甲南大学地域連携センター

KONAN INFINITY
23.7.26

デザインの力で社会をよりよくする人の育成を——特定非営利活動法人 Deep People

——設立の経緯を教えてください。

 デザイナーである理事長の牧文彦が大阪芸術大学で学生を指導する過程で、自分で環境問題を見つけ、それを解決する商品を製造、販売をし、その商品自体や利益で環境問題や社会課題を解決しようというプロジェクトを立ち上げました。商品の形や大きさを考えたり、商品自体が環境負荷にならないよう考える必要があります。例えば、代表的な商品である「OKURIN(オクリン)」は、素材はすべて綿でできているとか、チャックはプラスチックではなく土に戻るような素材になっているとか、作り手は障がい福祉事業所で働く方々とするなど、すべてがデザインされています。そして、こういう考え方や活動を学校内だけでなく、社会に広めようということでNPO法人を立ち上げました。最初は学生たちの環境課題を考える商品を一緒に作るところから始めましたが、こうした商品開発の考え方や手法が企業にも求められるようになり、今では企業とも一緒に商品開発や事業開発をしています。

 

——貴会で制作された「食べ残しNOゲーム」について教えてください。

 これは、食品ロスについて学んだり、食べ残さないように意識づけできるゲームです。私たちが運営しているフリースクール(未来価値創造大学校)に通っていた当時小学6年生の児童が考案しました。フリースクールでは、子どもたちが自分で社会問題を発見して解決する方法を提案する授業をしています。

 私たちの学校では、教科書の学習はしません。答えのない課題に子どもたちは取り組みます。学校だとテストの点数が悪かったら、子どもたちは「自分はダメだ」と思ってしまうかもしれません。また、社会では面白い発想や行動力が評価されることもあるのに、学校では評価されないこともあります。私たちの学校では、何にでも疑問を持ち、調べ、仮説を立て、検証し、挑戦し、失敗し、改善してまた挑戦する、ということを繰り返すことを評価しています。「食べ残しNOゲーム」もこの過程を経て、2年間かけて完成したゲームです。

            

                食べ残しNOゲーム体験会の様子

                   (森川遥菜撮影,2023年5月28日)

 

——ボランティア活動の魅力は何でしょうか。

 私たちがボランティアを募集している活動内容は、すべて社会課題解決につながるプロジェクトです。ですから、参加することで新たな社会課題を発見したり、課題をより理解できたり、課題解決に真剣に取り組む様々な人々と一緒に活動できるので、「こんな活動をしている大人もいるのか」とか、逆に「小学生がこんなことをしているのか」といった発見だったり気づきは多いと思います。私たちDeep Peopleのボランティア活動では経験できる内容は多岐にわたります。なかには、お金を払ってもできないような経験もあります。例えば、普段見ることができない裏側を見ることができたり、本来は限られた人しか担当できないことを経験できることもあります。逆に、専門性が必要なことをいきなり頼むことは、ほぼありません。しかし、一回きりではなく、長く一緒に活動できる場合は、ある程度、ボランティアの皆さんに任せることができます。未経験の方でもステップアップが可能です。

       

        食べ残しNOゲームを活用した出張講座の様子(写真提供:Deep People)

 

——これまで活動をしてきてよかったことはありますか。

 人それぞれだと思いますが、私は誰かが達成感を感じている様子を見ることがうれしいです。例えば、子どもたちが表彰されるときにとても喜んでいたり、感極まって泣いていたりする場面を見ると、私たちがやってきたことは良かったことなのだなと感じます。それはボランティアに参加する人たちも感じることができると思います。長い間ボランティア活動を共にして一緒に頑張ってきた仲間となると、取り組みが終わったときはやはり同じように達成感を感じられると思います。だから、単発のボランティアだとそういうことは味わえないと思います。

 

——ボランティアに必要なことは何だと思いますか。

 私たちは「想い」が一番です。社会課題を解決したいという想いです。それは漠然としたものでも、特定のものでも構いません。「これを何とかしたい」という想いが強い人ほど、私たちと一緒に活動しやすいと思います。逆に、ボランティアの皆さんにやる気がないと、活動先に迷惑をかけることになりかねません。「何とかして伝えたい」、「上手に伝わらないけれど必死に頑張っている」という人であれば、私たちもフォローできます。だから、「想い」と「やる気」が大切です。

 

——若者にメッセージをお願いします。

 怖がらずに踏み出すこと。発言すること。ボランティアは、最初の小さなステップだと思っています。インターンシップだとかしこまってしまう人もいるかもしれませんが、それに比べてボランティアは、より柔らかい雰囲気のなかで活動できると思います。自分の力がどこで発揮できるのかは、誰にもわかりません。躊躇しているなんて、もったいないです。もし少しでも関心があるなら、思い切って挑戦されることをお勧めします。

 

〈団体プロフィール〉

「デザイン」をキーワードに、社会に貢献する人の育成を目指して、2007(平成19)年3月22日に特定非営利活動法人を設立。社会課題解決のための様々な商品開発やプロジェクトに取り組んでいる。繰り返し何度も使える新感覚の包装グッズ「オクリン」は、2007年度グッドデザイン賞[商品デザイン部門]受賞商品。小学生とともに商品開発した「食べ残しNOゲーム」は、2018年キッズデザイン協議会会長賞受賞。消費者庁白書にも掲載される。SDGsを学ぶ絵本!親子でジェンダーバイアスを考える絵本「すいかのスイスイどこへいく」は、関西SDGsユース・アイデアコンテストでグランプリ、およびアーバンリサーチ賞を受賞し、出版に至った。大阪万博・関西万博の「TEAM EXPO2025」 プログラム/共創パートナーにも登録している。

                   話・中尾 榛奈 氏(特定非営利法人 Deep People)

                      文・甲南大学 法学部 1年次生 小倉 涼葉

                                 (2023年6月 取材)