甲南大学地域連携センター

KONAN INFINITY
23.7.27

豊かな草原から広がる魅力と人とのつながり―—東お多福山草原保全・再生研究会

          

               お多福山草原保全活動のみなさん

             (写真:「東お多福草原保全・再生研究会」提供)

 

———この活動の目的を教えて下さい。

橋本:生物多様性を保全し、多くの人に知ってもらうための環境学習として実施していま

   す。なかでも、子どもたちが自然と触れ合えたり、レクリエーションを楽しめたり

   するような草原を再生することを目標にしています。今ではススキの面積が増えて

   草原が回復しており、いずれは文化財の茅葺き屋根にも使って欲しいと考えていま

   す。過去には、芦屋市の会下山(えげやま)遺跡にある高床式倉庫の屋根の葺き替え

   に東お多福山の茅(かや)が使われています。

 

———ボランティアとして、大学生を受け入れている理由は何ですか。

橋本:高齢化が進んでおり、若い人たちに活動を引き継ぐ必要があることと、大学生など若

   い人たちの力を借りたいということがあります。また、環境学習の存在を、若い世代

   の人に知ってもらいたいとも考えています。

   ただ、大学生は卒業をすると、まちから離れてしまいます。そのため、直ちに研究会

   の活動を支えて欲しいと考えているわけではありません。これから先、10年後、20年

   後、30年後にまた神戸に戻って来た時に、学生の時に関わっていたことで、「今どう

   なっているのかなぁ。活動しているんだ! じゃあ、私も活動してみようかな」と少

   しでも思ってもらえることを願っています。

          

                 ネザサの刈り取り作業の様子

             (写真:「東お多福山草原保全・再生研究会」提供)

 

———活動の魅力を聞かせてください。

北岡:甲南大学は、東お多福山(ひがしおたくふやま)が裏山ですので、とても恵まれた環

   境にあります。思いついたら少し歩くだけで山に登ることができる。これは、大都市

   では珍しいことです。毎日登山をしている人もいます。気軽に行けるところもあるの

   で、ぜひ一度行ってみて欲しいです。私はもともと山を登っていたわけではなく、歳

   をとってから活動を知って、とても恵まれている環境に気づきました。

橋本:やはり現地に行ってみないと分からないですね。四季の変化だったりとか、鳥の鳴き

   声だったり、土を踏んだ時の感触だとか、風の様子や、匂いや、高い眺望からの眺め

   だとか、感じることは沢山あります。お多福山は、眺望も良くて、山頂から見たら、

   六甲アイランドやポートアイランド、神戸空港、天気が良い時には紀淡海峡、関西国

   際空港、大阪ドーム、他にも沢山見ることができます。

               

                     橋本 佳延 氏

               (御手洗由璃菜撮影,2023年6月4日)

 

———この活動を続けられる原動力やモチベーションは何ですか。

橋本:私は、1995(平成7)年の震災が起こった年の4月に神戸に来たのですが、その頃は自然

   にあまり関心がありませんでした。その後、大学で植物の勉強をするようになり、実

   習の場所が東お多福山でした。その時に、ここは良い場所だなと感じ、いつまでもこ

   の場所が残って欲しいなと思うようになりました。そんなとき、2007(平成18)年にメ

   ンバーから声をかけてもらい、活動に参加することにしました。六甲の自然が好きで

   すし、東お多福山のススキ草原は特徴もあり、思い出もあります。もちろん自然とし

   ても素晴らしいですし、さまざまな可能性を見出せます。また、豊かな自然が豊かな

   まま残っていくことが、六甲山の周辺に住んでいる人たちにとっても貴重な財産にな

   ります。さらに、この活動は決して一人ではできないので、仲間と一緒に活動できる

   ことも、自分のモチベーションにつながっています。それと同時に、自分の年齢層を

   考えると、次のバトンは自分が持たなければならないなという責任感も徐々に湧いて

   きました。団体のメンバーは100人程度ですが、私の世代は、実は私一人だけです。

   複数で役割分担してきたバトンを、一人で受け継ぐことは難しいです。そのため、若

   い世代の人たちの担い手を育てることが大きな課題です。

 

———「未来に残したい草原の里100選」に東お多福山が選定され、ますます社会での貴会の活動の重要性が高まっています。この活動を継続していく上で、大切にしていることは何ですか。

