必要なものを迅速に取り分ける円盤型デバイスを開発
大学発ベンチャーの創業で社会実装へ

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2026.5.14
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甲南大学理工学部 茶山健二教授は、イオン液体という物質を使い、水の中に溶け込んだものの中から必要なものを取り出す研究を進めています。最近では、必要なものを迅速に取り分けるためのデバイスまでも自身で開発し、その成果をもとに今年度中に甲南大学発ベンチャーを創業する予定です。探究を形に変える力が、社会に新しい価値をもたらそうとしています。

 

 

Contents

・分析化学の研究について

・読書好きの高校生が分析化学の分野へ

・幅広い「引き出し」が研究の可能性を広げる

 

 

 

分析化学の研究について

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

まずは、茶山先生の研究内容を教えてください。

 

 

茶山健二 教授

 

分析化学という領域で、水の中に溶けている見えないものを見つけ出し、種類によって分ける溶媒抽出という技術を研究しています。その中でも特に、イオン液体という物質を水の中から生成させ、イオン液体に欲しいものだけを移動して、取り分ける研究を進めています。

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

最近の研究で特に印象的だった成果やエピソードはありますか。

 

 

学生の実験結果から生まれた分析方法

 

 

茶山教授大学院の学生が出した実験結果から、イオン液体を使って必要なものを抽出するときに、驚くほど速い抽出が可能になることを発見しました。この成果をもとに、イオン液体の生成、必要な物質の抽出、抽出した物質の濃度計測までの一連のプロセスを瞬時に行うことができる円盤型のデバイスを開発しました。
このデバイスを使ってさまざまな成果を出しています。例えば、島根大学と共同で河川や海水中に存在するリン酸イオンを取り出して色を付けて見えるようにしました。これにより、魚介類が生息するために必要な栄養塩のモニタリングが可能になります。また、兵庫県警科学捜査研究所との共同研究で人の尿中の大麻代謝物を抽出することに成功しました。デバイスを使うと大麻を吸引した被疑者の尿を一度に効率的に分析することができます。
このように、必要なものを取り出し、濃度を測定する新しい分析法の確立にチャレンジしているのですが、日々、新しい発見があるのでワクワクしています。
混ざっているものの中から必要なものが取り分けられる分析化学の面白さを知ってもらうため、高校生への出前授業も行っています。

 

 

イオン液体抽出デバイス

 

 

 

 

読書好きの高校生が分析化学の分野へ

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

高校生、大学生の頃はどんなことに興味を持っていましたか。

 

 

茶山教授高校2年生のころは読書が好きで、文系に進んで物書きになりたいと思っていた時期もありました。ただ、3年生になると、現実的に理系の方が就職しやすいかなと考えるようになり、化学が得意だったことから化学系の学科を受験しました。そのころ、家業のトラブルもあり、入学した大学の学費は自分で稼ぐしかなく、大学生活はアルバイトざんまいの日々でした。


私にとっての転機は、大学院に進む前に、研究室の先生から薦められ、ヘンリ・フライザー教授の「分析化学におけるイオン平衡」を読んだことです。その本には、水の中でそれぞれのイオンがどのような振る舞いをするのか、必要なものをどのように取り出すのかといったことが体系的に説明されており、その世界に興味を持つきっかけになりました。

 

大学院に進学してからは、十分な奨学金もいただけたので、自分で世の中にない新しい化合物を作り出す研究に没頭することができました。化学の世界では、ものを合わせる合成と、ものを分ける分析があって、通常はどちらかが得意な人が多いのですが、私は合成、分析とも好きでした。そのことを生かして、新しい試薬を合成して、それを分析に使うという提案をいろいろしたところ、それが学会で評価され、奨励賞をもらうことができました。

 

 

 

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

今後、この分野はどのように発展していくと考えていますか。

 

 

円盤型のデバイスが社会実装へ進む

 

茶山教授従来の溶媒抽出法は、人体に有害な揮発性化合物を含むベンゼン、クロロホルムなどの有機溶媒を利用するのに対し、イオン液体は蒸発しない液体であるため吸収毒性がありません。それだけでなく、従来法のように振って混ぜるプロセスを必要とせず、デバイスを回転させるだけなので迅速に抽出できるメリットがあります。この発明は甲南大学より特許を出願し、現在公開、審査請求中です。
この手法を社会実装するために、今年度中に甲南大学発ベンチャーとして会社を設立する予定です。
社名は「Concentration(濃縮)」「Separation(分離)」「Feel(感覚的操作)」からの造語で、「コンセフィール・コーポレーション」を予定しています。円盤型デバイスを駆動させる機器も合わせて開発し、工場や研究所向けに販売をしていく予定です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幅広い「引き出し」が研究の可能性を広げる

 

KONAN-PLANET 記者 

 

最後に、研究を発展させていくためには何が必要ですか。

 

 

茶山教授:幅広い「引き出し」を持っておくことが大切です。私自身、合成と分析の両方に興味を持っていたことで新しい試薬の提案ができましたし、今般のデバイスについてもまずはCADを使い3Dプリンターで試作品を作ったことで開発にこぎつけることができました。CADやプリンターを実際に扱ってくれたのは学生たちでしたが、幅広い「引き出し」の中から、こうしたらこうなるのではないかと仮説を立て、検証を繰り返すことが大切です。

 

自然科学、人文科学、社会科学どの分野に進んでも、大切なことは、自分で考え、それが間違っていないかを冷静に検証することではないでしょうか。自分が、進みたい学問領域だけをのぞくのではなく、日々、身の回りで起こっている現象を自分なりに考え、読み解くことが先々、専門分野を持った時にも役に立つはずです。

その力を養うのはやはり読書だと思います。たくさん本を読んで、よい日本語を身に付け、論理的に考える習慣を身に付けてほしいと思います。今の大学生は私たちの時代よりも不確実な世界の中で真剣に学んでいます。子どもと一緒にキャリアを考えている保護者の方は、真剣に子どもの将来あるべき姿を一緒に考えてあげてください。子どもたちは、親の経験しない未知の世界に立ち向かうのですから。

 

 

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者 

 

茶山先生ありがとうございました。

 

 

 

 

 

今回お話しを聞いた人
茶山 健二(ちゃやま・けんじ) 甲南大学理工学部 教授

1958年鳥取県生まれ。理学博士(神戸大学)。1982 年島根大学理学部卒業。1984年 神戸大学大学院理学研究科化学専攻修了。1985年同大学院自然科学研究科博士課程中退。1988年同大学院自然科学研究科助手、1991年甲南大学理学部講師、1999年同助教授、2001年同理工学部助教授、2007年から現職。趣味は、ドライブ、旅行、音楽鑑賞。1994年日本分析化学会「奨励賞」受賞。2024年 日本分析化学会「学会功労賞」を受賞。

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