あたらしい世界が見たい
415㎞レースの覇者となっても続く挑戦

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2023.9.21
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日本海富山湾をスタートし、北アルプス、中央アルプス、南アルプスを経て、

太平洋側の駿河湾を制限時間8日以内に走破する

「トランス・ジャパンアルプス・レース(TJAR)」。

2年に1度だけ開催されるこの過酷なレースで2022年、

卒業生の土井陵さんが新記録で優勝しました。

普段は消防士として勤務しながら、

トレイルランナーとして数多くのレースで活躍する土井さんに、

TJARやトレイルランニングのこと、

そして走り続けることへの思いを語っていただきました。

 

 

 

What’s

TJARとは

 

日本海側からアルプスを越え、
太平洋まで走り続けるTJARで優勝

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

お忙しい中、ありがとうございます。本日は、よろしくお願いいたします。

 

 

土井陵さん

 

よろしくお願いします。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

まずは、2022年8月に行われた「トランス・ジャパンアルプス・レース(TJAR)」での優勝、おめでとうございます。
大会記録を6時間以上更新されたそうですね。TJARとはどんなレースなのでしょうか?

 

 

ⓒDoryu Takebe

富山県魚津市から静岡県静岡市まで、約415㎞を制限時間192時間(8日)で走破する山岳耐久レースです。途中、北アルプス、中央アルプス、南アルプスの山々を走るので、累積標高差は27,000mにもなるんですよ。
土井陵さん
土井陵さん
 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
そんな長距離を走るなんて想像がつきません…。
 

そうですよね。しかも、レース中はサポートが一切受けられないんですよ。荷物の持ち運びや食事の用意、テントの設営などはすべて自分で行うので、体力だけでなく技量も求められるレースですね。
土井陵さん
土井陵さん
 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
過酷なレースですね!土井さんにとって、TJARの面白さは何でしょうか?
 

たくさんあります。まず、アルプスを越えて400㎞を走破するという常識を超えるようなレースを体験できることは、TJARの面白さのひとつです。また、大自然の中で過酷な状況を乗り越えるというミッションをクリアするのも楽しいですね。いわば、壮大なゲームのようなものです。
土井陵さん
土井陵さん
 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
体を動かすリアルなゲームですね。ミッションをクリアするために、重要なことは何でしょうか
 

準備と工夫で、パフォーマンスを高めることでしょうか。雨や雪、雷や霧といった気候の変化に対応できるような装備は必要ですが、たくさん持って行くと重くなってスピードが落ちてしまいます。何を持って行けばいいのか、取捨選択を考えるのは楽しいです。自分で計画して準備して、トレーニングするという基本的な部分は登山と同じだと思っています。小さい頃からの登山経験を生かせるスポーツですが、TJARはかなり度が過ぎていますね(笑)
土井陵さん
土井陵さん
 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
あまりにもハードなので1回出たら満足しそう…。また、挑戦したいと思いますか?
 

はい。TJARは2年に1回なので、できれば来年も出たいです。優勝できればもちろんうれしいのですが、連覇するより、前回の反省点を踏まえてもう一度走りたいという気持ちが強いです。もっと工夫すれば効率的に走れたな、と思うところがたくさんありましたから。
土井陵さん
土井陵さん
 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
勝っても負けても、前回できなかったところがクリアできたらいい、と?
 

ⓒDoryu Takebe

 

 

 

そのとおりです。走ってみてわかったのは、TJARは優劣を競うだけのスポーツではないということです。もちろん順位はつきます。でも、独りで何日も走るので自分の内面と対峙する時間が長く、自分の限界を知ったり、過酷な状況の中で新しい自分を発見したり、ということが多いんです。そこは、他の競技にはないTJARの面白さです。
土井陵さん
土井陵さん
 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
現代生活ではそうした時間を持つことも難しいですよね。
 

そうですね。ですから、TJARは自分を顧みて自己成長できる機会だと思っています。レースに出場した30人のランナーの間に、お互いをライバル視するようなピリピリしたムードがなかったのは、各自が挑戦者として自分自身と戦っているからではないでしょうか。距離の長いレースほど、勝ち負けへの執着は薄れていくように思います。
土井陵さん
土井陵さん
 

 

 

 

トレイルランニングとは

 

 

海外の大会で、新しい景色、人、文化に触れる

 

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
TJARは、トレイルランニングの大会のひとつなのでしょうか?
 
