会系でとても厳しく怖そうな男性ばかりかと想像していました。しかし、実際に主として説明してくださったのは凛としたかっこいい女性で、印象が大きく変わりました。

 お話の中で特に興味を惹かれたのは拘置所と刑務所の違いから発展し話題に上った、医療刑務所についてでした。医療刑務所とは、一般の刑務所では収容できない専門的な医療行為を必要とする受刑者を収容し治療を行う刑務所のことで、主に精神疾患などがある受刑者を収容しています。この医療刑務所について「善悪の判断がつかない人を刑務所に入れる意味はあるのか」という言葉に、考えさせられました。刑法学を学ぶ中で精神障害について、えん罪救済ボランティアの活動の中では知的障害について触れることがあり、関心がありました。そのため精神障害者が刑務所を出た後、再犯をすることなく社会で生活するための環境づくりをする出口支援についてのお話はとても興味深かったです。

 現場のお話を聞き生の情報に触れたことで、さらに刑事司法について学びたいと思うようになりました。貴重な体験が沢山でき、今回の研修に参加できてよかったです。

[法学部3回生・荒木日和]

 

 

 9月21・22日の2日間にかけて名古屋研修を行いました。1日目は名古屋拘置所へ参観、2日目には名古屋地方検察庁と愛知県警を参観させていただきました。

 1日目の名古屋拘置所では所内を見学し、職員の方たちにお話を伺いました。二重扉や窓格子が多く、エレベーター内には収容者と職員との間の仕切りの扉が設置されていました。他にも所内の曲がり角には鏡を設置し、通路を一方通行にすることで収容者同士が顔を合わせないようにするなど、「収容者が問題を起こさないため」の工夫がなされていました。

 私は浪速少年院を参観したこともありますが、少年院と拘置所とを比較し、違いや共通点に気づくことができとても興味深かったです。もちろん、少年院は処分が言い渡された後の少年を、拘置所は未決の被告人を収容しているのですが、例えば少年院は成績が優秀な子や信頼できる子が単独室を使用するのに対して、拘置所では精神的に不安定な収容者が単独室を使用するとの説明がありました。少年院は教育・支援するための場所で、拘置所は判決まで被告人を監視・管理する場所であるという違いも感じました。

 現在IPJが支援している今西事件の今西さんは大阪拘置所に約5年も身体拘束されており、今西さんが今どのような生活を送っているのかも身をもって知ることができました。判決が確定していないにもかかわらず、長期間身体拘束されてしまうことについてはやはり疑問を抱いてしまいます。判決が確定していないのであれば、「無罪推定の原則」に基づいて身体拘束から解放されるべきだと私は思います。冤罪により苦しんでいる方が少しでも減るよう、これからも微力ながら尽力していきたいです。

 自分の見識を深めることができる貴重な経験をさせていただきました。名古屋拘置所の職員の皆様、本当にありがとうございました。

[法学部2回生・岡本望寿]

 

 名古屋拘置所の参観で一番感じたことは、規律や物事に対する線引きが厳格に求められるということです。

 被収容者が集団生活を行う上で規律が重要視されることは容易に想像できます。例えば、入浴時間に定めがなければ水道代が増加し、運営に大きな影響を与えます。単純に例外を認めれば、不満が溢れて収拾がつかなくなる可能性もあります。

 このように被収容者には形のある「規律」が求められる一方で、職員に求められる「線引き」には形がないものであると知り、興味深いと感じました。それは被収容者の方々との接し方です。職員の方は、仲良くなりすぎると情が移り内通者になる可能性や施設内で贔屓する可能性があるため、被収容者との接し方には気をつけていると仰っていました。しかし「人と人」のやりとりであるため、マニュアル化することが難しく、主に先輩からのアドバイスや自身の経験からその術を身につけるそうです。実際に職員の方は「つけ込まれないようにわざと嘘をついたり『知らない』と答えるようにしろと先輩から学んだ」と仰っていました。

 その他には「個性を無くす」ために名札を付けず、制服を着用していることに驚きました。この話を伺うまで、職員の方々に名札がないことに気づきませんでした。そして、単に職業として制服を着用していると思っていたため、制服にそのような意味があったのかと驚きました。人として見られることを無くし、職員というキャラクターとして見られるようにすることでも「線引き」をしているのだと学びました。しかし、やはり顔を覚えられてしまうため、任期は短く2年ほどで異動し、知人が収容された場合には担当を外すような制度になっているそうです。

 このような規律や線引きは、合理的で納得できるものであると感じると同時に、それらをどの程度、被収容者が把握しているのだろうかと疑問に感じました。未決拘禁者については、自身の罪を認めている人もいれば、えん罪だと主張する人もいます。前者であれば、施設内に処遇について疑問を抱かない人もいるかもしれません。しかし、後者の場合は「なぜ生活に縛りをつけさせられるのか」「なぜ職員の人はこんなに冷たいのか」といった不安や孤独感を感じるのではないかと考えます。施設内の処遇について、「所内生活の心得(未決収容者用)」が配布されているようですが、規則や職員の対応の目的や意図まで記されているのか、被収容者がきちんと理解できているのかは疑問があります。施設内の処遇について被収容者がどの程度理解できるかは、被収容者の心理状態を安定させるひとつの要素になるのではないかと感じました。

 ここまでえん罪を主張する人の心理に焦点を当てて述べましたが、そもそも未決拘禁者には無罪推定の原則があります。そのため、誰もが不安や孤独を感じることのないように、誰に対してもわかりやすく、適切な説明を行う必要があると考えます。

 その他には、職員の方が被収容者と接する際のマニュアルがない点について、十分注意すべきではないかと考えます。マニュアル化することが難しく、誰かの経験や教えから成り立っているものだからこそ、収容者に対する負の偏見が入り混じる可能性があります。そのような可能性を排除できるような対策がどのようになされているのか今後学びたいです。

 このような学びのほかに、実際に施設を見学して、通行者が分かるようにミラーが多く設置されていることや、エレベーターが二重扉構造になっていること、自殺防止のために室内の突起物が排除されていることなど通常の建物の構造とは異なる点を沢山知ることができました。

 初めての拘置所見学で、施設の造りを知るだけでなく職員の方々から名古屋拘置所以外の経験を多く聞かせていただき、非常に貴重な体験をすることができました。この度はありがとうございました。

[法学部4回生・駒井陽南]