北岡:こういう素晴らしいところがあるということを、知ってもらいたいです。環境行政で

   は、東お多福山の重要性が謳われているのですが、環境のことに関心がある人はまだ

   まだ少ないです。その重要性を広く伝えるためにも、100選に応募しました。この活動

   が広く知られるようになって、「自分も参加してみようかな」と思ってくれる人が増
   えると、次に繋がるのではないかと思います。

武田:この活動は継続することに意味があります。そのためには若い人の力が必要で、もっ

   とこの活動に積極的に参加してほしいです。どんどん世代が変わっていった方が、会

   の活動としても活発化します。

              

                  北岡 裕 氏(代表)                    武田 義明 氏

                  (御手洗由璃菜撮影,2023年6月4日)

 

———活動にやりがいを感じるのは、どんな時ですか。

北岡:ネザサの刈り取りが減ると、またすぐに茂ってしまいます。しかし、地道に続ける

   と、ゴルフ場のような綺麗な草原が広がります。草原が元に戻っていく姿を見ると

   、やって良かったなと思います。

橋本:最初は、一回の活動で、20人くらいしか集まらなかったのですが、現在は30人くらい

   参加されるようになりました。だんだんとこの活動が広がっていることは嬉しいで

   す。また、シンポジウムなどの催し物が成功すると達成感や充実感がありますし、ス

   スキが復活してきたら、キキョウや、ササユリなど、今まで見られなかった花が見ら

   れるようになり、活動の効果が実感できます。

 

———この活動に参加した人々は、どのようなことが得られますか。

橋本:この会に参加することによって、友達ができたり、仲間ができたり、健康づくりにも

   なります。東お多福山での自然体験の楽しさや、刈り取る前と後の変化は、ここに来

   た人にしか分からないですし、ネザサが生い茂っている状態から、綺麗になり、そこ

   から様々なものが芽生えてきて、花が咲くことを楽しみにしている人もいます。得ら

   れることは、人それぞれです。

武田:活動に参加することで、意識が変わると思います。身近なところから地道に始めて、

   そこから範囲を広げていくことが大切だと思います。

 

———この活動の魅力や、この活動を通して、社会に伝えたいことや知って欲しいことはありますか。

橋本:たとえば、朝食に並ぶものは生き物であり、私たちはそれを食べています。大学のキ

   ャンパスの中にもたくさんの植物が植えられていて、それがあるから心地よい気持ち

   になれて勉強も集中でき、学校にも行きたいという気持ちになれるでしょう。日常生

   活のなかでは忘れがちなのですが、私たちは自然環境に支えられて生活しています。

   あらためて、多くの人がこうしたことに気がつけることは、大切なことだと思います。

 

———今後の貴会の活動の目標を教えて下さい。

武田:豊かな自然は放っておいて守れるわけではなく、人間が継続して世話をする必要があ

   ります。だから最も大切なことは、活動を継続させることですね。もっと多くの若い

   世代の人に参加してもらうことが今後の目標です。活動の参加者の和を広げていきた

   いです。

橋本:継続するためには人が必要で、引退する人がいれば、また新しい人が入ってくるとい

   う仕組みづくりが重要です。草原は社会にとって必要なのだということを、多くの人

   に知ってもらいたいです。

         この記事をここまで読んでくれた人に感謝します。これで東お多福山を知っていただ

   いたと思うので、一度活動に参加してみてください。継続的に参加してもらえるよう

   になれば、嬉しいです。まずは、気軽に山に足を運んでください。

       

              インタビューにご協力いただいた皆さん

                (御手洗由璃菜撮影,2023年6月4日)

 

<団体プロフィール>

 兵庫県神戸市や芦屋市にまたがる東お多福山(ひがしおたくふやま)の広大な草原の保全や再生のために、植生調査やネザサの刈り取り活動などに、2007(平成19)より取り組んでいる。2010(平成22)年に効果が見え始め、2011(平成23)年に、生物多様性を守り、植物豊かなススキ草原の再生を目指して「東お多福山草原保全・再生研究会」を結成した。現在は、山や自然を愛する八つの団体で構成されている。

 

      話・武田 義明 氏 (代表)、橋本 佳延 氏(事務局)、北岡 裕 氏(甲南大学担当)

                    文・甲南大学 経営学部 1年次生 安部 栞菜

                                 (2023年6月取材)