
世界中どこでも、いつでも、絶品バウムクーヘンが焼き上がる!?
世界初のAI職人「THEO」に見るフードテックの未来。
世界初のAI職人「THEO」に見るフードテックの未来。
甲南大学では「神戸スイーツの研究活性化拠点」としてビジネスイノベーション研究所でプロジェクトを進めてきました。今回取り上げるのは、創業以来100年にわたり、神戸の街でドイツの伝統菓子、バウムクーヘンのおいしさと品質を追求してきたユーハイム。
2020年、AI機能を搭載したバウムクーヘン専用オーブン「THEO(テオ)」を発表し話題になりました。熟練の技にこだわってきた同社がなぜAIの開発に着手することになったのか。「THEO」の開発にあたった山田 健一さんに、ユーハイム社の新たな試みについてお聞きします!
そもそも、「フードテック」とは?
「フードテック」とは、「最新のテクノロジーを駆使することで、新しい形で食品を開発したり、調理法を発見したりする技術」のこと。食糧不足、飢餓問題、食の安全、人材不足といった、食のさまざまな課題を解決する技術として世界中で注目を集めています。
KONAN-PLANET 記者
山田さん、今日はよろしくお願いします!
早速ですがAI職人「THEO」について教えていただけますか?
山田 健一さん
生地をセットするだけでAIが自動的に焼き加減を調整し、
職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼き上げることができます。
小型なので場所を選ばず、あらゆる所で活躍していますよ。
KONAN-PLANET 記者
職人さんがいなくても焼きあがるとは驚きです!
誕生のきっかけについて教えてください。
「地球の裏側にバウムクーヘンを届けたい」
ユーハイム河本社長の思いが原点。
当社の社長が、南アフリカを訪れたとき、スラム街の子どもたちが笑顔で現地のお菓子を食べている様子を見て、「南アフリカ=地球の裏側」の子供たちにもバウムクーヘンを届けたいと思ったことがきっかけです。その後、日本からバウムクーヘンを持って行き子どもたちに食べてもらったのですが、ただ届けるだけでは継続的な支援は難しい。持ち込むにしても重いですし、税関を通すのも一苦労。そこで考えたのが、専用のオーブンを日本から持っていくことでした。
「THEO」の登場により、電気とインターネット環境があれば、「いつでも、どこでも、焼きたてのバウムクーヘンが食べられる世界」が夢ではなくなりました。また、当社はバウムクーヘンを自社工場で焼き、トラックで各地の店舗に輸送しています。それを「現地で、現地の材料で、電気で焼く」ということにすれば「地産地消」にもつながります。輸送を減らすこともでき、「カーボンニュートラル」という点で地球温暖化防止にも貢献できます。
音楽やアートと違い、お菓子のレシピには著作権がありません。「THEO」はいろいろな職人の焼き方をAI学習できますから、レシピを提供してくださった職人やパティシエに「使用料」が入るような取り組みにもトライしていきたいと考えています。職人たちのスキルアップにもつながりますし、レシピをクラウドサービスにアップすれば世界中どこでも使えるようになる。職人のネットワークが世界中に広がっていきます。
「THEO」は、すでに15の企業に設置されています。それも、お菓子屋さんやカフェだけではありません。結婚式場、テーマパーク、リゾートホテル、道の駅、自分の材料で作ってみたいという生産者さんまで、幅広い方々からも問い合わせがあります。「THEO」があれば、従来の「お菓子屋さん」という垣根を越えて、いろいろなところで焼きたてバウムクーヘンを提供できるようになります。日本全国で、世界中で食べられるようになったら、「ああTHEOが活躍しているな」と私も実感できるでしょうね(笑)。
「THEO」を載せたフードトラックが
神戸市内を中心にイベントに出展中。
どこかで見かけたら、
焼きたてのバウムクーヘンをぜひお試しください!
KONAN-PLANET 記者
山田さんはこれから
「THEO」をどのように活用していきますか?
山田 健一さん
「THEO」は、バウムクーヘン職人の一番弟子
私たちは、将来すべてのお菓子作りをAIでやっていこう、
とは考えていません。今まで通り、熟練の職人が一本一本、
ていねいに作っていくことは変わりません。
ですが、今後100年続く企業として継続させていくために、
今いるベテラン職人の仕事の伝承をAIでやっていくことは
有効だと思っています。近い将来、人間とAIが一緒においしい
お菓子を作る、そんな時代がくるのではないでしょうか。
一人の職人、一つのお菓子は
一人の人間しか幸せにできませんが、
フードテックによって世界中の職人がつながれば、
お菓子で世界を平和にすることができる!
と期待しています。
KONAN-PLANET 記者
熟練の技術と経験が必要とされていたバウムクーヘンが
フードテックの活用により、電気と材料さえあれば、
いつでも焼き立てが食べられるように。
「地球の裏側にもバウムクーヘンを届けたい」
という思いを技術の力で叶えたユーハイム、
そしてAI職人「THEO」のこれからの活躍に期待しましょう!!
西村順二所長
ビジネスイノベーション研究所では、神戸市の地場産業で洋菓子を対象に地域活性化に資する洋菓子産業集積の研究を進めてきました。
神戸ひがしなだスイーツめぐり実行委員会では、当研究所と神戸市の共催でスイーツに関わる講演会も実施しており、今回、神戸を代表する企業であるユーハイムにフードテックの秘密について、お話しいただきました。
職人技術に代表される洋菓子が、フードテックを活用し、DX時代にさらなる展開する姿を期待したいと思います。

- 今回お話しを聞いた人
-
山田 健一(やまだ けんいち)
1993年、兵庫県神戸市に本社を構える老舗洋菓子メーカーである株式会社ユーハイムに入社し、2020年、フードテックマイスター株式会社 取締役に就任。株式会社ユーハイムは、日本で初めてバウムクーヘンを焼いたことで知られており、安城工場の菓子職人の技をAIで機械学習させて自動でバウムクーヘンを焼成するオーブン「THEO(テオ)」を5年の月日をかけて開発した。