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 生物有機化学研究室は、2009年4月にスタートした研究室です。我々の研究室では生物の優れた機能に学び、有機合成的手法を用いて、生体に働きかけることのできる新しい分子を設計・合成し、利用することを目指しています。

 生物が地球上に誕生して現在に至るまでに、地球環境の変化に適用すべく進化を繰り返してきました。環境の変化に適用し、生き抜くためのしくみには我々には思いもつかない特異な発想が多く隠されています。 我々は、このような生命の持つしくみに学び、 その発想にヒントを得て、実社会に役立つ有用な分子を創製することを目指しています。  

例えば、現在、注目しているのは細胞内でエネルギー源として使われた糖質、アミノ酸、脂質から副産される代謝産物群です。我々には老廃物としか思えない物質群ですが、細胞内に高濃度で蓄積されるこれらの分子群は、深海や塩湖に生きる生物では、浸透圧の調整、細胞膜の安定化、活性酸素の除去、生体高分子の安定性や活性制御など、細胞機能の維持に欠くことのできない役割を果たしています。我々は、有機合成によってこれらの代謝産物に共通する基本骨格を基体とし、細胞が作ることができない類似物(アナログ)を合成しました。その結果、化学構造のわずかな違いで生体高分子の安定性や活性へ与える影響が変わることが明らかとなりました。生体由来の代謝産物の機能を超えるアナログは、酵素の活性や安定性を大きく向上し、医療診断技術や工業プロセスの生産性の向上、廃棄物の処理など、循環型社会の構築の実現に役立つ基幹分子となることが期待されています。
また一方で、生体には細菌やウィルスの感染に抵抗を示すような防御システムも備えています。そのため、細胞が持たない人工分子を細胞内へ導入すると、排出されたり、化学反応によって他の物質へ変換されたりします。我々は、副作用を軽減する次世代医薬を開発すべく、核酸医薬に生体分子の働きを外部刺激(光や熱など)で体外から遠隔操作できる人工分子を組み込んだ新しい分子も開発しました。核酸医薬の働きを細胞外からコントロールできれば、特定の細胞に取り込まれた核酸医薬だけ機能させることもできるようになると考えられ、副作用の大幅な軽減も期待されます。このような技術は遺伝子治療を含めた医療・創薬に応用できると期待されています。

また最近は、酵母菌の細胞壁を構成する天然多糖(β-1,3-1,6-グルカン)にも注目しています。この多糖は3本の多糖鎖が3重螺旋構造を形成していることが特徴です。。3重鎖の内部は疎水性であり、難水溶性物質が可溶化できますが、可溶化法の煩雑さが問題となっていました。我々は酸とアルカリだけを使って多糖の高次構造を変性させ、ナノ粒子にする技術を開発しました。この多糖ナノ粒子は水に溶けにくい物質と混合するだけで内部の疎水性空孔にそれらを包接可溶化できます。加えて、この多糖は食用であり、安全性が保証されている上に、多糖鎖自身に生理活性を有しています。化粧品、食品、医薬品の有効成分には高い機能はあるものの水に溶けず実用化できない成分も多くあり、現在、化粧品、食品、医薬品の関連企業からこの包接可溶化技術は注目を集めています。

  このように生物有機化学研究室では、有機化学をベースとしてオンリーワンとなる技術を開発し、社会に役立つ応用展開を図ることをコンセプトに研究を行っています。企業や他大学との共同研究やゼミ合宿も積極的に行っておりますので、人の交流や多様なネットワークも身につくと思います。興味がある人は是非一度、研究室に足を運んでください。