持続可能な地域づくりの救世主?
地域で台頭するソーシャル族
地域で台頭するソーシャル族
都市への一極集中や高齢化により疲弊するローカルエリア。地方創生が叫ばれる中、若者たちが地方へ移住し、地域課題を解決するためにさまざまな活動を繰り広げています。彼らはなぜ、地方を目指すのでしょうか。そして、彼らの活動は持続可能な地域づくりへつながるのでしょうか。今回は、地域で活動する彼らを「ソーシャル族」と名付け、調査・研究している甲南大学文学部社会学科の阿部真大教授に、ソーシャル族が現れた背景や、彼らの活動の特徴などについてお話いただきました。
KONAN-PLANET 記者
阿部先生、本日はよろしくお願いいたします!
先生は「ソーシャル族」について調査・研究されていますが、
彼らはどういう人たちなのでしょうか?
阿部先生
「ソーシャル族」とは私が名づけたもので、地域課題を解消するために、コミュニティづくりや居場所づくりをしている人たちです。彼らの大半は、IターンやUターンの移住者です。おしゃれな格好をしていて、学歴が高く、話もうまい人が多い。こういう人が、日本中の地方で活躍しています。
地方は、クリエイティビティを試せるフロンティア
KONAN-PLANET 記者
ソーシャル族は、地方で活動をする前は
何をしていたのでしょうか?
阿部先生
都市でクリエイティブな活動をしていた人が多い印象です。中には、当時から注目されていた人もいます。ですから、そういう人が地方に拠点を移すと、「あの人は面白い活動をするから行ってみよう」という、人が人を呼ぶ現象も起こっています。行政の人が単に「若い優秀な人、来てください!」、「地域を盛り上げてください!」と叫んでも、なかなか若者は集まらない。やはり、人が大事なんだと思います。
KONAN-PLANET 記者
ソーシャル族は、若者が中心でしょうか?
阿部先生
30~40代前半くらいが多い印象です。私と同じ団塊ジュニア世代(40代後半~50代前半)で「社会課題を解決したい」と言っていた人は、海外青年協力隊などに参加して、海外で社会貢献していた人が多かったように思います。今は海外志向というよりは、国内の地方に目を向ける若者が増えています。
KONAN-PLANET 記者
海外と国内、行き先は違いますが、目的は社会貢献ですか?
阿部先生
もちろんそれもあると思いますが、自分のクリエイティビティを自由に試せるフロンティアとして、地方に目を向けているように思います。というのも都市部では、彼らよりも上の世代が権力を握っているので、ソーシャル世代が力を発揮できる場が少ない。現在の日本企業で起こっている問題と似ていますね。だから、才気あふれる若者は、都市に見切りをつけて地方を目指すようになったのだと思います。
きっかけは3.11だった
KONAN-PLANET 記者
ソーシャル族の出現は、
何がきっかけだったのでしょうか?
阿部先生
2011年の東日本大震災だと考えています。というのも、地方で活躍する人たちにライフヒストリーに関する聞き取り調査をすると、「3.11が大きな転機だった」と語る人が結構多いんです。なぜ、私と同世代が少ないのか疑問だったのですが、考えてみたら、3.11が起こった時、私は30代の半ばで仕事をして、結婚についても考えていました。一方、ソーシャル族は当時20~30代のはじめくらい。所帯を持っていない人が多いから、比較的動きやすかったんではないでしょうか。「仕事を辞めて、東北でボランティア活動に励んでいました」という語りはよく聞きます。そうした活動を通して地域課題に目覚め、地方に目を向けるようになったのだと思います。
KONAN-PLANET 記者
元々、ソーシャル族には、地域課題を
クリエイティビティで解決したいという思いがあって、
それができる場所が国内にあると気づいたのが、3.11だったと。
阿部先生
はい。別に海外に行かなくても、課題なんて日本国内にわんさとある
じゃないか、と気づいたきっかけが、3.11だったんだと思います。
KONAN-PLANET 記者
ただ、「地方の課題解決をするんだ!」と意気込んでも、
現地に仕事がなければ生きていけませんよね。
彼らはどうしたのでしょう?
阿部先生
その点に関しては、過度な東京一極集中に歯止めをかけようとする国の政策が大きいと思います。各自治体の委託を受け、地域協力活動をする「地域おこし協力隊」の制度はそのひとつです。2000年代の終わりくらいから本格化しはじめた地方創生を目的とするこうした政策と、地方に目を向けはじめた若い人たちの思いがバシッと合致しました。ローカルクリエイティブの活動は、行政が後押ししているので広まったという面もあると思います。
ソーシャル族は地元青年会の役割を担う?
