甲南大学地域連携センター

KONAN INFINITY
23.7.27

子ども、スタッフともに学び・成長が絶えない ―—特定非営利活動法人S-pace(スペース)

―――S-pace(スペース)誕生のきっかけを教えてください。

 学童を作ったのは当時親御さんから、「公立の学童は夕方5時に終わります。私たちの仕事が仮に5時に終わっても、お迎えが間に合いません。民間の学童を作ってほしいです」とお願いされたのがきっかけでした。しかし当時は民間の学童を立ち上げても、運営していくには、様々なハードルがありました。まず、神戸市の職員の方に法人格の取得を勧められました。当時はNPO法人に対する認知が低かったため不安はありましたが、神戸市役所の職員の方に「このようにしたらできるのではないか」とサポートをいただき、ポジティブなマインドに後押しされました。この職員の方には、本当に感謝しています。

 S-paceという名は「一人ひとりの居場所を大切にする」というコンセプトのもと生まれました。法人を作るときに仲間から「自分のペース『self-pace』と、居場所『space』を掛け合わせて『S-pace』がいいのではないか」と提案を受け、S-paceが誕生しました。

           

             理事長の越智 正篤 氏

            (2023年6月4日、本家利基 撮影)

 

―――野外活動について興味を持ちました。もう少し詳しく教えてください。

 野外活動は月一回、日曜日に催行しています。活動時間は基本的に9時から16時で、山歩きや飯盒炊爨(はんごうすいさん)など様々な活動に取り組みます。目的地に向かう道中は、リーダーとともに個々のペースで歩きます。到着すると、子どもたちに自由に遊んでもらいます。そのうち、子どもたちができることと、できないことが生じます。リーダーは単に子どもができるように支えるのではなく、子ども自身が自分の今の実力を知ることが重要だと考えています。崖登りの例を挙げると、通常、保護者や他団体は、補助をして子どもを登らせることを考えるか、怪我防止を考え、禁止にする傾向があります。しかしS-paceでは、自分で挑戦したければさせますが、お尻をもって子どもを押し上げたりはしません。足場を作るようなサポートはしますが、もし、子どもを全面的に支える必要があるときは、そのサポートを無くします。それにより、子ども自身が自分でどうしたらよいかを考えるように援助します。

 さらに飯盒炊爨では、特に子どもたちの成長が感じられます。S-paceでは火のつけ方を一切教えず、飯盒を炊くチームも子どもたちで決めてもらいます。一年生は何もわからず、一年生同士でグループを組んでしまいます。当然ご飯は炊けず、他のグループが炊けているのを見て、慌てるタイプ・平気なタイプ・情報収集に行くタイプなど様々な性格が見ることができます。最終的には経験組に助けてもらいご飯を食べることができるのですが、面白いことに、この一年生同士でグループを組んでいた子ども達が、数か月後の次の飯盒のグループを組む時は、経験者と組む傾向があります。学んでいるのです。他にも、S-paceでは準備物は必要最低限のものしか書かず、「自分が必要だと思うモノ」という欄を設けます。この前に上手く炊けなかったから家で調べてくる人、鉛筆の削り粕や割り箸、ゴーグルまで持ってくる人がいます。他団体では必要なものをすべて持参物に書き、これ以上持ってこないようにというケースが多い中、S-paceでは毎回違う学びが得られます。教わるのではなく、学んでいくことが必要な力です。

        

               飯盒炊爨を体験する子どもたち

               (写真:「NPO法人 S-pace」提供)

 

―――学生や地域の人々がボランティアへ参加することを、どのように考えていますか。

 S-paceでは、子ども達への野外活動を行っています。そのスタッフとしてボランティアの方に来ていただいています。謝礼は払っていませんが、それ以上の体験ができると自負しています。また、S-paceでは初回はリーダー研修をあえて行わず、「とりあえず体験してみて」と言います。命にかかわることは慎重になるように伝えますが、それ以外は自由にしてもらいます。時にS-pace側とボランティア参加者側でずれがあることがありますが、その際は話し合います。S-pace側からアドバイスすることもあれば、ボランティアスタッフの関わり方が良い場合もあり、新たな発見を生むことがあります。

        

               学童での子どもたちの様子

             (写真:「NPO法人 S-pace」提供)

 

―――今、最も力を入れていることは何ですか。

 スタッフも含めて、多くの人の居場所になれればと思っています。S-paceには様々な事情を抱えている方もいます。私のS-paceのイメージは、「田舎の古びた駅」です。各駅に停車する普通列車しか止まりません。面白そうだとここの駅で降りる人もいれば、通過していく人もいます。ここでの関わり方、雰囲気や人情などに触れて、しばらく居る人もいれば、次の電車で次の駅へ行く人もいます。私としてはS-paceにずっと居てほしいとは思っていません。旅立ち、ふと振り返ったときに「あぁ、あそこ良かったな、懐かしいな」と思ってもらえるような駅になればいいなと思っています。ただし、駅員(スタッフ)は長くいてほしいですけどね。

 

―――今後の目標を教えてください。

 法人としては、今働いている人たちが生活を続けていけるように考える必要があります。そこで、昔からある大事なものも残さなければならない反面、今の時代に合った意識改革が必要です。また、10年、20年、30年先の世の中を支えるのは今の子どもたちであり、その子どもにどのようにかかわって仕事していくかが常に問われています。子どもたちが大きくなり親になったときに、ここで学んだことを自分の子育てにも生かしてもらえるといいなと思っています。

        

                  越智氏にお話を伺う

             (2023年6月4日、本家利基 撮影)

 

<団体プロフィール>

S-paceは、兵庫県の神戸市や芦屋市を拠点に、学童や野外活動、ユースステーション、児童館、小規模保育園、おやこふらっとひろばの運営を通じて、児童の健全育成に取り組むとともに、子どもをもつ保護者も支援している。2003(平成15)年8月に特定非営利活動法人の認証を受けた。2023(令和5)年6月現在で、951名の子どもたちが学童に登録している。職員は、常勤53名、非常勤116名のスタッフがS-paceで働いている。

 

         話・越智 正篤氏〔NPO法人S-pace(スペース)理事長〕

         文・甲南大学 マネジメント創造学部 3年次生 原田大夢

                           (2023年6月取材)