甲南大学地域連携センター

KONAN INFINITY
23.1.18

メディアを通じて、人とつながる——ひがしなだコミュニティメディア

      

       2022年初!多地点ライブ配信でおくる MEDIA ROCCO定期配信番組

 

<団体プロフィール>———————————————————————————————–

1995(平成7)年1月の阪神・淡路大震災をきっかけに、地域メディアの重要性を認識した大学関係者や地域住民、商店街などの有志によって2010(平成22)年より活動を開始し、同年8月に特定非営利活動法人の認証を受けた。

翌年には動画ライブ配信を開始し、2012(平成24)年10 月にインターネット配信部門として「MEDIA ROCCO(メディアろっこう)」を開局した。以降、毎週土曜日11時から12時までの1時間の定期配信にて、地域の防災、自然の魅力、食文化、子育て、医療・福祉、芸術、歴史など、メディアを通じてつながる地域づくりに取り組む。これまでの中継の経験を生かして、コロナ禍に「多地点ライブ配信」を本格稼働し、場所を問わず、様々な人が今まで以上に自由に参画できる環境をつくっている。

*MEDIA ROCCO開局当初のUstreamライブ配信から、2018年YouTubeライブ配信へ移行。現在は、ライブ配信と、vimeoによるアーカイブ配信を中心に番組配信。

—————————————————————————————————————————-

 

——団体設立のきっかけをお聞かせください。

森田:1995(平成7)年の阪神・淡路大震災の直後、東灘住民の方が動画で被災したまちを

   記録されていたことにヒントを得て、1年後、甲南大学の教え子の大学院生とともに

   同じコースを歩き、動画で記録しました。その当時、大きな被害を受けた神戸市長田

   区を拠点に活動していた多文化・多言語コミュニティ放送局「FMわいわい」を取材

   する機会があって、「非常に重要な役割を果たしているな」と感じました。その頃、

   西宮の若者から、東灘にFM放送局を作りたいとの相談が甲南大学に寄せられました。

   彼の熱意に動かされて、NPO法人でコミュニティ放送局を運営している事例やFM放送

   局の設立条件などについて、大学から旅費の補助もいただき、全国規模で調査を始め

   ることにしました。

   さまざまな運営方法を調べる中、地元の商店街の方からFM放送局よりもUstreamのラ

   イブ配信の方が運営しやすいという提案を受けました。さらに、技術面でのサポート

   も得られ、2010(平成22)年5月に設立総会を開催することができました。

 

——「MEDIA ROCCO(メディアろっこう)」のトピックスのひとつに、「生物季節観測」(*)の取り組みがあります。これは、どのような思いで取り組まれたのですか。

森田:メンバーで生物学者でもある道之前(みちのまえ)さんの存在が大きいです。気象庁

   は、生物季節観測を大幅に縮小、動物については廃止すると2020(令和2)年11月に発

   表しました。たとえ、観測結果から気温との関係性などが読み取れなくなってきたと

   しても、動植物を調べることにより、変化を記録に残すことができます。

道之前:アブラゼミもウグイスも、東灘では十分に観察できます。気象庁が辞めるのなら、

    わたしたち市民で、何かできるのではないかと考えたんです。

辻野:ある日、道之前さんが、地域の植物の写真を持ってこられました。ちょうど、コロ

   ナ禍で外出が難しく、季節の移ろいを感じにくくなっていた頃でした。そこで、視

   聴者に季節を感じていただけるように、こうした映像を番組で放送することにしま

   した。住吉川にアユがのぼってくるというような、季節の便りです。そんな時に、

   気象庁のニュースが知らされました。そこで、ボランティアの協力者を呼びかけて、

   ぜひ番組で取り上げようということになったんです。

森田:私たちの配信を見るだけでなく、自分でも観察しようかと思う人が出てきたら、

   もっといいなと。

辻野:「人込みには行けないけれど、花を見に行くことならできる」と、住民の皆さんから

   投稿が寄せられるようになりました。

 

        

          コロナ下にスタートしたMEDIA ROCCO番組企画例

*生物季節観測とは、生物の現象から季節の変化をみるために、1953(昭和28)年から気象庁が全国の気象台や観測所で取り組んできた調査のこと。「ウグイスの初鳴き」「トカゲの初見」などを記録して、桜や梅などの植物の観測や気象観測などに役立ててきた。観測結果から季節の変化を読むのが難しくなったことを理由に、気象庁は2020(令和2)年末に大幅に縮小、動物については全廃を発表した。その後、様々な団体や学会等から継続を求める声が寄せられ、2021(令和3)年3月に気象庁および国立環境研究所が事務局となり、全国の市民も参加するかたちで調査を継続する努力をする旨を発表した。

 

——ボランティア募集に力を入れておられます。学生や地域住民が活動に参加することを、どのように捉えていますか。

森田:学生が社会に出て、いつか地域に戻ってきてくれればいいなと思っています。若い人

   には、どんどん道を譲っていきたいです。また、近くに住んでいる人に情報を発信で

   きるようになれば、きめ細かなネットワークで人の命を救える可能性が高まるかも

   しれません。「誰もが」参加できることが大切です。

辻野:「メディアはプロのもの」というだけでなく、一般の人も使えるものだと知ってほし

   いです。自分たちが必要な情報を、自分たちで集めて発信することが大切です。学生

   など若者だけでなく、地域の様々な人に活動に参加してもらうことが大切だと考えて

   います。

林:私は学生の時に活動に参加して、社会人になった今でも活動を続けています。メディア

  は「つながりの場」ですね。学生や地域の人とつながれていることを、身をもって実感

  しています。

 

——コロナ禍を経て、「誰でも参加できる多地点ライブ配信」を進めておられます。どのような可能性や課題がありますか。

辻野:スタジオで人が集まるのはリスクが高いため、2020(令和2)年3月から多地点のライ

   ブ配信に移行しました。それにより、移動が不要になったことで、海外のゲストなど

   これまで参加できなかった人が参加できるようになりました。また、番組のバリエー

   ションも豊かになりました。視聴者に季節観測の写真を送っていただくことも、参加

   の一つです。また、地域のNPOは「話したい、会いたい、交流したい」等のニーズを

   もっていましたので、実際の会場とオンラインをつなぐミーティングなどの技術サポ

   ートを私たちが提供することになりました。サポートを通じて、さらに私たちを知っ

   ていただく機会にもなりました。

    一方で、番組が終了したあとに雑談をしたり、何気ない会話をする機会は減りまし

   た。何もしなくてもそこに居ることができるという空間は作りにくくなっています。

鎌原:これまでは、デジタルに慣れていない人でも、スタジオに来れば配信できました。で

   も、オンラインになったことで、かえって配信が難しくなった人もいますね。それで

   も、地点で配信するというツールができて、より参加しやすい環境になったと思いま

   す。

辻野:私たちメディアの活動は取材という行為を通して、色々な人に出会えることが大きな

   魅力です。学生や地域住民など様々な人に活動に参加いただいて、自分の夢を実現し

   たり、人と人がつながる場を一緒に作ってもらえると嬉しいです。

 

話・森田 三郎氏(代表理事)、道之前允直氏、   

鎌原 淳三氏、林 裕大氏、辻野 理花氏(事務局)

文・甲南大学 全学教育推進機構 全学共通教育センター 教員 岡村こず恵

(2022年5月取材)

     

インタビューの様子

上段左から,岡村 こず恵(筆者),林 裕大氏,加堂 生織氏(インタビュー参加学生)

中段左から,鎌原 淳三氏,森田 三郎氏(代表理事),道之前 允直氏

下段,辻野 理花氏(事務局)