KONAN-PLANET 記者
地方で活躍する若者の多くは昔、
青年会(青年団)のようなところに入って活動していましたよね。
彼らと同じ世代のソーシャル族は、
その代わりを担っているのでしょうか?
阿部先生
機能的には共通するところは多いと思います。でも、これまでの地域社会の青年会が地縁的な共同体を大切にするのに対し、ソーシャル族は新住民的な感覚で、グローバル志向が強い。彼らは地縁に頼るだけではなく、新しいテクノロジーやアイデアを使いながら、地域社会のあり方をアップデートしようという志向性が強いと思います。地域のコミュニティが機能不全に陥っている今、新しいコミュニティ作りは急務です。そこに、ソーシャル族が入って、地域社会を引っ張りはじめています。おそらく、彼らの中から将来を担う政治家も多く輩出されるのではないかと思っています。
ソーシャル世代の活動は、
第2・第3世代に受け継がれるのか
KONAN-PLANET 記者
ソーシャル族は熱心に活動されていますが、
それは彼らがその地域が好きで思い入れがあるからでしょうか?
阿部先生
むしろ、クリエイティビティを発揮し、地域課題を解決することに喜びを見出しているという印象を受けますね。ですから、彼らの多くはいろいろな地方で仕事をしているんですよ。それを私たちは「トランスローカル」な活動のあり方と呼んでいます。世界中でいろいろな仕事をするグローバルエリートのように、ソーシャル族も国内を飛び回っている。それは「ここに骨を埋める!」というような、いわゆる「地元愛」とは異質なものだと思います。外の視点を取り入れて常識を打ち破って、地域社会を活性化するのが彼らの役割なのです。
KONAN-PLANET 記者
そうした活動を継続するには、
次世代に引き継がれることも重要だと思います。
先生の学生さんや、今の20代は
ソーシャル族の活動に関心を持っていますか?
阿部先生
はい。近年、いろいろな大学にコミュニティ系の学部が設立されて、ソーシャルビジネスやコミュニティづくりがカリキュラムに組み込まれるようになっています。現在、それらの大学で勉強した学生が、地方に行きはじめていますね。そこで影響力のある人に出会って、「僕も、私もやってみよう!」と感化され、活動を継承、発展させているのが、第2世代の特徴です。
KONAN-PLANET 記者
ロールモデルがいれば、
その活動が受け継がれる可能性は高いと。
阿部先生
そうですね。モデルとなる成功者がいるからこそ、文化は引き継がれます。実は、同じことはかつての「暴走族」にも言えたと思います。なぜ、暴走族が少なくなったかというと、先輩が魅力的じゃなくなったという要因もあると思います。昔は、暴走族のOBは、暴走族を引退した後は結婚して子どもをつくって家庭を築いて…、と後輩が見本にできるようなライフスタイルを実現していました。だから、若い人たちも暴走族に入ったんです。分厚い中間層が崩れていくと、そのようなライフコースを歩むことが難しくなるので、「かっこいいOB」も少なくなっていく。そうすると、文化が継承されにくくなって、衰退していったのだと思います。
KONAN-PLANET 記者
ロールモデルとなるような人が活躍している間は、
ローカルクリエイティブの文化の継承・発展は安泰ですね。
阿部先生
その意味でも、私は、ソーシャル族の第1世代が40~50代になったらどうなるのか、注目しています。新しい町づくりのアクターとして、ローカルクリエイティブの文化を根づかせ、広めていくのか、はたまた、一過性のものとして終わらせてしまうのかは未知数です。私は彼らが年を重ねても今のような活動を続けることで、こうした文化が根づいてほしいと思っています。
KONAN-PLANET 記者
疲弊する地域社会を、
クリエイティブでよみがえらせようと
活動しているソーシャル族に、
日本のポテンシャルを見たような気がしました。
彼らが明るい未来を
つくってくれることを期待しています。
阿部先生、本日はありがとうございました。
- 今回お話しを聞いた人
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甲南大学 文学部 社会学科 阿部真大教授
2000年3月東京大学文学部社会学卒業、2007年東京大学人文社会科学研究科社会学博士課程単位取得満期退学。2009年甲南大学に着任。講師、准教授を経て2018年より現職。労働社会学、家族社会学、社会調査論を専門とし、近年は地方の若者を調査・研究。著書に『地方にこもる若者たち:都会と田舎の間に出現した新しい社会』、『「地方ならお金がなくても幸せでしょ」とかいうな!:日本を蝕む「おしつけ地方論」』(朝日新聞出版社)、などがある。