TJARとトレイルランニングはまったく別物です。トレイルランニングは、3~5㎞の短い距離のレースから、100㎞を超える大会までさまざまなカテゴリーがあります。基本的にたくさんの荷物を持つ必要はなく、長距離のレースでは、マラソン大会のように水や食べ物の補給ポイントがあります。そこは、TJARとは違う点ですね。
土井陵さん
土井陵さん
 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
トレイルランニングのレースにはよく出場されているのですか?
 

毎年、メインで2大会、その他、国内外の大会に年間10回前後出場しています。コロナ禍でしばらく大会に出られなかったのですが、コロナが落ち着いた2022年には、タイのチェンマイで開催された大会に出場しました。
土井陵さん
土井陵さん
 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
大会が復活したんですね。今年はどのレースに出場される予定ですか?
 
9月にイタリアで開催される「TORDES GEANTS(トルデジアン)」という330㎞の超ウルトラトレイルレースに出場します。過去のレースの反省をクリアしたいという思いもありますが、やはり新しい世界を見たいんです。ですから毎回、違う場所で開催されるレースに出て、新しい景色を見て、新しい人に出会って、現地の文化に触れたいと思っています。レースには旅行感覚で参加していますが、観光客が行かないような場所を走れるのは、トレイルランニングの醍醐味ですね。
土井陵さん
土井陵さん
 
※「 トルデジアン(330km/イタリア)」に出場した土井さんが、日本時間9/14(木)に88時間20分44秒でゴールしました!男子17位、総合19位で、日本からの参加選手の中では最初の完走者となりました!お疲れさまでした!

 

はじめたきっかけ

 

 

練習すれば、30歳を過ぎても成長できる

 

KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
トレイルランニングを始めたきっかけは、何だったのですか?
消防署対抗の駅伝の練習をしていた時、みんなで丹波篠山ABCマラソンに出ることになったんです。30歳を過ぎて初のフルマラソンで、練習もちょっとしかしていなかったのに、結果は一般の部で3位。もっと練習すれば、もっと速く走れると手応えを感じました。ただ、マラソンは冬のスポーツなので、春になると練習の成果を試す機会がなくなっていきます。そんな時、同僚に教えてもらったのが、山を走るレースだったんです。
土井陵さん
土井陵さん
 
KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
それがトレイルランニングとの出合いですね!
はい。それからは、トレイルランニングとマラソンの練習を兼ねて、山を走るようになりました。
土井陵さん
土井陵さん
 
KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
山を走ってみてどうでしたか?
町中と違ってアップダウンが激しく、自然の中で運動するのはすごく気持ちがいいと思いました。小さい頃から山が好きだったので、山でトレーニングするのは楽しかったです。その練習をちょっとして、兵庫県神鍋で開催された42㎞のトレイルランニングのレースに参加したら、優勝してしまったんです。
土井陵さん
土井陵さん
 
KONAN-PLANET 記者
KONAN-PLANET 記者
なんと! 初挑戦で優勝とは、すごいですね!
ありがとうございます。30歳を超えても、成長できるうれしさを感じました。それまでは、バスケットボールをしていましたが、体力も反応も落ちて、思った通りのプレーができずモヤモヤしていたんです。そんな中で出合ったトレイルランニングで成長できたのは、新しい発見でした。
土井陵さん
土井陵さん

 

普段の仕事(消防士)や、大学時代を振り返って

 

 

バスケで培った体力とチームワークを消防士の仕事で役立てたい

 

KONAN-PLANET 記者

 

ずっとバスケットボールをされていたとのことですが、

甲南大学でもバスケをされていたのですか?

 

 

土井陵さん

 

はい、大学の思い出といえば、体育会バスケットボール部の活動です。

バスケをするために大学に行っていたようなものです。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

ひょっとして、キャプテンをされていたとか?

 

 

土井陵さん

 

はい、一応、キャプテンをしていました。ただ、大学2年次に大きな怪我をしてしまったので、試合でバリバリ活躍するタイプのキャプテンではありませんでした。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

部活メインということは、ご友人もバスケ部のメンバーが多かったのですか?

 

 

土井陵さん

 

そうですね。文学部に知り合いはほとんどいなかったです。学業面で記憶に残っているのはゼミです。新設のメディア関係のゼミで、ゼミ生は4人しかいませんでした。レポートを提出すると、いつも先生に「書き直しなさい」とダメ出しされてましたね(笑)。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

そうした学生生活を経て消防士になられたのは、部活の影響が大きいのでしょうか?

 

 

土井陵さん

 

はい。部活ではチームワークを培い、身体も鍛えたので、それらを生かせる仕事に就きたいと思いました。また、人の役に立ちたいという思いもあったので、消防関係以外は志望していません。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

現在は、どのような業務をされているのですか?

