核酸分子の制御を研究し、健康に役立つ技術を開発する。先端生命工学研究所 髙橋 俊太郎 (生命物理化学)

生命物理化学の専門家で、核酸分子の研究/健康に役立つ技術の開発を行う髙橋俊太郎准教授にお話しを伺いました。

About Me ( TAKAHASHI Shuntaro )

私の専門分野は生命物理化学です。生命と名前がついてあるとおり、生命現象を明らかにする研究を、物理と化学の知識や技術を使って行っています。私が所属する甲南大学先端生命工学研究所(Frontier Institute for Biomolecular Engineering Research: 通称FIBER)では、生命の遺伝子情報を担うDNAやRNAと呼ばれる核酸分子を主な研究対象としております。新型コロナウイルスワクチンで用いられたmRNAワクチンに代表されるように、核酸分子は現在最も注目されている研究対象の一つです。私はFIBERの一員として、核酸分子が細胞内でどのように振る舞うかを理解し、制御することで、人類の健康に役立つ技術の開発を目指しています。

Research

Is Double Helix Commonsense?

遺伝子である核酸分子の最も重要な性質は、ノーベル賞受賞者であるワトソンとクリックが1953年に発表した二重らせん構造です。一方で、私たちは核酸分子の構造を物理や化学の視点から解析することで、核酸分子はその置かれる環境によって“非”ワトソン・クリック型の構造を形成することを見出してきました。それにより二重らせん以外にも、三重らせんや四重らせんといった構造を形成できることが分かってきました。私たちの細胞の中はタンパク質などが高濃度に含まれる超濃厚溶液環境です。実際に細胞の中では、二重らせん以外の構造が存在し、それらががん等の疾患の発生を制御していることが近年分かってきました。現在私たちは、様々な細胞環境で核酸の構造がどのように変化するかを解析し、データベース化する研究を進めています。それにより、核酸構造が細胞の中で時々刻々どのように変化するかを予測し、病気の診断・創薬等に応用できる技術の開発を目指しています。

図1 核酸のらせん構造

研究だけに限ることではありませんが、本質を見極めるということが研究テーマにとって非常に重要です。常識と思われてきたことを、視点を変えて見ることで、核酸構造の本質が二重らせん構造ではなく、環境によって様々な構造に変化することではないか、ということが明らかになってきました。ワトソンとクリックの概念を超えた核酸分子の本質に迫る研究を行えていることはとても魅力的な研究であり、やりがいを感じます。

Extreme makes commonsense

もう一つ私たちのユニークな研究として高圧力研究を紹介します。気圧の低いところでお菓子の袋が膨らむように、圧力研究から分子の体積変化を知ることができます。そこで高圧力を用いることで、様々な分子などでギュウギュウ詰めの細胞の中での分子の振る舞いを調べることができます。1000気圧(=地球上の最も深い海溝での水圧)を超えるような高圧力をDNAにかけたところ、二重らせん構造にはほとんど影響はありませんでしたが、四重らせん構造は構造が崩れる現象が起こります。細胞は細胞分裂など様々な場面でその体積が変化します。高圧力で四重らせんの構造が崩れることは、体積が変化するような細胞環境の変化で四重らせん構造がダイナミックに変化することを示しています。高圧力という極端な環境で実験することで、核酸分子の新常識となる興味深い性質が浮かび上がってきました。現在は、細胞の体積が変わるものとしてがんの転移や細胞の老化をターゲットに研究を行っており、四重らせん構造の制御を通じて健康に資する新たな展開を示していきたいと思っています。

図2 高圧力実験

KONAN’s Value

サイエンスは世界共通です。甲南大学FIBERでは核酸分野において世界トップの研究拠点と成長すべく、海外の研究グループとの国際共同研究を活発に行っています。研究所には海外からの博士研究員が在籍し、日々研究活動を行っています。また、海外からの研究者や学生の短期受け入れや、著名な海外研究者の公開講演会を定期的に開催しています。このような国際色豊かな環境を体験することで、研究に限らずあらやる国際社会で活躍するための感覚を学ぶことができます。

図3 研究室での様子

Private

変わった趣味と言えば、大学時代に始めた水球です。足のつかないプールでプレーし続ける過酷なスポーツです。別名「水中の格闘技」ともよばれ、審判の見えないところの攻防でアドレナリンが上がるのが実感できるのが醍醐味です(あくまで個人的な見解)。サイエンス同様、スポーツも世界共通ですので、海外留学中に思い切って現地の水球チームに乗り込んだことは良い思い出です。

留学先の水球部に入部記念でもらったキーホルダー兼栓抜き。ネタとして重宝しています。

Profile

先端生命工学研究所   准教授

髙橋 俊太郎

TAKAHASHI Shuntaro

専門領域
生命物理化学

キャリア
東京工業大学大学院   生命理工学研究科 修了 博士(工学)

所属学会
日本化学会
日本化学会生体機能関連部会
日本高圧力学会
高分子学会