【世界で開発戦争、勃発!?】
日本のお家芸・素材開発で再び世界をリードできるか。

みんなの「世界」をおもしろく > スタディー
2021.7.20
よかった記事には「いいね!」をお願いします

私たちの生活に欠かせない、電気。

部屋を明るくする照明も、快適な室温にする空調も、リモートワークで必須となったパソコンも、全て電気がなければ使えません。中でもタブレットやスマートフォンといったモバイルデバイスは、電気を蓄えておくバッテリー(蓄電池)の存在が欠かせません。

今回は、その「電池」に関するお話です。たかが電池と侮るなかれ!いま、次世代畜電池の研究開発が世界で激化しているのをご存じでしょうか?世界で最もホットなキーワードの1つ「次世代蓄電池」の「いま」を覗いてみましょう。

 

 

世界のホットワード「次世代畜電池=全固体電池」とは?

注目を浴びている次世代畜電池の「全固体電池」を知ってますか?現在の主流のリチウムイオン電池に比べて熱に強く、大幅な小型化や急速充電が実現できるなどのメリットがあり、電気自動車(EV)の開発を加速させるとして各国で開発が進められています。

 

「全固体電池」は脱炭素社会の切り札!?

では、なぜ「全固体電池」が注目を集めているのか。そこには、地球の環境問題があります。ご存じの通り、「パリ協定」に基づき世界中でゼロカーボン(脱炭素化)への取り組みが推進されています。さらに、2021年5月、日本政府は「温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする」という目標を設定。日本の二酸化炭素の排出量の15%を自動車が占めることから、政府もEVの開発と普及を全面的に推進しています。化石燃料から再生可能エネルギーへ。この「エネルギーシフト」が、全固体電池の開発に拍車をかけているのです。

 

 

なぜ、世界各国が躍起になって開発するのか

 

世界中が競って技術開発を進める理由はもうひとつあります。それは、全固体電池が巨大な産業を創出する「ゲームチェンジャー」であるから。

多くの産業は化石燃料を資源とするエネルギーで成り立っています。そのほとんどを再生可能エネルギーに転換するには、全固体電池の存在はきわめて重要になるはずです。現在、世界の蓄電池の市場規模は8兆円ほどですが、2035年には、なんと20兆円に成長するという試算もあります。このビッグな市場を世界が見過ごすはずはありません。日本政府も国を挙げて研究開発を後押しし、蓄電池開発を世界をリードする産業に育てようとしています。

 

 

ゲームチェンジャーのカギを握るのは誰?

狙うべきは市場規模「20兆円」の新電池産業

日本の研究機関「NEDO」が始動!

先進的&革新的な蓄電池開発が現在進行中。

ところで、みなさんは「NEDO」という機関をご存じでしょうか。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、持続可能な社会の実現に必要な技術開発を推進し、イノベーションを創出する国立研究開発法人。次世代蓄電池にもいち早く注目し、2018年より「SOLiD-EV PROJECT」を立ち上げ、民間企業や公的研究機関と共に全固体電池の開発をスタート。2022年に車載用電池の本格実用化に向けて研究開発を進めています。その開発メンバーの一人として日々研究を重ねているのが、甲南大学理工学部の町田信也教授です。

 

 

町田先生

 

電池の素材開発の領域でNEDOに参加することとなりました。

 

 

実は、日本の電池開発技術は世界トップレベル。

蓄電池開発の研究において、日本は世界一といっても過言ではありません。吉野彰さんはリチウムイオン電池の開発に貢献したとしてノーベル化学賞を受賞しましたし、ソニーは世界に先駆けて1991年にリチウムイオン電池の商業化にいち早く成功。その翌年には本格的な量産をスタートさせました。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

畜電池の誕生には、日本の技術者やメーカーが

大きく貢献したのですね。

 

 

町田先生

 

日本は電池開発の先駆者ということに加えて、

現在も全固体電池の特許出願や論文の発表数が世界トップレベルなんです。

つまり、日本は世界をリードする高い技術を保有している。

それを、いち早く形にする = 実用化 させることが急務だと思います。

 

 

 

 

全固体電池って、どんなメリットがあるの?

私たちの知らないところで、開発競争が勃発している全固体電池ですが、一体なにがすごくて、私たちの生活にどのような恩恵をもたらしてくれるのでしょう。町田先生に聞いてみました。

 

 

町田先生

 

リチウムイオン電池は電解質溶液という「液体」を使用しているので

液漏れや発火などのリスクがあるんですね。

その点、全固体電池は、その名の通り「固体」で構成されていますから、

次のようなメリットがあります。

 

 

・高温に耐えられる・燃えにくい・液漏れしない = 『安全性が高い』

・高容量・エネルギー量が増える = 『コンパクトで強い』

 

 

事故が起きる確率が低くなることから、人体へのリスクも軽減しますし、

EV自動車へ搭載すれば、一度の充電で長距離運転が可能になります。

 

 


 

 

2021年、世界のTOYOTAが

全固体電池自動車の試作発表

 

TOYOTAが今年2021年に全固体電池を搭載した自動車を試作すると発表。電気自動車の代名詞となっている「テスラ」をも上回る性能で、モビリティ業界のゲームチェンジを図ると宣言しています。1回の充電で500km走行できる上に、充電時間はわずか10分といいますから、その性能の高さは素人でもわかりますよね。そんなEVが実現すれば、モビリティの世界は大きく塗り替えられるかもしれません。

 

 

実用化の未来が見えてきた「全固体電池」

“過去の失敗”を教訓にアップデートし続けることが重要。

ワクワクするような新しい時代の幕開けは目前!なのですが、日本は今世界のトップを走っていることに安心してはいけない、と町田先生は言います。

 

 

町田先生

 

技術開発は、常に一番を目指さなければいけません。

「なぜ二番ではいけないのか?」という人がたまにいますが(笑)、

そう思ったら後は落ちていくだけ。技術の進歩は生まれません。

技術はまさに日進月歩。

高い目標を掲げ、切磋琢磨し、投資を続けていくことが重要なんです。

 

 

1990年代、日本はリチウムイオン電池の世界普及に成功し高いシェアを誇ったものの、技術を公開したことで産業としては他国に追い越され、シェアを奪われるという結果に。全固体電池の実用化ではその二の舞を踏むことのないよう、初速で勝ったとしても慢心せず、常に技術のアップデートを重ね、産業として形にしていく必要がある、と熱く語る町田先生。高い技術力を発揮するだけではなく、産業として持続させるため全体像をデザインしていくことが、技術大国ニッポンの今後に必要なのではないか。全固体電池の最前線から、日本の産業の課題を垣間見たような気がしました。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

私たちが暮らす地球の未来をも左右する、

ニッポンの「全固体電池」にますます注目です!

 

今回お話しを聞いた人
甲南大学 理工学部 機能分子化学科 町田信也教授

大阪府立大学大学院 工学研究科 博士課程中途退学後、大阪府立大学 工学部助手を経て、1991年に甲南大学に着任し、現在、甲南大学 理工学部 機能分子化学科 教授。固体中のイオンの移動現象に興味を持ち研究を続けている。新規な固体電解質の開発や全固体リチウムイオン電池の研究に従事している。 <無機固体化学研究室> http://www.chem.konan-u.ac.jp/SSIC/

よかった記事には「いいね!」をお願いします