【五月病って実は、日本の現代病!?】
withコロナ時代、ストレスとの向き合い方に迫る。
withコロナ時代、ストレスとの向き合い方に迫る。
年度が変わり、新生活が始まるとにわかに騒がれる「五月病」という病。
昨年から今年にかけては、新生活のストレスに追い打ちをかけるようにコロナ自粛が始まり、
不安な気持ちを打ち明ける機会が失われました。
どんどん気分が落ち込んで「これが五月病なんだな」と、自覚した人もいたのではないでしょうか?
ところで、そもそも「五月病」ってどんな病気なんでしょうか?昔からあったのでしょうか?
誰もがコロナ禍でストレスを抱え「五月病」になりやすい今、
そのメカニズムや対処法などを、学生相談・臨床心理学を専門とする
甲南大学文学部教授・高石恭子先生に聞いてみました。
「五月病」は医学的な病名ではなく、
メディアが社会現象につけたネーミングなんです。
え? 「五月病」は病気じゃないなんて、いったいどういうこと?
高石先生が言うには、年度が変わって環境も変わると、心身がその変化に必死についていこうとします。それが、大きなストレスになるのだそう。しかも、ストレスの要因はショックなことだけではありません。
実は、おめでたい変化もストレスになるのだそうです。
例えば、入学はそのひとつ。また、新社会人になる、昇進する、引越しするといったこともそう。
でも、こうした場合はストレスに気づきにくいのでそのままがんばってしまい、ゴールデンウィークを過ぎた頃に、「起きられない」「なぜか涙がこぼれる」といった困った症状が出てくるのだそうです。
だから五月病とは病名ではなく、「社会現象」そのものなんです。
年度が変わる習慣が始まる前からあったのでしょうか?
五月病は、1960~70年代の学生運動をきっかけに始まったんです。
五月病のルーツは意外と新しいんですね!
1960~70年代、「革命を起こして社会を変える!」と理想に燃えた大学生によってさまざまな活動が熱心に行われました。でも、権力によってその動きは封鎖されてしまったんです。1970年以降、大学に入った若者は学ぶ目的も夢も失って、大学生の間に無気力が蔓延しました。その現象をメディアが「五月病」と呼ぶようになったんです。つまり、
戦後間もない頃にはなかったので、高度経済成長期以降の現代病。
ということですね。1980年代、「五月病」は若い社会人の間にも広まり、
最近では子育て中の若いお母さんにも「五月病」が見られるそう。
解明されているのでしょうか?
五月病の症状は、心身からの「もう無理」という「しらせ」。
高石先生が言うには、環境の変化が重なるとこれまでの対処方法がうまくいかず、失敗することが増えます。
その結果が、五月病なんだとか。
がんばりすぎて対処が遅れると、弱いところに症状が出てきます。例えば、胃腸が弱い人は胃がムカつき、皮膚の弱い人はアトピーに。行動して発散する人は喧嘩早くなり、自分を傷つける方向に走る人もいるそうです。症状は、体からの「しらせ」。「これ以上、がんばれない!」「もう、無理!」ということを体が教えてくれているんですね。そこで、病院に行くと、
症状に応じた「心身の病気」の病名がつくこともあるとか。
大学生活はリモートだけ。
キャンパスライフを送れないことがストレスに。
昨年、大学の授業の多くはリモートで行われ、それが学生にとって大きなストレスになりました。
一番影響があったのは、新入生と卒業年度の学生です。特に1年生は、入学後からずっとキャンパスライフがなく、遠隔授業のみだったため、ストレスはたまるばかり。一方、2、3年生は1年生のときにできたネットワークがあるので、オンラインで友達と話すことでいくらかはストレスに対応できたようです。
課題を出されると一生懸命やる。手を抜くことを知らない1年生。
リモート授業では、ほとんどの先生が毎回課題を出していました。1年生は良い意味で手を抜くことを知らないし、「あの授業は、テストさえちゃんと受けていれば大丈夫」「必ず全部出席しなくても単位が取れる」とアドバイスしてくれる先輩もいません。ですから、すべての課題に全力で取り組んで、疲れてしまうのだそう。「真面目な学生ほど、途中で挫折すると自信を失っている」と高石先生は言います。
いつもなら1年生は、同級生や先輩に教わったり揉まれたりしながら成長していきますが、
2020年度の1年生は、自分で自分を励まし、ときには責めながらがんばりました。
そうこうするうちに2年生に進級して後輩が入ってくると、今度は「自分は先輩だから」とまたがんばる。
高石先生は「2年生になると、ますます疲れるのでは」と心配だとか。
はじめての緊急事態宣言下、学生相談室だけは閉めなかった。
それは甲南大学だからできたこと。
多くのマンモス大学は、心理カウンセラーも大学に入れず、電話やメールで対応していましたが、
