キーワードは「可能性を諦めない」
今すぐ出来る!「働きがい」「やる気」の引き出し方

みんなの「世界」をおもしろく > スタディー
2023.4.21
よかった記事には「いいね!」をお願いします

働き方改革に始まり、ワーク・ライフ・バランス、男性の育児休業取得など、新しい働き方やワークスタイルが提唱される今、「やりがいを持って働きたい」と考える社員の要望に応えることも企業の課題となっています。では、「働きがい」を持つにはどうしたらいい?従業員がやりがいを感じる職場はどう作る?組織論に詳しい甲南大学経営学部の北居 明先生が考える、「働きがい」「やる気」を引き出す方法を伺いました。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

北居先生、今日はよろしくお願いします!

さっそくですが「働きがい」とは、

どういうことだと先生はお考えですか?

 

 

 

北居先生

 

「働きがい」は一人では完結できない、

だから難しい。

 

「働きがい」って、ないよりはあった方がいいですよね。働きがいとは、自分の働くことに意味を見いだせるかどうか、だと考えます。ですが、仕事一辺倒でいいのかというとそうではなく、仕事と生活のバランスも重要ですし、周りの人に認められることも必要です。「働きがい」は一人では完結できないし、一人では完全にマネジメントできない。だから、うまくいかないことも多いのだと思います。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

就活をする学生にとっても、社会人にとっても

「働きがい」は気になるワードです。

「働きがい」をつくるにはどうすればいいのでしょう。

 

 

 

北居先生

 

経営者の目線からいうと、報酬の与え方や評価の仕方、仕事の内容を工夫することでやる気を上げていくインセンティブシステムという手法があります。ただ、何に働きがいを感じるかというのは多様化しており、働きがいを経営者任せにしていいのか、という考えもある。最近は、従業員目線の「ジョブクラフティング」という手法が注目されています。

 


 

【 ジョブクラフティングとは 】

「働きがい」を自分で作っていくときにヒントとなる考え方。ジョブクラフティングの実践には、以下の3つの視点がある。「働きがい」の創出だけでなく、メンタルヘルスにも効果があるといわれ、厚生労働省も推進している。

 

 


 

①仕事に対する考え方を変える

自分の仕事が周囲にどのような影響を与えているのか、大きな視点で考える。つまらないと思っていた仕事が社会的・組織的に重要なことだと気づくと、仕事の意味が変わってくる。

 

②自分で仕事を工夫する

どんな仕事にも工夫する余地がある。仕事がやりやすいように工夫したり、仕事の質が上がるように自分で工夫をする。

 

③人との関わり方を変える

日頃、組織の中で話をしない人と話をしてみる、同僚に相談をしてみるなど、周りの人との関わり方を変えてみる。新たな人間関係ができると、やりがいが生まれることがある。

 


 

 

KONAN-PLANET 記者

 

先生は実際に組織改善の

取り組みをされているそうですね。

 

 

 

北居先生

 

10年前から、さまざまな組織に出向き、組織改善に取り組んでいます。企業はもちろんですが、最近は病院も多いですね。病院は離職率が高く、組織改善によって離職率を下げたいという要望も多いです。会社もそうですが、人手不足になると個人の仕事の量が増え、社員がメンタルを病んでしまうこともあります。

 

また、会社に来ているが100%の状態で働けていないという問題も起こっており、そのような状況をプレゼンティーズム(presenteeism=疾病出勤)といいます。メンタル、フィジカル両方の側面がありますが、心身に不調をきたしている状態であるため生産性が上がらない。企業はもちろん、日本経済における損失も大きいといわれています。

 

 

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

そうした課題を解決するためにも

職場の改善が大切なのでしょうか。

 

 

 

北居先生

 

はい、社員やスタッフに気持ちよく働いてもらえるよう改善し、

「働きがい」を上げていくこと、

それも職場レベルで取り組んでいくことがとても重要です。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

先生が実践されている組織改善について

詳しく教えてください。

 

 

 

北居先生

 

「問題の原因」に目を向けないこと。

問題解決というと真っ先に原因を突き止めようとしがちですが、私は原因は見ません。原因を探っていくと「誰のせいでこうなったんだ」となりますよね。そうすると、社員の間で不信感や対立が生まれ、原因が解明できた頃には社員の仲が悪くなっている。原因を探すプロセスが組織を弱くするのです。

 

 

 

 

「自分たちができていることから始める」が出発点。

原因は、探すから出てくるんです。悪くなる「きっかけ」はあったかもしれませんが、もはやそれは原因ではなくて、それを取り除いたところで会社は良くなりません。ですから私は、この組織で働いてプライドを感じた瞬間、組織に愛着を感じた瞬間、働きがいを感じたのはどんなときかなどを議論させるようにしています。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

短所ではなく、組織の長所と可能性を探る・・・

それは前向きになれそうです。 

 

 

 

北居先生

 