 

 

土井陵さん

 

2023年4月から、119番通報を受け付けて各部署に指令する部署で朝9時から翌朝9時まで24時間勤務しています。それまでは現場にいましたが、今は現場に出る人たちを見守る立場です。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

24時間勤務とはなかなかハードですね。そのような勤務体制で、いつどんな練習をされているのですか?

 

 

土井陵さん

 

休みの日は山を走っていますが、普段は出勤前と帰宅後に、1周3㎞ほどの公園のランニングコースを走るのを日課にしています。これはもう、ルーティンというよりライフワークのようなものです。

 

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

どれぐらい走るのですか?

 

 

土井陵さん

 

毎日、15~20㎞ぐらい走っています。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

仕事の前後にそんなに走れるなんて、さすが覇者です!ところで、消防士の仕事とトレイルランニング、それぞれの知識や経験が相互に生きていると感じることはありますか?

 

 

 

 

土井陵さん

 

消防士は、阪神淡路大震災や東日本大震災といった大規模災害や、交通事故で人が壁に挟まれているといった、あらゆる状況を想定して訓練します。そして訓練を振り返って、その反省を災害で生かせるよう備えることは、消防士として刷り込まれています。これは、天候によって状況が大きく変わる山の環境を想定して備える登山やトレイルランニングにも共通しているかもしれません。

 

 

トレイルランの普及活動

 

 

トレイルランニングで挑戦する楽しさを知ってほしい

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

トレイルランニングでの目標は何でしょうか?

 

 

土井陵さん

 

まだ出たことのないレースに出続けて、現地の景色や文化を楽しめたら、と思っています。100マイル(160km)は好きな距離ですし、100マイルのレースはトレイルランニングの大会では一番距離が長いので、そこに照準を合わせてトレーニングをしていこうと考えています。もっと速く走りたいという目標はありませんが、年齢性別問わず、この競技の魅力や、挑戦する楽しさを多くの人に知ってほしいという思いはありますね。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

そのために、何か活動されているのですか?

 

 

 

 

土井陵さん

 

実は、5人の仲間と一緒に、レースなどのイベントを企画する「BAMBI100」を立ち上げたんですよ。トレイルランニングの距離はさまざまですが、私たちが企画するのは、もっともリスペクトされ注目されている100マイルのレースです。100マイルは、速く走れる人もゆっくり走りたい人も、気軽に挑戦できる距離です。多くの人に参加してもらい、日々の生活や人生をより豊かにしてもらえたら、と思っています。BAMBI100で企画するイベントでは順位をつけず、制限時間だけもうけています。年1回の開催を継続したいと思っています。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

レースで優勝して、イベントを企画して。職場の方々は、土井さんの活躍をどのように受け止めておられますか?

 

 

土井陵さん

 

テレビで何度か紹介されたので、職場の方々は私がトレイルランニングをしていることを知ってくれていると思います。でも、特別扱いをされることはありません。私も仕事に影響が出ないよう、プライベートの時間を使って楽しんでいます。スポーツウエアブランドのノースフェイスさんのチーム「ノースフェイスアスリート」に加入して、他の競技をしているトップアスリートとの交流も刺激になりますし、同社の商品に対してフィードバックするといったメーカーさんとのお付き合いも楽しいので、続けたいと思っています。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

公私ともにお忙しそう…。ご家族はご理解があるのですね。

 

 

土井陵さん

 

そこが一番の問題です(笑)。出勤日は24時間家を空けますし、休みの日は練習しているかレースに出ているので、だいたい家にいません。家族には、呆れられているというか、あきらめられているというか…。でも、否定はされていないと思います。おかげで、人生を楽しむことができ、毎日充実しています。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

うらやましいです!今後のますますのご活躍を楽しみにしています。

本日はありがとうございました。

 

 

 

「30歳を過ぎても、挑戦すれば成長できる」と言う土井さんに、

勇気をもらった人は多いのではないでしょうか?

人生100年時代の今、時間はたっぷりあります。

充実した人生を過ごすためにも、記者も何かに挑戦したいと思いました!

 

今回お話しを聞いた人
消防士・トレイルランナー
土井陵さん

2004年、文学部社会学科卒業。大阪市消防局に入局し、現在は警防部司令課で指令管制の班長任務にあたる。30歳を過ぎて始めたトレイルランニングで頭角をあらわし、2014年「ULTRA-TRAIL Mt.FUJI」で総合15位、日本人3位にランクイン。以降も国内外のさまざまなレースですばらしい成績を残し、注目される。THE NORTH FACEアスリートチームメンバー。

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