高石先生は「学生相談室だけは閉めないでください」と大学にかけあって、ずっと開けていたそう。
それは、ミディアムサイズで一人ひとりの心を大事にする甲南大学だからできたことですよね。
ちなみに学生の相談内容は、コロナに罹患したといった、
直接感染症に関するものはほとんどなかったそうです。
ただ、12月以降の相談は今までで一番多く、コロナ禍で負荷がかかり、
これまで抱えていた問題が顕在化したことを感じたそうです。
コロナも2年目。ストレスを自覚できないことが一番こわい。
ストレスと向き合う方法を教えてください。
自宅リモートは、「公」と「私」の区別が一番大事です。
自宅でのリモートワークもストレスの原因となりえます。
24時間仕事ができるので、スケジュール管理が難しくなるからです。
例えば、夕食後に会議が設定されると、会議の後に、家事や家族とのやり取りなどの日常生活が待っていて、ストレスを発散する時間がありません。しかも、「公」と「私」の切り分けがしにくいため、通常とは違うストレスが加わってきます。
いつでも仕事ができてしまうのは、自宅リモートワークの怖さ。真面目な人ほど危ないので、
「何時以降はメールを見ない」など、自分でルールをつくる必要があると高石先生は指摘します。
去年も「夏までがんばれば」と言われていましたが、ずるずると自粛が続いていますよね。昨年、新社会人になった人は疲労が蓄積している上に、同期と苦労を労う機会もない。「もうこれ以上、がんばれない」という限界が訪れる、と高石先生は言います。
リモートだと心身にかかるストレスが普段と違うんです。
対面では、相手から立ち上る匂いや息遣いを感じられるし、
お茶を飲みながら話していれば味覚ももたらされます。
でも、リモートでの仕事は、顔の半分がマスクで隠されていて表情が見えず、声や音は機械で加工されている状態。多くの情報がそぎ落されて、受け取れる情報は一部だけなんです。
さらに、今まで五感を使って行っていた作業を、目と耳など一部分だけしか使わずにやることも不健康なんだとか。でも、ほとんどの人はそれに無自覚なんです。
そこで試してほしいのが、五感のトレーニングです。
高石先生は、今は目を使うことが多いので、学生に次のような課題を出しました。
・公園など屋外のベンチに座って目を閉じる。
・通り過ぎる人の年齢、性別、気持ちを想像する。
・それをレポートする。
すると、学生からは「目を閉じるだけで、こんなにいろいろなことが感じられるなんて!」という反応があったそう。そういうことを感じる余裕を奪われたまま、この1年走ってきたんですね。
また、他の五感を使う課題を出すと、公園の木の幹を抱きしめたり、家族で背文字遊びをして背中に感覚を集中させたという学生がいたそうです。その他、たこ焼きにいろいろな具材を入れて味わう「たこ焼きルーレット」で“しっかり味わう”という感覚を楽しんだ学生も。工夫次第で、五感って使えるんですね!
「他の感覚を活性化させることは、ストレスを和らげるのに効果的」と高石先生。社会人の皆さんも、
他の感覚を使う機会をつくってみるといいかもしれませんね。
私もつらくなった時、高石先生に相談したいです(泣)
私はその中の学生相談室にいますが、センター内の心理臨床カウンセリングルームは学外の方も利用できるんですよ。
18号館にある甲南大学心理臨床カウンセリングルームは
卒業生や地域の方に開かれています。
18号館は、阪神・淡路大震災後、地域・学生の心のケアをする建物として設計されました。
高石先生も設計段階から関わったとか。さまざまな心の状態に合うよう、面接室は、
大きさや明るさなどのしつらえを変えているのが特徴です。
甲南大学の学生であれば、学生相談室を無料で利用できますし、卒業生やご家族、地域の方は心理臨床カウンセリングルームを有料で利用できます。医療保険のきかない民間の相談室では、1回の利用料が5千円~1万円ぐらいかかることが多いですが、本学のカウンセリングルームでは気軽に来ていただけるよう、その3分の1~半額程度に設定されています。
KONAN-PLANET 記者
うれしいことでもストレスになることに、驚きました!
テレワークは今後のワークスタイルのひとつになるので、
五感をバランスよく使ってストレスを溜めないことが大切ですね。
体の「しらせ」に気付いたら、
がんばりすぎず、自分を責めず、リラックスする!
そんなゆとりを持つことが大事だと改めて感じました。
- 今回お話しを聞いた人
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甲南大学文学部 高石恭子 教授
臨床心理士、大学カウンセラー、公認心理師。京都大学博士(教育学)。 平成元年より甲南大学で学生相談室のカウンセラーを務める傍ら、乳幼児から青年期に至る子どもと親の関係や子育て支援の研究も行う。 近著に「自我体験とは何か」(創元社、2020年)他。