言語が121もあると、どうなる?
インドに見る素晴らしき多様性の世界
インドに見る素晴らしき多様性の世界
日本に「日本語」があるように、インドには「インド語」が・・・ないんです!
世界一人口の多い国、インドは多民族国家であり、
2011年の国勢調査では、121もの言語が確認されています。
多言語によって、どのような違いが生まれ、
どのような文化が生まれているのか。 人びとは、それをどう受け入れているのか。
文化人類学を専門とし、インドの文化に詳しい文学部社会学科の松川恭子先生に、
インドの豊かな多様性についてお聞きしました。
研究内容とインドの多言語状況
KONAN-PLANET 記者
今日はよろしくお願いします。
松川先生
よろしくお願いします。
KONAN-PLANET 記者
松川先生は文化人類学の専門家であり、
インドの多言語状況にも詳しいと伺いました。
松川先生
文化人類学の面白さというのは自分が異文化に身を置くことで、さまざまな価値を体験し、自分を振り返ることにあります。私はインドに興味を持ち、インドに渡りたいと思ったのですが、いきなりインドに行くのは両親に許してもらえないと思い(笑)、まずはイギリスに1997年から2000年の2年半留学。その後、文部省(当時)から奨学金をもらって、インドのキリスト教文化を研究するためにインド西部にあるゴア州に2000年3月末に渡航しました。
文字もこんなに違うんです!
ヒンディー語 (連邦が定めた公用語。話者数5億と圧倒的に多い)
ベンガル語(バングラデシュとインドの西ベンガル州で使われる)
マラーティー語(マハーラーシュトラ州、ムンバイのボリウッドが有名)
テルグ語(南東部のアーンドラ、プラデーシュ州、テランガナ州)
タミル語(タミルナードゥ州、南アジアや東南アジアでも使われる)
出典元:ウィキペディア
インドの文化は深い
ヒンドゥー教徒が8割、多彩な宗教が共存
宗教で見るとヒンドゥー教徒が最も多く、インドの人口のおよそ8割を占めています。続いてイスラム教徒は15%、キリスト教徒は2%くらいで、わずかですが仏教徒もいます。授業でもよく「多様性のなかの統一」と言っていますが、これだけバラバラの要素を持ちながら、ひとつであり続けることの不思議さを、インドにはいつも感じます。
メディアもエンタメも、多言語が当たり前
使う人が少数の言語であっても、テレビや新聞などのメディアがそれぞれの土地の言葉で産業化されています。文学活動や演劇、映画産業も同じように多言語で発達しているのも面白いポイントです。私が学んだゴア州は現在人口150万人くらいと少ない方ですが、それでも年間に5本くらいの映画がコーンカニー語で作られています。南部のタミルナードゥ州で使われるタミル語は、何千万人もの移民が南アジアや東南アジアに住んでいるため、インド国外で視聴する人も多く、映画制作もさかんです。
これまで、西部のムンバイで制作されるボリウッド映画が世界中で人気を集めていたが、ここ5年くらいで変わってきたと松川先生。テルグ語で作られた『バーフバリ』シリーズ2作が世界配信され人気となるなど、南インドの言語で作られた映画がインドや世界を席巻するようになってきたという。最近、日本でも話題になった『RRR』も元々はテルグ語による制作。ヒンディー語やタミル語などに吹き替えられ、インド全土で上映された。
インド人は違いを受け入れられる
KONAN-PLANET 記者
多言語や様々な文化が渦巻くインドですが、
人々はどのように暮らしているのでしょう。
多言語も自然に使い分けるインドの人たち
松川先生
インドでは、公用語である現地語と英語が話せる人が多いですが、加えてもう一つの言語を使う人もいます。なので、州が違ってもコミュニケーションは比較的スムーズ。例えば、バンガロールに住む友人の話をすると、両親がタミルナードゥ州出身なので実家ではタミル語、自身はバンガロールで育ったのでカルナータカ州のカンナダ語を、ゴアの大学で勉強したのでコーンカニー語も話します。結婚相手はケーララ州出身でマラヤ―ラム語。では、二人ではどの言語で話すかというと、結局、英語で話しているそうです(笑)。
KONAN-PLANET 記者
なんと!混沌としていますね!
日本に住む私たちには想像もできません・・・
松川先生
そうですよね。言語も違えば文字も違いますし、どうやって使い分けているのか、日本人から見るとかなりややこしそうに見えます。でも、インドの人たちは、自然に使い分けています。自分に置き換えて考えてみると、私たちも場所によって言葉使いが変わることがありますよね。家でリラックスして話す言葉と、外に出てオフィシャルな場で話す言葉は少し違う。実家に帰って両親と話す言葉もまた違います。インド人が言葉を使い分ける感覚は、意外と理解できる部分があるのではないでしょうか。
違いを探りあいながら、お互いに認めあう
松川先生
宗教の面でいうと、クリスマスにはキリスト教徒がヒンドゥー教徒にお菓子を配りますし、ヒンドゥー教のガネーシャ祭ではヒンドゥー教徒がキリスト教徒の人たちにお菓子をおすそ分けします。いろいろな人たちがいて、お互いに違いを探り合いながら、「お互いにそういうものだね」と思いながら生活をしている。そうした状況も、インドの「多様性のなかの統一」のひとつのように思います。
文化人類学とは
KONAN-PLANET 記者
インドの多様性、知れば知るほど面白いですね!
文化の違いを知ることは、私たちにどういうメリットがあるのでしょう。
松川先生
文化人類学の目的は、どうすればみんなが住みやすい社会をつくれるか、を考えることにあります。価値観や文化、食の習慣など、バックグラウンドが違う人たちの生活習慣を知り、「違いはあるが、お互いに考えて、工夫して、ものごとを動かしやすいようにしていこう」と考える。それが、文化人類学です。日本に住む外国や留学生が住みやすくするにはどうすればいいかを考えることも、そのひとつです。文化人類学を学ぶと、自分と立場が違う人がどういう生活をしているか想像できるようになります。どの社会でも、いろいろな立場の人たちが生活していますから、ふだんの生活の中でも文化人類学の考え方が、きっと役に立つと思いますよ。
KONAN-PLANET 記者
松川先生は国際交流センターの所長もされています。
留学したい人や新しい言語を学びたい人に
メッセージをお願いします。
「まず、やってみて!」と言いたいです。
発音が不安という人もいますが、スキルよりも、
相手に「何を伝えたいか」という熱意の方が大事です。
インド人は公用語の
アクセントそのままで英語を話しますし、
私も日本語のリズムで英語を喋っているなと思います。
発音も自分の個性と思って、まずはチャレンジしてください。
でも、語学は継続と我慢が必要!
それを、忘れないでくださいね。
- 今回お話しを聞いた人
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甲南大学 文学部 社会学科 松川恭子 教授
大阪大学文学部日本学科卒業、同大学院人間科学研究科博士課程修了、博士(人間科学)。専門は文化人類学、南アジア地域研究。奈良大学社会学部を経て、2016年より現職。2021年より国際交流センター所長。インド西部ゴア州をフィールドに多言語状況の調査中に湾岸アラブ諸国に移民した人たちの話を聞き、アラブ首長国連邦・クウェートでの調査を開始。趣味は家で飼っている手乗りのセキセイインコと遊ぶこと。最近のインド映画だと話題の「RRR」がお勧め。