人間も組織も100点はありません。でも0点もない。状況が悪くなってくると足りないところばかり目がいきますが、出来ていることもたくさんあるはずで、そこを議論の出発点にすると前向きな会話ができる。私はそのチカラを利用して組織を良くしていきます。もう一つ大切なのは実践です。話を聞くだけではだめで、実際にやってもらわないと変わりません。必ずワークショップを行うのは、そのためです。

 

 

 

\ 北居先生が実践する / 

ワークショップ4つのステップ

・ 一人30分発表し、お互いを理解し、承認しあう。

・ 自分たちがやりがいを感じる要素を明らかにする。

 

 

・ 理想の組織とはどんな視点を持ち、どんな働き方をしているか、目指す方向性を明らかにする

・ ポスターや寸劇を通じて発表する

 

 

 

例)写真展を開く、山登りをする、挨拶をする、ミーティング時にグッドニュースから始める、など

 

 

 

これは、アプリシエイティブ・インクワィアリー(Appreciative Inquiry)という組織開発の手法のひとつで、病院、自治体、学校、企業、夫婦やカップルのセラピー、DVやアルコール依存症の治療などにも使われています。Appreciativeは「質問する」、Inquiryとは「価値を見出す」という意味。1980年代のアメリカで開発された手法で、私たちは略して「AI」と読んでいます。

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
先生が担当された病院での効果はどうだったのですか?

ある急性期の病院で5年間毎年3日間ずつ、看護師へのワークショップを行いました。急性期病院なのでものすごく仕事がきついんですが、5年で辞める人がゼロになりました。インターンでは、ここで働きたいという看護学生が増えたそうです。
北居先生
北居先生

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
1年で3日間だけなのに!?一体、何が変わるんでしょうか?

人々の考え方ですね。自分たちの弱みよりも可能性に注目するようになると、まず人間関係がよくなります。自分の仕事だけでなく周りも見えるようになるので、相手のことを認め、互いにリスペクトしあえるようになるのでしょう。
北居先生
北居先生

 

 


組織改善の例【建築会社の場合】


 

1億円の赤字となり、組織改善を依頼

 

 

ワークショップでお互いの長所を探すアプローチを実施。

会社をよくするための施策をグループで議論。

 


 

施策① 現場の写真展を開催

各部署が担当した現場写真を集めて写真展を開催。
それぞれのノウハウのシェアにつながった。

 

施策② 頂点を目指して山登り

「業界のてっぺんをめざす」をテーマに各地域の一番高い山に登ることに。
会社以外での交流の機会が生まれ、自然と部署ごとに競争が始まり団結力や信頼関係が深まった。

 


 

2年後、2億の黒字化を実現

 

 

【 業績がアップした理由 】

 

⚫︎元々一人ひとりが誇りを持って働いていた。
そこにチームワークが加わり、強い組織に。

 

⚫︎気軽に話ができる関係を構築。
部署間の連携がスムーズになり、需要の取りこぼしが減った。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

組織改善で先生がいちばん

大切にしていることは何でしょう。

 

 

 

北居先生

 

どんな状況でも可能性を探すことを諦めない

組織の人たちに問題点を聞くと絶望的な気持ちになることもありますが、同じ人にやりがいや働きがいについて聞くと、みなさんいきいきと喋るんですね。つまり、そっちの方がはるかに明るい気分になるし、次にどうすればいいのか「次の手」が見つかる。ですから、私は、どんな組織であっても、改善できる可能性を見つけることを諦めないようにしています。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

私たちが個人として

何かできることはありますか?

 

 

 

北居先生

 

彼氏と別れそうになっていた学生が、初デートの場所に二人で行ったら仲が戻ったという話をしてくれました。ラブラブな時の気分に戻って、どんなときに楽しかったのかを思い出すことができたんですね。また、子育てにも有効です。例えば子どもに「なんで勉強しないの?」と聞くと、子どもは「否定されている、理解されていない」と感じます。「どんなときにやる気が起きる?」と質問されると「やる気が起きない気持ちを理解してもらえている、理解しようとしてくれている」と思う。このように、どんな質問をするのかがとても重要です。とはいえ私も学生たちを前にすると、「なんで課題を出さんのや?」となりますが(笑)。

 

この手法はチームビルディングにも使えるので、私のゼミでは最初に「どんなゼミにしたいのか」を自分たちで話し合いをさせるようにしています。こうしたマインドセットを持っておくと、先輩と後輩、上司と部下、夫婦、友だち同士の関係の中でコミュニケーションがスムーズに運ぶと思いますよ。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

人は一人では完結できない。

人とのコミュニケーションが私たちの世界を作っています。

コミュニケーションをうまくデザインして

「働きがい」や「やる気」を引き出していきましょう。

 

 

今回お話しを聞いた人
経営学部 経営学科 教授 北居 明

1967年滋賀県長浜市生まれ。1990年滋賀大学経済学部卒業。1995年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)取得。大阪学院大学経営科学部専任講師、助教授、大阪府立大学経済学部教授等を経て、現在、甲南大学経営学部教授。

よかった記事には「いいね!」をお願いします