甲南大学地域連携センター

KONAN INFINITY
23.7.25

あなたの第三の居場所になる――東灘こどもカフェ

――団体設立のきっかけ及び活動の目的を教えてください。

 20年間単身赴任をして、定年を機に地元に帰ってくると全く知らない人ばかりで、自分の居場所がありませんでした。そこで、地元の友人とともに誰もが気軽に過ごせる居場所を作ろうと、2011(平成23)年に団体を立ち上げました。食育活動を通じて、「食は大事だ、命だ」ということを子どもたちに知ってもらいたいと考えて、六畳一間を借りて、料理教室を始めたのがきっかけです。

 「食」には、生産し、それを料理して、食べて、廃棄して、そして余ったものをどうするかといった一連の過程があります。こうした過程のどの部分でもよいので、「食べ物とはどういうものだ」、「野菜は食べたほうが良い」あるいは「三食きちんと食べたほうが良い」など、食に関する自分の「物差し」を子どもなりにもつことが大切だと考えています。「俺は料理を作るんだ」と小さい頃から料理を作る人もいますし、「出されたものは、残さず全部食べよう」ということでも良い。こうした「物差し」を子どもが見つけることができるよう手助けしています。

            

                 代表の中村保佑さん

              (2023年6月16日、安部栞菜 撮影)

 

――子どもたちが活動する環境づくりで大事にされていることはありますか。

 子どもが来やすい雰囲気を作ることです。たとえば、部屋をきれいに整理整頓しすぎると、子どもは入りにくいかもしれません。そのため、意識的にきれいにしすぎないようにしています。また、ここに来たら1日1個カードにスタンプを押してもらえます。家のお手伝いとか、この部屋を掃除するといった小さなボランティアでもスタンプ1個とお菓子がもらえる。そして、10回来ると絵本がもらえたり、スタンプを10個集めると「『よいこ』でしょう!」という表彰状がもらえます。あるいは、机の上に50音順のカードがありますが、カードの数だけ子どもが来ています。おそらく、900から1000枚程度あります。こうしたスタンプやカードの効果は大きく、500回程も来ている子や、3日に1回と頻繁に来る子もいます。生まれて初めて表彰状をもらったと喜ぶ子もいます。

 実は、「東灘こどもカフェ」は団体名に「こども」と付いていますが、当初は、子どもが全く来なくて、来るのは、おじいさん、おばあさんばかりでした。そこで、子どもの保護者や子育ての関係者に集まってもらって話し合ったところ、子どもは「スタンプが好きだ」、「お菓子が好きだ」と教えてもらいました。これらを参考に、現在のような仕掛けを作り出していきました。

      

        子どもたちが料理をする様子  (写真:「東灘こどもカフェ」提供)

 

――団体での活動にボランティアを受け入れている理由を教えてください。また、ボランティアに期待していることがあれば、教えてください。

 ボランティアを受け入れるということは、「誰でも活動にかかわってもらっていいですよ」ということです。たとえば、学生をボランティアに受け入れるということは、学生の皆さんに手伝ってもらうということもありますが、「子どもとこういう風に遊びたい」、「子どもと〇〇に取り組みたい」と学生自身が何かを企画、運営する経験を通じて学びにつなげられるということでもあります。だから、色々なゼミの学生がここで講座をしたり、企画をしたりしています。

 いま資本主義が行き詰まっていると、私は考えています。現在の資本主義は、人が必要としないものを作って、それを人にどう売りつけるか、ということばかり考えているように見えます。それに対して、ボランティアというスタイルは、様々な人と協力し合って、社会的な課題を解決するというものです。こうした考え方をさらに広げたものに、無償だけでなく、有償でお金をもらうということも含めた「共同労働」という考え方があります。これは、みんなが資本を出し、労働して、一緒に経営にも取り組みます。そして、たくさん出資した人に発言権があるのではなく、参加した人が平等に発言権をもつという運営方法です。こうした活動が、いつの日か世の中の仕組みの基本になることを願っています。だからボランティアという考え方をもう少し広くとらえて、この言葉が社会の新しい仕組みを作っていく、というくらいの発想で考えることが大切だと思っています。

      

         多世代交流が活動の魅力  (写真:「東灘こどもカフェ」提供)

 

――地域との連携や交流をとても大切にされていると感じました。

 こういう活動には、「先」がありません。明日潰れてもおかしくありません。それは運営する資金が常に不足しているからです。毎月8万円くらいの家賃を3か所支払う必要がある。これらを維持するのは、なかなか大変です。そこで、活動を継続するために一番大事なことは、地域の団体と連携することです。他の団体と連携すれば、有益な情報が入るようになります。他の団体が紹介してくれれば、自分たちがPRするよりも効果的ですし、何より団体の信頼保証につながります。地域の団体といっても、行政や企業、福祉センターや自治会など色々あります。こうした団体と信頼関係を築きながら、活動を続けることを大切にしています。

 

―甲南大生や若者へのメッセージをお願いします。

 これからは、僕らの時代以上に、皆さんはハンディーキャップを背負っていく時代です。国には借金がたくさんありますし、あまり財産もありません。世の中は荒廃していますし、環境も悪くなっています。子どももだんだん生まれなくなっていきます。後に生まれるほどしんどい状況であるのは日本だけでなく、世界的にみられる現象です。引き継げる良い遺産がほとんどありませんから、その意味で、今の若者は気の毒です。ぜひ、色々な経験を積んで、会社、学校や家族といった組織や集団に惑わされずに生きていってください。学校や職場、家庭があまり機能しなくなり、多くの人の行き場がなくなったためか、私たちが運営するような「第三の居場所」があちらこちらにできています。自分の居場所をもつことは大切です。自分の足がかりになる場所を、ぜひ見つけてください。

              

             インタビューの様子  (2023年6月16日、安部栞菜 撮影)

 

<団体プロフィール>

食文化をテーマに、子どもを中心に多世代の交流や助け合い、親睦を図ることを通じて、それぞれの夢の実現や「出番のある人生」を応援している。2011年4月1日に発足し、現在の会員数は延べ980人。甲南大学から南に徒歩約20分の位置にある城野ビル1階にて年中無休で活動し、「英語パーク」、「おかず寺小屋」、「ギター教室」など年間約300の講座を開いている。また、多世代の交流の場である「こもれど」、生活の困りごとを支える「東灘なんでもお手伝いセンター」、高齢者や子どもへの昼食配食活動を行う「あたふたクッキング」を運営。2018年には、「ひょうご県民ボランタリー活動賞」及び「子供と家族・若者応援団表彰」を受賞した。

 

                      話・中村 保佑 氏(東灘こどもカフェ 代表)

                     文・甲南大学 法学部 1年次生 御手洗 由璃菜

                                                                           (2023年6月取材)