“人の命を守る”医師にも患者にも優しい医療用高分子材料を開発する。フロンティアサイエンス学部 長濱 宏治(高分子化学)

高分子化学の専門家で、医療用高分子材料の開発を行う長濱宏治教授にお話しを伺いました。

About Me ( NAGAHAMA Koji )

専門分野は高分子科化学(医療用高分子)で、人の健康や医療に役立つ研究を行なっています。
子供の頃から医療に関心がありましたが、クリエイティブ(モノづくり)も好きだったので、分子を自在に操りモノを創る知識とスキルを身につけるため、大学では化学の道に進みました。
大学で脂質ナノ粒子の研究をして卒業した後、製薬会社に就職しましたが、その際に配属されたのが営業職(MR)でした。
MRの経験により、どの医師に診てもらうかによって患者の治療成績が変わるなど、医療格差を実感し、医師のスキルで格差が生まれないようにするにはどうしたらいいのか考えました。
考えた結果、化学の側面から人の健康を支援して人の命を守り、患者を治療する医師に優しい医療材料の研究開発を行うことを決めました。
製薬会社を退職し、研究者になるために大学院に進学、その後フロンティアサイエンス学部に在籍して研究を続ける日々を過ごしています。

Research

The goal is to reach the patient

現在行なっている研究は、医療用高分子材料の開発です。
研究の最終的なゴールは開発した材料を患者に届けること、つまり医療応用することです。
研究では開発した材料の機能性はもちろんですが、患者に届けるにはまず国に認可されることが必要で、そのためには安全性が重要です。
いかに安全なものを使いながら、機能性の高い材料を設計するかということにこだわって研究を行っています。
認可され、実際に現場で利用されるようになるには基礎研究で10年、応用で10年はかかる長い道のりですが、2009年から開発をはじめて現在で15年経過しています。
現在は基礎研究を終えて、応用研究のフェーズに入っており、製薬会社や他大学の医学部の医師との共同研究を進めています。

特に力を注いで開発している医療分野は再生医療。
細胞の移植で組織を再生させる再生医療の技術は確立されてきましたが、再生医療の問題点もわかってきました。
移植した細胞を患部に留めることが難しいことがわかっているので、この問題を解決するための移植用材料を研究しています。
最終目標に向かって着実に研究が進んでいることを実感しており、毎日が充実しています。

Development of cell-based gel materials and their application to regenerative medicine

私たちは、細胞を化学素材として用いることで“生きている機能性材料”を創ることについて研究しています。具体的には、本来細胞が持たない反応性官能基(アジド基)を生化学的手法により細胞に導入し、アジド基と特異的に反応するアルキンを修飾した生体適合性高分子と反応させることで、細胞を主成分とする“生きている”多機能性ハイドロゲルを開発しました。細胞ゲルの応用例として、再生医療への応用を検討しています。マウス大腿筋(骨格筋)の損傷部位に投与した細胞ゲルは、骨格筋組織の再建及び機能回復をもたらしたことより、細胞ゲルは新しい細胞移植・組織再生技術として、再生医療分野への貢献が期待できます。

Creation of gel materials that can be injected into the body and their application to regenerative medicine

生体への細胞移植技術は再生医療の実現・普及のために必要不可欠であり、その技術には、移植した細胞の生着 ⇒ 増殖 ⇒ 三次元組織化 ⇒ 機能発現を支持することが求められます。私達は、体温(37℃)に温めると液体からゲルになる高分子を合成し、その温度応答性を利用して、細胞を注射移植できるゲル(インジェクタブルゲル)を開発しました。このインジェクタブルゲルを用いて、大腿筋損傷マウスに筋芽細胞を移植すると、数日後から筋力の回復が始まり、2週間後には損傷前と同等の筋力に回復したことより、高い治療効果が示されました。現在、このインジェクタブルゲルを用いた細胞移植により、様々な損傷組織を再生させることに取り組んでいます。

KONAN’s Value

甲南大学と医療には関連性が深いイメージはないかもしれませんが、化学/ケミストリーの観点から医療に関わることもでき、研究することが可能です。
フロンティアサイエンス学部のあるポートアイランドは「神戸医療産業都市」と位置付けられ、日本最大級の医療産業集積地となっています。
そのため、医療に関わる企業や研究者が周辺に数多く存在し、医療技術を研究開発する上で大きなアドバンテージがある地域です。
甲南大学でも、地の利を生かして共同研究を行っていますし、周辺の企業や研究者との交流も盛んです。
その影響でアルバイトなどの紹介なども行われており、医療の現場での実体験なども得ることがあったり、医師からの授業もあるので大きな刺激を受けることができます。
社会との関わりがあり、学べる機会に恵まれた環境に身を置くことで得られる経験はなにものにも変えがたいと感じています。

Private

プライベートで力を入れているのは子育てです。
4歳と0歳の子供がいるので、研究の時間以外は全て子供と過ごす時間を大切にしています。
子育てでも教育に興味があるので、化学(科学)に興味を持ってもらえるように英才教育をしています(笑)
今おすすめの絵本は、国立科学博物館監修の「ぐんぐん考える力を育むよみきかせ かがくのお話25」シリーズです。「むしのお話20」「いきもののお話25」「きょうりゅうのお話20」などもあり、子供が身の回りの自然現象(科学)に興味を持ついいきっかけになるかと考えています。
その他には、現在放送されている仮面ライダーのテーマも化学に関係することなので、違うアプローチでも楽しんで化学と触れる機会を作ったりもしています。

自宅のトイレの壁でも科学

Profile

フロンティアサイエンス学部 教授

長濱 宏治

NAGAHAMA Koji

専門領域
高分子化学、医療用材料、再生医療

キャリア
金沢大学   工学部   物質化学工学科
関西大学大学院   工学研究科   応用化学専攻 博士前期課程
関西大学大学院   工学研究科   応用化学専攻 博士後期課程
南デンマーク大学 核酸センター

所属学会
高分子学会
日本再生医療学会
日本バイオマテリアル学会
日本DDS学会
日本分子生物学会