環境問題に対して環境政策・行政の観点からアプローチし、「まちづくり」に学生とともに取り組む。全学共通教育センター 久保 はるか (環境政策、行政学)

環境政策、行政学の専門家で、環境問題の研究やまちづくり活動を実際に行うなど多方面で活躍している久保はるか教授にお話しを伺いました。

About Me ( KUBO Haruka )

「環境政策・行政」の研究をしています。

環境問題に関心を持ったきっかけは、高校生の時まで遡ります。当時、オゾン層破壊、森林破壊、気候変動など地球規模の環境問題について、盛んに報道がされていました。その時に疑問に思ったのは、なぜ問題がわかっているのに解決されないのだろうか、ということでした。環境問題は、問題状況を課題として認識すること自体に労力を要するものなのだということは、後に知ることとなるのですが、なぜ環境問題の解決が困難なのか、どうすればよいかについて、多角的に考えようとする問題関心は、今も持ち続けています。大学生の時には、環境NGOに参加して、野外イベントのゴミゼロ活動など、実際に問題に取り組む経験を積みました。また、気候変動問題に関する若者会議や環境政策の最先端を学ぶ勉強会の開催に携わったり、環境NGOの組織運営のあり方についてアメリカのNGOに学びに行くなど、学びの部分も大きかったと思います。このような、実際に起こっている問題自体に関心があって、それを題材に研究するというスタンスは、研究者になっても変わることなく持ち続け、今に至っているような気がします。

甲南大学に赴任してから学びの機会を得たテーマが、「まちづくり」です。あるきっかけで、大学周辺地域では、住民主体のまちづくり活動が盛んであることを知り興味を持ったのですが、せっかくなので、ゼミの活動を通して、学生と一緒に学ぶことにしました。学生たちと地域の方々にお話を聞いて回り、地域の歴史と地区ごとの特徴、そして現在のまちづくりの取組みについて、たくさんのお話を聞きました。その記録を学生と冊子にまとめていますので、是非ご覧ください。お話を聞いて回るうちに、神戸市のまちづくり制度についても詳しくなっていったという、研究のあり方としては特殊な取り組み方といえると思います。また、震災復興支援の学生ボランティア事業に関わりながら学んだことも、まちづくりの研究につながっています。学生の引率で、宮城県名取市と熊本市の被災地に数年に亘って足を運び、現地の方々にお話を伺い、仮設住宅での生活から街の復興までの変化を見る機会を得たことは、大きな学びでした。私にとって、「まちづくり」は、学生たちと一緒に学んだ研究分野です。

Research

Research focusing on environmental policy and administration

「環境政策・行政」について、次のようなテーマに取り組んできました。

ひとつは、環境条約の国内実施に関する研究です。オゾン層保護の取組みは、「成功した環境政策」と言われています。そこで、オゾン層保護を事例に、条約交渉から国内の実施までの過程を丹念に追跡しました。つまり、条約交渉のプロセスにおける日本政府のポジションの決定要因と交渉の実態、採択された条約を日本国内で受容し国内政策として法制度化する過程と法制度の特徴、そしてそれを実施し条約の義務を履行する過程を、事業者・業界の対応も含めて調査しました。そして、単に条約・議定書の義務を果たすにとどまらず、条約目的そのものに資する行動変化がもたらされる場合に、その条件を明らかにしようとしました。
このように、問題関心は、主に環境政策過程の追跡と、そのプロセスに関わるアクターに関する分析にあるといえます。
例えば、気候変動防止政策を事例に、目標設定や政策過程での専門知の用いられ方について調査分析しました。さらに、近年は、環境行政組織(環境省)の研究に取り組んでいます。環境利益は、政策過程において代表されにくい過小利益の一つだと言えます。日本に特徴的な、業界を丸ごと所管する行政組織間の関係では、過小利益は環境行政組織の弱さと直結します。そのような環境利益が絡む政策分野において、環境行政組織(環境省)がどのように関与してきたのか、どのような戦略をとってきたのかが興味深く、研究を進めています。カリフォルニア大学バークレー校での在外研究期間には、カリフォルニア州の気候変動防止政策のプロセスについて、日本との比較の観点から、行政組織の役割と機能に焦点をあてて分析しました。
その他、科研費等の研究グループへの参加を通して、漁業の分野で漁業資源管理政策と水産改革、エネルギーの分野で再生可能エネルギー発電設備の立地といったテーマに取り組み、研究の参照領域を広げる機会をもらっています。いずれも、現場での聞き取り調査が楽しい分野です。
「まちづくり」に関しては、神戸市に多く残る財産区について、また、神戸市のまちづくり制度が地域でどのように活用されているかについて、少しずつ事例調査を続けています。

KONAN’s Value

甲南大学については、神戸市における甲南ネットワークの強さと、甲南OB/OGの甲南愛の強さを、よく耳にします。それに加えて感じるのは、大学周辺地域とも密接なつながりを持つ大学だということです。大学の成り立ちや、創設者の平生が住吉村の村議を務め地域への裨益を考えていたようであるということだけでなく、長きに亘って地域住民の方々に温かく見守られてきた大学だということも言えるのではないでしょうか。

例えば、
―かつて、馬術部の馬が岡本の街中を歩き、馬糞を拾って歩く甲南生を、住民の方がほほえましく見ていた、とか
―かつて野寄にあった大学のプールには、地元の子どもたちが泳ぎに来ていた、とか
―岡本商店街には、甲南生の行きつけのお店があって、地元の方が学生におごってくれることもしばしばあった、
などなど地元の方々と甲南生とのほのぼのとしたエピソードを、数多く聞きます。大学周辺地域にお住いの甲南卒業生が割と多くおられるのも、わかる気がします。

私はかつての様子を実体験として知っているわけではありませんが、このようなエピソードを聞くと、現在は、時代と共に、学生だけでなく教職員も、地域とのつながりに対する意識が薄れてきているかもしれません。それは少し寂しいですね。

Private

歳には勝てず、ここ数年で急な身体の衰えを感じたため、これはまずいと、意識的に運動を心がけるようになりました。最近は、スポーツ・健康科学教育研究センター(スポ健)の「こうなんSMILEプロジェクト」のバドミントンに、時々顔を出しています!元気な学生たちに交じって、私は完全に劣等生なのですが、教えてくれるバドミントン部の学生さんたちが大変な褒め上手で、本当に感心します。おかげで楽しく参加させてもらっています!こういう風に声かけすれば、人は伸びるだろうということを、学生に教えてもらっているようです。

Profile

全学共通教育センター 教授

久保 はるか

KUBO Haruka

専門領域
環境政策、行政学

キャリア
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)
日本学術振興会 特別研究員
神戸大学大学院法学研究科COE研究員

所属学会
環境法政策学会
日本行政学会
日本環境会議
日本政治学会
日本公共政策学会